この考察を書いて投稿したのは、2020年の7月だった。それから4年が経った。今回の大統領選挙に関して日本から聞こえてくる声には、今は亡き安倍首相がトランプと上手くやっていたから、今度もトランプは日本に良くしてくれるに違いないと期待しているような声もある。とんでもない誤解である。安倍首相は、トランプのような人間をどう扱ったらいいかを知っていただけであろう。トランプとゴルフをした後のインタビューに答えて、トランプがゴルフのスコアを誤魔化してまで勝とうとしたと、呆れた様子だったのが印象的だった。 日本人が日本でどう騒ごうが何を言おうが、アメリカの大統領選挙には影響はないが、ドナルド・トランプという人間がソシオパス=反社会的性格異常という非常に危険な、一国の舵取りを預けるには、あまりにも危険な人間であることを指摘しているのが、彼の姪であったり、彼の本を書くために長時間いっしょに過ごしたゴーストライターであったりするのは見過ごせないことであり、日本の方々にもぜひ知っていただきたいことである。 ジョン・ボルトンのトランプ大統領暴露本に続いて、トランプ大統領の姪がトランプ家の暴露本を書いた。
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ワシントンポスト紙のブック・レビュー、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred.より |
Too Much - Never Enough:How my family created the world's most dangerous man(Mary L. Trump Ph.D. 著、過剰と不足: 我が一族はどうやって世界一危険な男を作ったか)は、身内のみが知るトランプ大統領の言動と脱税のからくりを、20年前に遺産相続で騙された姪の視点と臨床心理学者の視点から書いた本である。7月14日の出版に先立って報道陣に配布され、その本をRachel Maddowが真っ先に読破して解説した。大統領の弟が裁判所に本の出版停止を訴えているが、この期に及んでたいして意味がない。出版停止の理由は、遺産相続の時に同意した守秘義務に違反するからだそうだが、嘘で塗り固めた遺産相続の同意書になど効力はないというのがメアリーの主張だ。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
メアリー・トランプはトランプ大統領の兄の娘である。下の写真はトランプ大統領の兄弟姉妹(3男2女)で、中央に立っているのが長男でMaryの父親フレッド2世(メアリーが16歳の時に死去)である。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より |
メアリーがこの本を書いた動機は、本の副題「How my family created the world's most dangerous man (我が一族はどのように世界一危険な男を作ったか)が示唆しているが、下の一節は、メアリーがニューヨークタイムズの記者に協力する決意を固めたときの心の動きを説明している。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より |
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より |
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より |
MSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)より |
「フレッド(父親)がドナルドを破壊した。ドナルドが人間的感情の全領域を経験し発達させる能力を阻害し、世界観を歪め、その中で生きる能力を損なわせた。」つまり、ドナルド・トランプは父親によるEmotional Abuse(情緒的虐待)の犠牲者なのだ。ビジネスで成功するには「Killer」にならなければならないという父親が行ったスパルタ教育のトラウマから逃れるために、長男のフレッド2世はアル中になり、2男のドナルドは道化を演じ、無慈悲で攻撃的、威圧的な支配者として君臨した父親の言動を内面化して父親に認められようとした。しかし、トランプ大統領の傍若無人で攻撃的な外面のすぐ下には、今でも父親を恐れる幼い少年がいるという人もいる。
ワシントンポスト紙のブック・レビューでは、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred. (メアリー・トランプの暴露本では本当の悪者はドナルドではなく、フレッドだ)というタイトルで、父親フレッドが諸悪の根源と読めることが指摘されている。
トランプの本、The Art of The Deal のゴーストライターだったトニー・シュワルツ(Tony Schwartz)も、メアリー・トランプの本がトランプの性格の歪みとその原因を分析している点に注目している人の一人だ。The Art of The Dealを書くためにトランプと何百時間も一緒の時間を過ごしたから、トランプを間近で観察し、様々な角度から分析する機会のあった人間の一人だ。トランプを一躍有名人にしたこの本を書いたことを彼は後悔しているという(Wikipediaを参照)。トランプの次の本、The Art of The Comebackのゴーストライターも頼まれたが、断ったということだ。
