2019/11/10

日本の消費税増税はアメリカ=グローバル金融が決める

アメリカが仕掛けた米中貿易戦争の真っただ中、2019年7月1日にアメリカの経済学者、Panos MourdoukoutasがForbes誌にAmerica is trying to turn China into another Japan(アメリカは日本にしたことをチャイナにもしようとしている)という論説を書いている。「チャイナは日本ではない」が結論であるが、アメリカが日本に何をしたのかの説明を読むと、アメリカがんばれ、チャイナをやっつけろなどと無邪気に応援する気にならない。日本は今でもアメリカ=グローバル金融資本にやられっぱなしなのだから。

Mourdoukoutas 先生の話では、それは、Japan as number one とか言われて、日本が高度成長の絶頂にあった1980年代、レーガン政権のときに始まる。
1983年の11月、レーガン政権は日本の資本市場の開放と円の為替レートの引き上げについての話し合いを開始した。その努力は1985年9月のプラザ合意に導かれた。それと並行して、1985年のはじめに、市場志向型分野に影響の大きい交渉が2国間で開かれた。この話し合いは4つの特定分野(エレクトロニクス、医療機器、通信、薬品)の貿易摩擦をカバーした。1年後の1986年に両国はStructural Impediments Initiative (日米構造問題協議)の準備に向けたStructural Economic Dialogue(日米構造経済対話)の設立に合意し、特定製品の貿易問題を定期的に(6か月間)取り上げた。1988年に、米国議会はOmnibus Trade and Competitiveness Act(包括通商競争力法)を採択し、実質的に日米通商をワシントンのコントロール下に置いた。結局、日本はアメリカの要求に屈服する以外に選択肢はなかった。(筆者訳)
1985年9月のプラザ合意では、行き過ぎたドル高を是正するために、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、そして日本の先進5ヶ国が外国為替市場に協調介入することが合意されたが、それがバブルとその崩壊に始まる日本経済の低迷とさらなる対米従属、グローバル金融による浸食を許し、現在に至っている。

日本の消費税が3%から5%に引き上げられたことを受けて、マイケル・ハドソンは1996年に日本はなぜ借金大国になったか(後編)で次のような文章を書いている。
世界通貨制度の中で米国を資金援助するという役割を果たさなければならないがために、日本は消費税を3%から5%へ増税しなければならないのである。。。不動産バブルを引き起こした不動産および金融部門に対する課税を強めなければ、日本の消費税は15%まで引き上げざるを得なくなるであろうと試算されている。
日本の有権者は、大蔵省や与党がなぜ消費税増税を迫っているのか、その理由を理解すべきである。これは極めて重要なことなのだ。日本の歳出を補うために必要な税金を投資家が支払っていないために、消費者が代わって税金を払わなければならないのである。
野田政権が消費税増税(5%から段階的に10%まで上げる)にこだわった理由が、今一つはっきりしない。高齢化で増える福祉の財源として必要だというのが表向きの理由だった。税源は他にもあるのに、なぜ逆累進性の高い、消費税なのか。しかも、野田政権は解散(退陣)の条件として消費税増税にこだわり、自由民主党も消費税増税に賛成した。一つはっきりしているのは、法人税を下げた分を消費税で補う格好になっているということだ。これで得をするのは、企業から配当金を受け取る投資家たちである。しかも、いまや日本企業の株の50%近くを外国投資家、つまりグローバル金融が持っているといわれている。日本の企業を乗っ取って、日本人を搾取しようとしているのはルノーを所有するフランスばかりではないのだ。

1990年のバブル崩壊以後、日本はデフレに苦しんできた。デフレを脱却するには、金融緩和と、財政出動が必要だというのが大方の一致した意見のようだが、なぜか日本は緊縮財政を続け、公定歩合(金利)の引き下げで金融緩和を進める一方で、インフラ投資を縮小するという緊縮財政を続けただけでなく、消費税増税という形の金融引き締めも続けた。ほぼ20年後、2013年にようやくアベノミクスを掲げて第二次安倍内閣が発足し、財政出動と日銀による「異次元」の量的金融緩和が行われ、景気は一気に回復軌道にのったと思いきや、2年目からは財政出動も行われず、デフレ脱却が達成されていないにも関わらず、消費増税の5%から8%への引き上げも決行されて景気の腰が折れたままだ。2019年秋にはデフレが進行する中、さらに10%に引き上げられた。いったい何がこのような日本弱体化計画の一環としか思えない経済政策の背景にあるのか。

