2019/11/10

日本の消費税増税はアメリカ=グローバル金融が決める

アメリカが仕掛けた米中貿易戦争の真っただ中、2019年7月1日にアメリカの経済学者、Panos MourdoukoutasがForbes誌にAmerica is trying to turn China into another Japan(アメリカは日本にしたことをチャイナにもしようとしている)という論説を書いている。「チャイナは日本ではない」が結論であるが、アメリカが日本に何をしたのかの説明を読むと、アメリカがんばれ、チャイナをやっつけろなどと無邪気に応援する気にならない。日本は今でもアメリカ=グローバル金融資本にやられっぱなしなのだから。

Mourdoukoutas 先生の話では、それは、Japan as number one とか言われて、日本が高度成長の絶頂にあった1980年代、レーガン政権のときに始まる。
1983年の11月、レーガン政権は日本の資本市場の開放と円の為替レートの引き上げについての話し合いを開始した。その努力は1985年9月のプラザ合意に導かれた。それと並行して、1985年のはじめに、市場志向型分野に影響の大きい交渉が2国間で開かれた。この話し合いは4つの特定分野(エレクトロニクス、医療機器、通信、薬品)の貿易摩擦をカバーした。1年後の1986年に両国はStructural Impediments Initiative (日米構造問題協議)の準備に向けたStructural Economic Dialogue(日米構造経済対話)の設立に合意し、特定製品の貿易問題を定期的に(6か月間)取り上げた。1988年に、米国議会はOmnibus Trade and Competitiveness Act(包括通商競争力法)を採択し、実質的に日米通商をワシントンのコントロール下に置いた。結局、日本はアメリカの要求に屈服する以外に選択肢はなかった。(筆者訳)
1985年9月のプラザ合意では、行き過ぎたドル高を是正するために、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、そして日本の先進5ヶ国が外国為替市場に協調介入することが合意されたが、それがバブルとその崩壊に始まる日本経済の低迷とさらなる対米従属、グローバル金融による浸食を許し、現在に至っている。

日本の消費税が3%から5%に引き上げられたことを受けて、マイケル・ハドソンは1996年に日本はなぜ借金大国になったか(後編)で次のような文章を書いている。
世界通貨制度の中で米国を資金援助するという役割を果たさなければならないがために、日本は消費税を3%から5%へ増税しなければならないのである。。。不動産バブルを引き起こした不動産および金融部門に対する課税を強めなければ、日本の消費税は15%まで引き上げざるを得なくなるであろうと試算されている。
日本の有権者は、大蔵省や与党がなぜ消費税増税を迫っているのか、その理由を理解すべきである。これは極めて重要なことなのだ。日本の歳出を補うために必要な税金を投資家が支払っていないために、消費者が代わって税金を払わなければならないのである。
野田政権が消費税増税(5%から段階的に10%まで上げる)にこだわった理由が、今一つはっきりしない。高齢化で増える福祉の財源として必要だというのが表向きの理由だった。税源は他にもあるのに、なぜ逆累進性の高い、消費税なのか。しかも、野田政権は解散(退陣)の条件として消費税増税にこだわり、自由民主党も消費税増税に賛成した。一つはっきりしているのは、法人税を下げた分を消費税で補う格好になっているということだ。これで得をするのは、企業から配当金を受け取る投資家たちである。しかも、いまや日本企業の株の50%近くを外国投資家、つまりグローバル金融が持っているといわれている。日本の企業を乗っ取って、日本人を搾取しようとしているのはルノーを所有するフランスばかりではないのだ。

1990年のバブル崩壊以後、日本はデフレに苦しんできた。デフレを脱却するには、金融緩和と、財政出動が必要だというのが大方の一致した意見のようだが、なぜか日本は緊縮財政を続け、公定歩合(金利)の引き下げで金融緩和を進める一方で、インフラ投資を縮小するという緊縮財政を続けただけでなく、消費税増税という形の金融引き締めも続けた。ほぼ20年後、2013年にようやくアベノミクスを掲げて第二次安倍内閣が発足し、財政出動と日銀による「異次元」の量的金融緩和が行われ、景気は一気に回復軌道にのったと思いきや、2年目からは財政出動も行われず、デフレ脱却が達成されていないにも関わらず、消費増税の5%から8%への引き上げも決行されて景気の腰が折れたままだ。2019年秋にはデフレが進行する中、さらに10%に引き上げられた。いったい何がこのような日本弱体化計画の一環としか思えない経済政策の背景にあるのか。

緊縮財政(小さな政府)について一つ知られていることは、それが、ワシントン・コンセンサスの一部であり、アメリカ(アメリカの金融界)がIMFと世界銀行を使って援助という名目のもと、開発途上国を食い物にするときに強要してきた政策の一つであるということだ。財政破綻して救済を受ける国に贅沢は許されないというのはいいとして、上下水道も、電気ガス、道路、通信、教育、等々、経済の発展に必要なインフラ投資や社会投資もだめだというのだ。そのような事業は民営化させて、その国の福祉ではなく私的な利益を追求するグローバル投資家の餌食にさせようというのである。もちろん、表向きの理由は、民間の活力を利用するとか、公営より民営の方が効率がいいからとかいうのがよく聞く理由である。誰のために効率がいいのかというと、民間の利益のためというのが行間に隠された理由である。公共事業なら利益や配当をよこせという投資家はお呼びではない。民営になると投資家の取り分だけ余計に料金を支払わされることになるのは小学生でもわかる構造である。それにも関わらず、アメリカのごり押し、あるいはいい加減なプロパガンダを許した世界というのはどうなっているのか、そして、それが批判されるようになって久しいというのに、今でも日本はワシントンコンセンサスの路線に沿った政策を取らされているのはなぜか、それが今早急に解明されなければならない大きな謎であろう。搾取という観点から見ても、黄金の卵を産む鶏を弱体化すれば取れる卵が減るのだから得策ではない。もっとも、略奪による富の蓄積を常套手段としてきた旧植民地宗主国はそのマインドセットから抜け出すことができず、今や宿主を殺してしまう寄生虫に例えられる存在となっていることを忘れてはいけない(Killing the Host - the book | Michael Hudson)