メアリー・トランプの本を読むと、その仕事がメアリーに回ってきたことがわかる。もっとも、メアリーはトランプのいい加減な態度にあきれてゴーストライターの仕事は止めてしまった。
トニー・シュワルツは、2016年にトランプが共和党の大統領候補に指名される直前に出版されたThe New Yorker の“Donald Trump’s Ghostwriter Tells All” (ドナルド・トランプのゴーストライターがすべてを暴露)のためのインタビューに応じている。さらに、2020年の5月にThe Psychopath in Chiefを書いて、トランプがアメリカにとって、さらには世界にとって、どんなに危険な人間かを訴えている。
トニー・シュワルツによると、サイコパスの性格を特徴付ける20の項目のうち、16項目がドナルド・トランプに当てはまる。つまり、トランプ大統領は究極のサイコパスであり、それから予測できるトランプ大統領の行動原理は民主主義社会の大統領の役割とは相いれないものであることは日増しに明らかになってきているという。
How do we deal with a person whose core impulse in every part of his life is to deny, deceive, deflect, disparage, and double-down every time he is challenged? And what precisely is the danger such a person poses if he also happens to be the leader of the free world, during a crisis in which thousands of people are dying every day, with no letup in sight?(人生のあらゆる場面における中核的行動原理が否定、欺瞞、虚勢、はぐらかし、おとしめ、挑戦されても絶対自分の落ち度を認めない、そういう人間をどう扱ったらいいのか。そして、毎日何千人もの人が死ぬ危機にあって収束が見えない中、そのような人間が自由主義世界のリーダーである場合、どんな危険をもたらすのか。)
The first answer is that we must understand exactly who we’re dealing with, and we have not, because what motivates Trump’s behavior is so far from our own inner experience that it leaves us feeling forever flummoxed.(第一の答えは、どんな人間を相手にしているのかを正確に理解すること。まだできていませんが。なぜなら、トランプの行動の動機は我々の内面的な経験とはあまりにもかけ離れているので永遠に理解に苦しむことになるからです。)
The trait that most distinguishes psychopaths is the utter absence of conscience — the capacity to lie, cheat, steal, and inflict pain to achieve their ends without a scintilla of guilt or shame, as Trump so demonstrably does.(サイコパスの最も際立った特徴は良心の完全な欠落です。目的を達成するためには、罪も恥も一切感じることなく、嘘をつき、だまし、盗み、人を苦しめることができる能力です。トランプの言動はそのいい例です。)
ホストのAri Melber(左)とTony Schwartz (右) |
上記のような警鐘を鳴らしてきたシュワルツ氏にとって、メアリー・トランプの明かした「父親による情緒的虐待と母親によるネグレクト」は、ドナルド・トランプという危険人物のなぞ解きに大きく貢献する情報だったようだ。同氏はMSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)という番組でのインタビューで、Adverse Childhood Experiences (ACE) Study(子供の時の有害な体験についての研究)に触れ、アメリカでは多くの人がトラウマとなるような、そのたぐいの有害な体験をしていること、そのような人は少数の例外ではなく主流と言えるほどであること、アメリカ社会の悲劇は人格形成に影響するこのような重要な要因から人々が目を背けていることであると指摘している。つまり、多くの人がトランプ大統領と同じようなトラウマとなる過去を抱えていて、それが、同じような問題行動のもとになっているというのである。
考えてみれば、アメリカの傍若無人な、武力にものを言わせた世界の支配は、人格形成に影響するようなトラウマを多くの国民が抱えていて、それが国の政治スタイルまで左右していると考えるとよりよく理解できるのかもしれない。アメリカといういじめっ子にさんざんいじめられてきた日本は、このような論点も理解しておいた方がいいのかもしれない。