緊縮財政(小さな政府)について一つ知られていることは、それが、ワシントン・コンセンサスの一部であり、アメリカ(アメリカの金融界)がIMFと世界銀行を使って援助という名目のもと、開発途上国を食い物にするときに強要してきた政策の一つであるということだ。財政破綻して救済を受ける国に贅沢は許されないというのはいいとして、上下水道も、電気ガス、道路、通信、教育、等々、経済の発展に必要なインフラ投資や社会投資もだめだというのだ。そのような事業は民営化させて、その国の福祉ではなく私的な利益を追求するグローバル投資家の餌食にさせようというのである。もちろん、表向きの理由は、民間の活力を利用するとか、公営より民営の方が効率がいいからとかいうのがよく聞く理由である。誰のために効率がいいのかというと、民間の利益のためというのが行間に隠された理由である。公共事業なら利益や配当をよこせという投資家はお呼びではない。民営になると投資家の取り分だけ余計に料金を支払わされることになるのは小学生でもわかる構造である。それにも関わらず、アメリカのごり押し、あるいはいい加減なプロパガンダを許した世界というのはどうなっているのか、そして、それが批判されるようになって久しいというのに、今でも日本はワシントンコンセンサスの路線に沿った政策を取らされているのはなぜか、それが今早急に解明されなければならない大きな謎であろう。搾取という観点から見ても、黄金の卵を産む鶏を弱体化すれば取れる卵が減るのだから得策ではない。もっとも、略奪による富の蓄積を常套手段としてきた旧植民地宗主国はそのマインドセットから抜け出すことができず、今や宿主を殺してしまう寄生虫に例えられる存在となっていることを忘れてはいけない(Killing the Host - the book | Michael Hudson)


ウィキペディアを引用すると
ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)とは、国際経済研究所の研究員で国際経済学者のジョン・ウィリアムソンが、1989年に発表した論文の中で定式化した経済用語である[1]
この用語は元来、1980年代を通じて先進諸国の金融機関と国際通貨基金(IMF)、世界銀行(世銀)を動揺させた途上国累積債務問題との取り組みにおいて、ウィリアムソン曰く「最大公約数」とする、以下の10項目の政策を抽出し、列記したものであった。
  1. 財政赤字の是正
  2. 補助金カットなど財政支出の変更
  3. 税制改革
  4. 金利の自由化
  5. 競争力ある為替レート
  6. 貿易の自由化
  7. 直接投資の受け入れ促進
  8. 国営企業民営化
  9. 規制緩和
  10. 所有権法の確立

上記の10項目を見ただけでは、その一国の経済に対する影響をすぐに判断することは難しいかもしれないが、ワシントン・コンセンサスに関する日本大百科全書(ニッポニカ)の解説によると、
その骨格は(1)財政規律の回復と緊縮政策、(2)税制改革と補助金削減、(3)価格・貿易・金利の自由化、(4)規制緩和と民営化の推進など」であり、「ワシントン・コンセンサスは「安定化、民営化、自由化」を三本柱とする新経済自由主義、市場原理主義の政策イデオロギーの象徴として厳しい批判の対象とされるようになった。
とある。つまり、税金を取れるだけ取り、補助金も減らし、消費や生産を縮小した上で、貿易や金融を自由化して規制緩和と民営化でグローバル金融資本が乗り込んで利益をむさぼり搾取しほうだいにするということなのである。

ワシントンコンセンサスは最初はIMFや世界銀行を介してアメリカが低開発国を食い物にするための策略であったが、今では、日本はもとよりアメリカの一般市民に対する政策にも適用されている。

ちなみに、マイケル・ハドソンはアメリカが国際収支の赤字が続いて金の流出が深刻になり、1971年に金本位制を廃止したときに、国際収支の分析に関わっていた経済学者である。その翌年にマイケル・ハドソンが書いた暴露本『超帝国主義国家アメリカの内幕』(30年後に更新された第二版の原文はPDF版をダウンロードできる:Super Imperialism The Economic Strategy of American Empire)は対米従属を憂う日本人なら必読であろう。そして、対米従属を強いられているのは日本だけではないこともはっきりする。