ウィキペディアを引用すると
ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)とは、国際経済研究所の研究員で国際経済学者のジョン・ウィリアムソンが、1989年に発表した論文の中で定式化した経済用語である[1]
この用語は元来、1980年代を通じて先進諸国の金融機関と国際通貨基金(IMF)、世界銀行(世銀)を動揺させた途上国累積債務問題との取り組みにおいて、ウィリアムソン曰く「最大公約数」とする、以下の10項目の政策を抽出し、列記したものであった。
  1. 財政赤字の是正
  2. 補助金カットなど財政支出の変更
  3. 税制改革
  4. 金利の自由化
  5. 競争力ある為替レート
  6. 貿易の自由化
  7. 直接投資の受け入れ促進
  8. 国営企業民営化
  9. 規制緩和
  10. 所有権法の確立

上記の10項目を見ただけでは、その一国の経済に対する影響をすぐに判断することは難しいかもしれないが、ワシントン・コンセンサスに関する日本大百科全書(ニッポニカ)の解説によると、
その骨格は(1)財政規律の回復と緊縮政策、(2)税制改革と補助金削減、(3)価格・貿易・金利の自由化、(4)規制緩和と民営化の推進など」であり、「ワシントン・コンセンサスは「安定化、民営化、自由化」を三本柱とする新経済自由主義、市場原理主義の政策イデオロギーの象徴として厳しい批判の対象とされるようになった。
とある。つまり、税金を取れるだけ取り、補助金も減らし、消費や生産を縮小した上で、貿易や金融を自由化して規制緩和と民営化でグローバル金融資本が乗り込んで利益をむさぼり搾取しほうだいにするということなのである。

ワシントンコンセンサスは最初はIMFや世界銀行を介してアメリカが低開発国を食い物にするための策略であったが、今では、日本はもとよりアメリカの一般市民に対する政策にも適用されている。

ちなみに、マイケル・ハドソンはアメリカが国際収支の赤字が続いて金の流出が深刻になり、1971年に金本位制を廃止したときに、国際収支の分析に関わっていた経済学者である。その翌年にマイケル・ハドソンが書いた暴露本『超帝国主義国家アメリカの内幕』(30年後に更新された第二版の原文はPDF版をダウンロードできる:Super Imperialism The Economic Strategy of American Empire)は対米従属を憂う日本人なら必読であろう。そして、対米従属を強いられているのは日本だけではないこともはっきりする。

超帝国主義国家アメリカの内幕』は2002年に出版されているが、ハドソン氏は1972年に第一版を出版、30年後の2002年に新しい情報を追加して第二版を書いている。英語版の説明によると、日本語版は英語版より先に出版されたが、第二版での変更を反映している。アマゾンの本の内容の説明には
「日本のバブルとその崩壊も起こるべくして起こった。アメリカの金融帝国主義を知らずに日本経済は理解できない!IMFと世銀を利用して、アメリカはどのように世界経済を操ったのか?アメリカに富を集中させる驚異の経済戦略の全貌がいま明らかに。米国の圧力で翻訳が中断された幻の名著、遂に登場。」
とあり、いわく付きの本である。ちなみに、第一版は世界各国で翻訳本が出版されたが、出版を邪魔されたのは日本語版だけだったようだ。日本人の英語力も随分と見くびられたものである。しかも、アメリカでは政府機関がこの本を大量に購入して、外交官や官僚たちに読ませたということである。日本ではどこかで、例えば大蔵省や日銀で海賊版が出回っていたという話がないとすれば、怠慢というしかない。

インターネットを検索してみたら、マイケル・ハドソンについて言及している人はあまりいないが、ビル・トッテン氏の耕助のブログの次のページにさわりの要約(1996年にハドソン氏と親交があるトッテン氏が日本人読者のために特別に書いてもらった)がある。日本の経済と税制がいかにアメリカの都合でゆがめられてきたか、そして、それが今も進行中であることがわかる。消費税増税がいかに日本経済の回復に悪影響を及ぼすかを議論しても無駄なのだ。すべてが、アメリカの都合で決められてきたことなのだ。そして、日本の政治家も財界もそれに抵抗してきた形跡がない。

No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)
No.74 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(前編)
No.75 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(後編)

他にも何人か書いている人がいる
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」
書評もある(日本語版は歴史的説明の部分をかなり落としているらしい)
歴史を通じて世界経済を考える書

マイケル・ハドソンの最近の発言の日本語訳はトークショーの翻訳という形で出ているものがある。
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2) 
マイケル・ハドソンの背景と観点については次の記事が役に立つ。
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる 


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