2017/08/17

歴史修正主義の流行?

歴史修正主義者というレッテルが無条件にネガティブなレッテルとして通用した時代は終わったようだ。『戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実』 (文春新書) | 渡辺 惣樹著の商品説明には、
本来の「歴史修正主義」とは、戦前の日独を全面肯定する歴史観のことではありません。米英の外交に過ちはなかったのか、あったとすれば何が問題だったのか、それを真摯に探る歴史観のことです。
とある。渡辺 惣樹は『Freedom Betrayed』 という本(アメリカを戦争に引き込んだフランクリン・ルーズベルト大統領を糾弾したフーバー大統領の回顧録)の翻訳者である(Freedom Betrayedを読んでを参照)。フーバー大統領のこの本も、ハミルトン・フィッシュの『ルーズベルトの開戦責任』も共和党の政治家が政敵の民主党の大統領の嘘(世論操作)と開戦責任を糾弾し、プロパガンダ=捏造された歴史が隠していた史実を明らかにしたものである。日米戦争の火蓋を切った真珠湾攻撃の前に米軍が入手していた情報を明らかにしたロバート・スティネット(ジャーナリスト、元海軍:太平洋戦線)の『真珠湾の真実 ― ルーズベルト欺瞞の日々』もフランクリン・ルーズベルト大統領の嘘を暴いた本であるが、スティネットはあの戦争への参戦自体は必要だったという意見だ(Robert Stinnett の話も参照)。インターネットを検索すると、これらの情報を伝えるYouTube番組やページがたくさん出てくるが、主要メディアのテレビやラジオや新聞にはめったに出てこない。

言うまでもなく 、歴史学は新たに発掘された資料に基づいて歴史を修正するという作業無しには成り立たない学問である。しかし、いったん確立された歴史観とそれによって支えられている体制を維持しようとする勢力は、「歴史修正主義者」を体制にたて突く不穏分子という意味で使用してきた。これは、何も新しいことではなく、昔から、宗教を基盤とした体制で「異端者」が迫害・糾弾されてきたのと少しも違わない。

ヨーロッパ諸国では第二次世界大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人に対して大量殺戮(ホロコースト)を行ったかどうかについて疑念を挟むようなことを公の場で発言すると犯罪になる。最長5年の懲役刑も付く。AskHistorians というサイトに次のような説明がある。
As far as the legal situation goes, at this point in time 16 countries outlawed Holocaust/genocide denial explicitly or implicitly (Austria, Belgium, Czech Republic, France, Germany, Hungary, Israel, Liechtenstein, Lithuania, Luxembourg, Netherlands, Poland, Portugal, Romania, Slovakia, and Switzerland). Some of them like Austria or France do it explicitly in laws passed for this purpose, other do it implicitly by interpreting existing laws against hate speech, group libel, incitement to racial hatred or acts of racial or xenophobic nature in a way that outlaws Holocaust denial.
(法律で、ホロコースト/ジェノサイドがあったことをあからさまにあるいは暗黙に否定することを違法とする国が16カ国(オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、フランス、ドイツ、ハンガリー、イスラエル、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スイス) ある。オーストリアやフランスのようにこのための法律を制定して明文化している国もあるが、ヘイト・スピーチや特定グループに対する誹謗中傷、つまり、人種ヘイトや人種差別的あるいは異国人恐怖症的な行為を煽ることを規制する既存の法律の解釈によって暗黙に行っている国もある。)

ヨーロッパ諸国で犯罪として罰せられるのは、主に「ホロコースト否定」らしいが、それを歴史修正主義と呼ぶことによって、あたかも、ニュールンベルク裁判と東京裁判で確立された第二次世界大戦史観の一部でも否定すれば犯罪になるかのように扱って、言論弾圧を行おうとする勢力があることが問題なのである。計画的なユダヤ人大量殺戮(ホロコースト)という史実(誇張や捏造を含むという人も少なくないが)を否定することが犯罪なら、南京大虐殺や性奴隷、日本の世界征服の野望、真珠湾での「奇襲」攻撃などがプロパガンダでしかなかったと言って否定することも犯罪でなければならないというわけだ。

数年前にフランスのアングレームで開かれた国際漫画祭で、日本軍と慰安婦の関係を描写した日本の漫画が、政治的(歴史修正主義)のレッテルを貼られて、フランスの主催者に妨害された事件は、フランスにおける「歴史修正主義」というレッテル貼りの威力をうかがわせる事件となった(この記事を参照)。自虐史観を押し付けようとする内外の勢力と長年戦ってきた多くの日本人は、あの事件で、世界がいかにあのニュールンベルク裁判と東京裁判で確立された第二次世界大戦史観にがんじがらめにされているかを垣間見たに過ぎない。