超帝国主義国家アメリカの内幕』は2002年に出版されているが、ハドソン氏は1972年に第一版を出版、30年後の2002年に新しい情報を追加して第二版を書いている。英語版の説明によると、日本語版は英語版より先に出版されたが、第二版での変更を反映している。アマゾンの本の内容の説明には
「日本のバブルとその崩壊も起こるべくして起こった。アメリカの金融帝国主義を知らずに日本経済は理解できない!IMFと世銀を利用して、アメリカはどのように世界経済を操ったのか?アメリカに富を集中させる驚異の経済戦略の全貌がいま明らかに。米国の圧力で翻訳が中断された幻の名著、遂に登場。」
とあり、いわく付きの本である。ちなみに、第一版は世界各国で翻訳本が出版されたが、出版を邪魔されたのは日本語版だけだったようだ。日本人の英語力も随分と見くびられたものである。しかも、アメリカでは政府機関がこの本を大量に購入して、外交官や官僚たちに読ませたということである。日本ではどこかで、例えば大蔵省や日銀で海賊版が出回っていたという話がないとすれば、怠慢というしかない。

インターネットを検索してみたら、マイケル・ハドソンについて言及している人はあまりいないが、ビル・トッテン氏の耕助のブログの次のページにさわりの要約(1996年にハドソン氏と親交があるトッテン氏が日本人読者のために特別に書いてもらった)がある。日本の経済と税制がいかにアメリカの都合でゆがめられてきたか、そして、それが今も進行中であることがわかる。消費税増税がいかに日本経済の回復に悪影響を及ぼすかを議論しても無駄なのだ。すべてが、アメリカの都合で決められてきたことなのだ。そして、日本の政治家も財界もそれに抵抗してきた形跡がない。

No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)
No.74 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(前編)
No.75 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(後編)

他にも何人か書いている人がいる
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」
書評もある(日本語版は歴史的説明の部分をかなり落としているらしい)
歴史を通じて世界経済を考える書

マイケル・ハドソンの最近の発言の日本語訳はトークショーの翻訳という形で出ているものがある。
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2) 
マイケル・ハドソンの背景と観点については次の記事が役に立つ。
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる 


2019/08/01

INSTEX:ドル基軸通貨体制の終わりの始まり

INSTEXの情報を最初に目にしたのは、今筆者がフォローしているマイケル・ハドソンというアメリカの経済学者(国際収支の分析と新自由主義経済学の批判が専門)のブログをスキャンしていたときだった。アメリカの覇権はドルが世界の基軸通貨という地位を維持していることにかなり依存しているという理解に立つと、「オッ!」と思わせる次の題が目に飛び込んできた。

Trump’s Brilliant Strategy To Dismember US Dollar Hegemony – Analysis
By 
(米ドル覇権を解体するトランプの見事な戦略―分析)
以下はハドソン先生が皮肉たっぷりにトランプ政権を「礼賛」している段落である。
No left-wing party, no socialist, anarchist or foreign nationalist leader anywhere in the world could have achieved what he is doing to break up the American Empire. The Deep State is reacting with shock at how this right-wing real estate grifter has been able to drive other countries to defend themselves by dismantling the U.S.-centered world order. (左翼政党も、社会主義者も、アナーキストも、外国の国粋主義リーダーも、世界中のどこを見渡しても、アメリカ帝国の解体に向けてトランプがやっていることを達成できた者はいない。この右翼の不動産屋ペテン師が、他の国々を、アメリカ中心の世界秩序を解体することによって自国を守るように駆り立てることができたことに、ディープ・ステートはショックを受けている。)

現在国際的な銀行間の送金はベルギーに本部のあるSWIFT (Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)を介して行われている。この機構の利用についてはアメリカが絶対的な発言権を持っていて、現在イランに対する経済制裁の一環として、この機構をイランとの貿易に使うことをアメリカは禁止しているが、アメリカのベネズエラに対する介入、ロシアやチャイナに対する締め付け、ドイツがロシアから天然ガスを輸入していることへの非難などを考慮すると、いつだれがアメリカの逆鱗に触れてSWIFTから締め出されるか知れたものではない。

ロシアとチャイナの間では既にSWIFTに替わる、人民元とルーブルを使うシステムが構築されていて、2019年から運用されている。インドと日本の間ではかなり前からSWIFTを介さない円建ての送金システムが運用されている。そして今、欧州でも英、仏、独が主導してINSTEX — Instrument in Support of Trade Exchanges (貿易取引支援機関) という通貨の交換を伴わないシステムを作り、とりあえずはSWIFTを通さずにイランとの貿易ができるようにしてしまった。今は制裁対象外の医薬品や食品などのいわゆる人道物資の貿易にしか使っていないようだが、2019年の1月に設立され、6月には既に稼働していると発表された。もちろんトランプ政権は、けしからん、もともと医薬品や食品などの人道物資の貿易は制裁対象ではないのだから、SWIFTを迂回する必要はないはずだと息巻いているが、今のところINSTEX加盟国に対する制裁は発表していないもよう。

日本でもINSTEXについては報道されているが、それがドル基軸通貨体制への挑戦であるという見方は報道されていない(例:日経の2月1日の記事)が、アメリカでは次のリンク先の記事に見られるようにその懸念があちこちでささやかれている。

Post American Networks (Project Syndicate)
[アメリカ覇権終了後のネットワーク]
JPMorgan Warns Federal Reserve Note Could Lose Status (FXSTREET)
[JPモーガンがドル紙幣の地位が失われると警告]
Russia Urges "Independence" From "Imposed World Order" Of US Financial System (ZeroHedge)
[アメリカ金融システムが「押し付ける世界秩序」からの「独立」をロシアが強く要請]

イランとの貿易戦争だけでなくチャイナとの貿易戦争も次のようにドル基軸通貨の地位を危うくしている
U.S. Decoupling From China Forces Others To Decouple From U.S.
[米国のチャイナからの切り離しは他の国々を米国から離れざるを得なくする]

ちなみに、マイケル・ハドソンはアメリカが国際収支の赤字が続いて金の流出が深刻になり、1971年に金本位制を廃止したときに、国際収支の分析に関わっていた経済学者である。その翌年にマイケル・ハドソンが書いた暴露本『超帝国主義国家アメリカの内幕』(30年後に更新された第二版の原文はPDF版をダウンロードできる:Super Imperialism The Economic Strategy of American Empire)は対米従属を憂う日本人なら必読であろう。そして、対米従属を強いられているのは日本だけではないこともはっきりする。

超帝国主義国家アメリカの内幕』は2002年に出版されているが、ハドソン氏は1972年に第一版を出版、30年後の2002年に新しい情報を追加して第二版を書いている。英語版の説明によると、日本語版は英語版より先に出版されたが、第二版での変更を反映している。アマゾンの本の内容の説明には
「日本のバブルとその崩壊も起こるべくして起こった。アメリカの金融帝国主義を知らずに日本経済は理解できない!IMFと世銀を利用して、アメリカはどのように世界経済を操ったのか?アメリカに富を集中させる驚異の経済戦略の全貌がいま明らかに。米国の圧力で翻訳が中断された幻の名著、遂に登場。」
とあり、いわく付きの本である。ちなみに、第一版は世界中で翻訳本が出版されたが、出版を邪魔されたのは日本語版だけだったようだ。しかも、アメリカでは政府機関がこの本を大量に購入して、外交官や官僚たちに読ませたということである。日本ではどこかで、例えば大蔵省や日銀で海賊版が出回っていたという話がないとすれば、怠慢というしかない。

インターネットを検索してみたら、マイケル・ハドソンについて言及している人はあまりいないが、ビル・トッテン氏の耕助のブログの次のページにさわりの要約(1996年にハドソン氏と親交があるトッテン氏が日本人読者のために特別に書いてもらった)がある。日本の経済と税制がいかにアメリカの都合でゆがめられてきたか、そして、それが今も進行中であることがわかる。消費税増税がいかに日本経済の回復に悪影響を及ぼすかを議論しても無駄なのだ。すべてが、アメリカの都合で決められてきたことなのだ。