日本でもそうこうしているうちに「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」なる一種のヘイトスピーチ法が2016年に成立した。どうやら外国人はいくら日本人に「不当な差別的言動」を行っても構わないということらしい。幸い努力目標で罰則はないが、誰かが「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」、「本邦外出身者を著く侮蔑する言動」、「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」と決め付ければ、公の場での外国人に関する批判的言動をヘイトスピーチとして排除することを正当化できる法律である。

面白いことに、東京裁判史観を利用して日本の頭を押さえつけ支配してきたアメリカは政治献金の規制さえ「言論の自由」を妨害するといって実質上廃止した国だから、ホロコースト否定や人種差別ぐらいで言論の自由を法的に抑圧するようなことはしていない(ただし、差別に基づく犯罪はそうでない犯罪とは区別され刑罰も重い)。とはいえ、そのアメリカでも、歴史修正主義者、Revisionist は体制にたて突く不穏分子という意味で使用されてきたことには変わりはない。


明治維新以来の日本の台頭を快く思わず、日本の頭を押さえつけようとしてきた勢力は、日本の慰安婦制度や南京事件、大東亜戦争をナチスのホロコーストに匹敵する犯罪に仕立て上げ、あわよくば、それを否定する勢力を歴史修正主義者=ホロコースト否定者と呼んで犯罪者扱いしようとたくらんできた。連合国が寄ってたかって日本に戦争犯罪者のレッテルを貼るために演出した極東軍事裁判は、ナチスのホロコーストを裁くために行われたニュールンベルク裁判と瓜二つになるように仕組まれた(日本はなぜ侵略史観・自虐史観を押し付けられたのかを参照)。

連合国(米、英連合、仏、ソ連、中共)に都合のよいように、日本とドイツを残忍で破廉恥な民族だと一つに束ねて非難し、頭を押さえつけることができるように、日本の自衛戦争であった大東亜戦争をホロコースト裁判の型に押し込め、「人類に対する犯罪」、「平和に対する犯罪」というでたらめな事後法の適用だけでは物足らず、ありもしない南京虐殺まで捏造した(南京事件は4度あったを参照)。多くの日本人の長年の努力にも関わらず、世界一般は言うに及ばず、日本人さえその東京裁判史観の呪縛からいまだに解かれていない。

ところが、最近欧米でも歴史修正主義を堂々と標榜する人々が出てきている。というか、世界の歴史は偏見とプロパガンダと捏造、善意に取れば見過ごし、思い違い、勘違いなどによって書かれている部分が多すぎると感じている人が増えている。

世界的に有名なジャーナリスト、Malcolm Gladwell (マルコム・グラッドウェル) はその名もズバリ、REVISIONIST HISTORY(修正主義者の歴史)というラジオ(ポッドキャスト)番組を作っている。2015年に始まったこの番組のエピソードの一つに、トヨタ自動車の「制御不能な加速」による事故にまつわるプロパガンダと集団ヒステリーとそれに迎合した政府当局やメディアについて分析したBlame Gameがある。アメリカにも、アメリカの政府当局とメディアが寄ってたかってトヨタを叩き、多額の賠償金を払わせたのは不当であり、アメリカの恥だと思っている人が少なからずいるのである。マルコム・グラッドウェルのように史実と科学的分析と正義を重視する人々の心は重い。

さらに言えば、自分の正当性を最大限に主張し、法廷で最後まで争うことによってしか正義を実現できないと信じている欧米人の目から見れば、簡単に折れて謝罪する日本企業や政府はそのシステムをないがしろにしている共犯者に見えてくるのである。

ついでに言っておくと、でたらめと嘘を平気で言い散らかして大衆を煽り、反エリート主義に迎合して科学を敵視し、気炎をあげているトランプ大統領をアメリカの恥だと思っているのはこういうタイプのアメリカ人なのである。(マルコム・グラッドウェルはイギリス生まれのカナダ育ちで、在米だがカナダ国籍だから、正確にはアメリカ人ではないが。。。)