No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)
No.74 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(前編)
No.75 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(後編)

他にも何人か書いている人がいる
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」
書評もある
歴史を通じて世界経済を考える書

マイケル・ハドソンの最近の発言の日本語訳はトークショーの翻訳という形で出ているものがある。
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2) 
マイケル・ハドソンの背景と観点については次の記事が役に立つ。
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる 


2019/07/30

米中覇権争い:アメリカ帝国の衰退とファシズム

中国は向こう10年で(2030年までには)アメリカを追い上げ、アメリカは衰退するというのが「(インタビュー)米国超え、中国の夢 中国国防大学教授・劉明福さん」から読み取れる中国の皮算用である。ただし、この2030年というのは中国の希望的観測に基づく根拠のない夢ではない。あと10ないし20年で中国がアメリカを追い抜くというのはアメリカ国内で発せられる警告でも頻繁に見られる数字である。ただし、アメリカの衰退に限ってみれば、それは既に始まっていると警告している人も少なくない。その代表的言論人がクリス・ヘッジズである。ニューヨーク・タイムズ紙の戦争レポーターとして15年間、中南米、東欧、中近東の戦場で、現地の言語を習得して深く潜入するという取材活動を行ってきたジャーナリストの目は、醜く、むごい、悲惨な現実を正面から見つめる。

ヘッジズは、American Fascists: The Christian Right and the War On America (アメリカのファシスト:キリスト教右派がアメリカに挑む戦い)という本を2007年に出して、衰退し混迷するアメリカの中で政治的影響力を拡大しているファシスト勢力について警告している。キリスト教右派とは福音派キリスト教(evangelical christian)のことであるが、長老派(Presbyterian)の牧師の家で育ち、ハーバード大学の神学部で修士号を取ったヘッジズから見れば、それは拝金主義にキリスト教の衣を着せて、不運に打ちひしがれた人々を狙ってカルト的洗脳を行う似非キリスト教でしかない。その本質は、むき出しのナショナリズムと開かれた社会に対するヘイトを煽る危険な大衆運動であり、ファシズムの温床となっていると言う。


法治という観念を無視して暴言暴挙を連発するトランプ大統領の出現は、民主主義と自由、平等、人権の理想を建国の理念に歌うアメリカで、その対極にあるように見えるファシズムが「開花」する下地が整いつつあることを示唆すると感じている人も少なくない。さらに、アメリカ人の25%を占めるともいわれる白人福音派キリスト教徒がトランプ/共和党の最大の支持層なのだ。


ここで紹介するのは、数あるヘッジズのYouTube講演ビデオの中から、アメリカの衰退状況を俯瞰し、今何ができるかを模索する50分余りの講演と、その文字起こしを翻訳したものである。ヘッジズの話は時に宗教的なレトリックに傾くので正直かなり翻訳しにくかった。ぎこちない文章になっているところも少なからずあるのであらかじめご了承を。(後尾のQ&Aの翻訳は省略した。文字起こしのテキストはCitizen Action Monitorに掲載されていたものを参考にさせていただいた。)


ChrisHedges "Fascism in the Age of Trump"(トランプ時代のファシズム)
2017年11月 The Sanctuary for Independent Mediaにて

こういうコミュニティが本当にあるんですね。これから私たちが直面する時代を考えると、私たちを支えてくれるのはこういうコミュニティです。情勢が悪化すると、エリートたちは、私たち一般人には入手できない快適な設備やサービス、警備が整ったゲート付きコミュニティに引きこもり、私たちは取り残されるでしょう。もうそうなっていますが。。。私の話しは、耐えている仲間のためであり、消費者文化の価値観を完全にひっくり返すことについてです。Martin Buber が理解していたように、私たちの公明正大さを保つ能力も、私たちの耐える能力も、私たちが隣人を支えていく能力として理解されるようになるでしょう。それが「サンクチュアリ」(聖域)の本当の意味ですよね。今日は、このような素晴らしい場所を提供していただき本当にありがとうございます。

01:17 — アメリカ帝国は終わろうとしています。アメリカの経済は疲弊しています。中東での戦争と世界中に軍を限りなく拡張した結果です。アメリカの経済は、財政赤字の増加とともに産業の空洞化とグローバルな貿易協定の壊滅的な影響が重荷になっています。我が国の民主主義は、企業に乗っ取られ、破壊されてしまいました。企業は次々と減税と規制緩和の拡大を要求し、大規模な金融詐欺の見逃しさえ要求し、同時に、救済措置という形で国庫から何兆ドルも略奪してきました。アメリカはヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの同盟国に協力させるだけの力も尊敬も失ってしまっています。それに、気候の変化による破壊の増大を加えると、ディストピア出現の処方箋を手にすることになります。

連邦政府と州政府のトップにあってこの衰退を統括している人々は、低能者、詐欺師、盗人、日和見主義者、戦争を煽る軍人などの雑多なうさんくさい人々の集まりです。そうです、これは民主党についてもいえることです。アメリカ帝国は、ドルが世界の基軸通貨の地位を失うまでは、着実に影響力を失いながらもなんとか体裁を保つでしょう。ドルが基軸通貨でなくなると、米国は壊滅的な不況になり、軍は一気に縮小せざるをえなくなります。広範な大衆の反乱が突発するようには見えませんが。死のスパイラルは止めることができそうにもありません。10年、長くても20年以内に我々が知っているようなアメリカ合衆国は存在しなくなります。

03:34 – そのあとに残るグローバルな真空はチャイナが埋めます。チャイナは既に経済的にも軍事的にも巨人となりつつあります。あるいは、多極世界になり、ロシア、チャイナ、インド、ブラジル、トルコ、南アフリカ、その他の数か国によって分割されるかもしれません。あるいは、歴史家アルフレッド・マッコイ(Alfred McCoy)が指摘したように、多国籍企業とNATOのような多国籍軍と、ダボス(Davos )やビルダバーグ(Bilderberg )で国際金融のリーダーを自称する人たちが超国家連合を築いて、国家や帝国に取って代わるようになるかもしれません。 [McCoy の: How America Will Collapse By 2025, を carolynbaker.net, April 17, 2013 で参照]

財政成長やインフラ投資から、スーパーコンピューター、宇宙兵器、サイバー戦などの技術的進歩に至るまで、あらゆる指標において、我が国は急速にチャイナに追い抜かれようとしています。2015年4月に、米国農務省は、アメリカの経済は向こう15年で50%成長するが、チャイナの経済は3倍になり、2030年にはアメリカをほとんど追い抜くと予測しています。チャイナは2010年に世界第2の経済大国になりました。同じ年に、百年間世界の工業生産を牛耳ってきたアメリカ合衆国を押しのけて、チャイナは世界一の工業生産国になりました。


05:19 — 国防総省は厳しいレポートを出しました。「At Our Own Peril: DoD Risk Assessment in a Post-Primacy World (自滅への警告:国防総省によるリスク評価、優位性を失った後の世界でのリスク)」によると、米軍は「もはや、敵対する諸国に対して確固とした地位を維持できない。距離を保ちながら局所的な軍事的優位性を自動的に一貫して持続的に作り出せない。」

マッコイは崩壊は2030年までに来ると予想しています。

05:55 — 衰退過程にある帝国は、ほとんど強引といっていい自殺に走ります。傲慢で、力を失いつつあるという現実に直面できないため、幻想の世界に逃避するのです。そこには、厳しい不快な現実はもう侵入しません。彼らは、外交、多角的な多国間外交や政治を、一方的で大げさな威嚇や戦争という鈍器で置き換えます。

06:27 — この集団妄想によって米国は史上最大の戦略的過ちを犯しました。それは帝国の死を告げる過ちとなりました。アフガニスタンとイラクの侵略がそれです。ジョージWブッシュ政権内であの戦争を画策した連中もメディアや学界で列をなして旗振り役を買って出た「役に立つ愚か者たち」も、侵略する国々について何も知らず、工業化された戦争の影響について驚くほどナイーブで、凶暴な反撃に不意を突かれたのです。