Image result for henry scott stokesイギリス生まれの歴史修正主義者といえば、ジャーナリストのヘンリー・ストークス(Henry Scott Stokes)を挙げなければならない。2013年出版の『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』(英語版はFallacies in the Allied Nations' Historical Perception as Observed by a British Journalist)は南京虐殺が、蒋介石と欧米のジャーナリストや宣教師が共謀して打ったプロパガンダであることを示す史実を説明した本である。この本を書いた背景には、第一次大戦以降、大きな顔をするようになったアメリカ人に対するイギリス人の不愉快な思いがあることも隠さない。

Joshua Blakeney at the National Diet Library
若い世代では同じくイギリス生まれで、カナダ在住、『Japan Bites Back: Documents Contextualizing Pearl Harbor』(日本の反撃:真珠湾攻撃の文脈を示す文書群)を書いたジョシュア・ブレイクニー(Joshua Blakeney)がいる。この問題に頭を突っ込むようになったきっかけは、大学院での研究テーマに9.11陰謀論を取り上げたことに始まるという。それがユダヤ人/シオニストの知るところとなり、若い研究者にそんな研究をやらせるとはけしからん、税金の無駄遣いだ、と大学に圧力をかけてきたユダヤ人がいたのだそうだ(Japan Bites Back: Allied Demonization of the Empire of Japan.(日本の反撃:連合国に悪魔扱いされた日本帝国)を参照)

9.11のあと、イスラム教徒、特にイランが「悪魔」扱いされるようになり、イランはナチスドイツに比較されたりした。イランはイスラエルを潰すために核兵器を開発しているから制裁しろという議論が盛んに報道されるようになったのを覚えている人もいるだろう。ジョシュア・ブレイクニーは、9.11の報道の嘘を学んで、他にどんな嘘を信じさせられていたかを考えるようになった。たまたま日本語を学んでいたので、日本についての歴史修正主義を調べると、戦前戦中の欧米メディアでの日本の扱いが現在のイラン/イスラム教徒の扱いに奇妙に似ていることに気が付き、さらに調べると、そのような情報の出所がユダヤ系メディアやジャーナリストであることがわかったのだとか。

当時日本人はユダヤ人をその他の英米人から区別していなかったが、反日プロパガンダで活躍したユダヤ人は枚挙に暇がないほどいる。当初、共産主義革命の主導者たちはユダヤ人だったから、ユダヤ人は共産主義のソ連を親ユダヤと考えていた。だから、反共の日本は敵であった。こう書くと、何だ、ユダヤ陰謀論者かと思う人もいるかもしれないが、反日偏向記事で知られる日本発の英字新聞、The Japan Timesの前身は、戦前、Wilfrid Fleisher というユダヤ人が出していた The Japan Advertiserである。同じような連中(CIA、日本の共産主義者、シオニスト)が戦後すぐに日本発の英字新聞を再開して反日記事を世界に発信してきたことを見逃してはいけない。(注:2017年6月に株式会社ニューズ・ツー・ユーホールディングス(代表取締役社長:末松(神原)弥奈子)が新しいオーナーとなり、編集主幹が変わってからは反日偏向は払拭されたようだ

というわけで、ジョシュア・ブレイクニーは、日米開戦前に日本の立場を擁護し説明するために出版されていた英字出版物を調べていくうちに、Contemporary Japan: A Review of Far Eastern Affairs とThe Foreign Affairs Association of Japanという日本人による2つの定期刊行物に行き当たり、その中の主要な論文を8つ復元したのが『Japan Bites Back: Documents Contextualizing Pearl Harbor』である。この「Bite Back」は「窮鼠猫を噛む」の意味で使われている。もちろん、真珠湾攻撃のことである。つまり、この本は、真珠湾攻撃は日本の「世界征服」戦略の一環だったのではなく、日本の反撃だったことを明らかにする目的で書かれた本である。

当時、アメリカにはRalph Townsend (ラルフ・タウンゼント)を始めとして、親日の記事や本、パンフレットを書いたために、スパイ扱いされて投獄された人々が何人もいたことも多くの日本人は知らないのではないだろうか(Ralph Townsendの本を紹介する英語のこのページを参照)。ジョシュア・ブレイクニーは、大川周明の大アジア主義、大東亜共栄圏について調べ、21世紀のRalph Townsendとして、日本の代弁者となることを目指しているらしいが、今のところ、英米の主要メディアには相手にされていないらしい。

ちなみに、ジョシュア・ブレイクニーはカール・マルクスの「Religion is the opium of the masses(宗教は大衆のアヘンだ)」をもじって「holocaustianity (ホロコースト教)は大衆のアヘンだ」と、ホロコーストを隠れ蓑にしたユダヤ人の「世界征服」戦略=New World Order (新世界秩序)戦略を糾弾している。