07:09 — 彼らは、サダムフセインが大量破壊兵器を持っていたと言い、たぶん信じてもいたでしょう。妥当な証拠がなかったにも関わらずです。彼らはバグダッドに民主主義が移植され中東に広がると主張しました。彼らは、米軍がイラクとアフガニスタンの国民によって解放軍として歓迎され、感謝されると一般大衆に請け合いました。彼らは、石油の売り上げが復興のコストをカバーすると約束しました。彼らは、大胆な電光石火の軍事攻撃(コード名=shock and awe:ショック・アンド・オー)が中東でのアメリカの覇権と世界支配を回復すると主張しました。しかし、結果はその逆でした。ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski)の意見では、イラクに対するこの一方的な、しなくてもよかった戦争はアメリカの対外政策が広く不当とみなされる原因となりました。

08:10 — 帝国を研究する歴史家たちは、このような軍事的失態(帝国末期に共通してみられる特徴ですが)を「ミクロ軍国主義」の例と呼んでいます。古代アテネはペロポネソス戦争(431-404 B.C.)の時にシシリアを侵略し、200隻の船と何千人もの兵士を失った上に、帝国中で反乱を引き起こしました。英国は1956年にエジプトによるスエズ運河の国有化に反対してエジプトを攻撃しましたが、早々と撤退するという屈辱を味わいました。その結果、エジプトのガマル・アブデル・ナッサーのようなアラブ諸国のリーダーたちを元気づけ、残り少ない植民地に対する支配も失うことになりました。どちらの帝国も再興しませんでした。新興帝国は、海外の領地を侵略し支配するとき、武力の使用に関して賢明な、理性的とさえ言える配慮を示すが、衰退途上の帝国は、なんとなく失った威信と力を回復してくれそうな、大胆で巧妙な軍事行動を夢見、配慮に欠けた力の誇示に走りがちだと、マッコイは書いています。

09:30 — 帝国の観点からさえも往々にしてばかげているこれらのミクロ軍国主義作戦は、出費がかさんだり、屈辱的な敗北で終わったりして、既に進んでいる衰退を加速します。帝国は武力だけでは他の国々を屈服させることはできません。神秘なオーラが必要です。この神秘なオーラは、帝国による略奪、抑圧、搾取を覆う仮面となって、現地のエリートを魅了し、進んで帝国に協力するエリートの獲得に、少なくとも、彼らをおとなしくさせておくのに役立ちます。それは文明的なマナー、さらには高貴さの光沢さえ与え、帝国の維持に必要な費用、血とお金を自国民に対して正当化するのに役に立ちます。

10:20 – 植民地で英国が見かけだけ再現した議会制政府のシステム、ポロ、クリケット、競馬などの英国スポーツ、さらに、凝った制服をまとった総督や王侯貴族の壮麗な式典の紹介は、植民地主義者が無敵と豪語した海軍と陸軍に支えられていました。英国は1815年から1914年まで帝国の統一を維持できましたが、以後は後退の一途をたどらざるを得ませんでした。

10:55 — 第二次大戦後の世界は、バスケットボールや野球、ハリウッド、アメリカ人自身の軍の神格化とともに、アメリカの民主主義、自由、平等についての勿体ぶった文言に魅了され、屈服しました。もちろん、裏ではCIAが汚い手口でクーデターを画策し、選挙をごまかし、暗殺、ブラック・プロパガンダ・キャンペーン、贈収賄、恐喝、脅迫、拷問を実行していました。

11:32 – しかし、どれももう役に立たなくなりました。アブグレーブのアラブ囚人に対する身体的虐待と性的屈辱の写真が、イスラム世界を激昂させ、アルカイダと後のISISによる新しいメンバーの募集を容易にしました。オサマ・ビン・ラディンをはじめとするジハード戦士のリーダーたちの暗殺(武装していなかったので暗殺と呼ばれた)は、アメリカの市民権を持つアンワー・アル・アワーキーの暗殺も含めて、法治という概念を公然と嘲りました。中東での何十万人もの死者と我が国の大失敗から逃れていった何百万人もの難民、軍用ドローンからのほとんど恒常的な脅威は、我が国がテロ国家であることを暴露しました。中東で我が国は、ベトナムで我が国を敗北に導いた米軍好みのいつものやり方、広範囲の残虐行為、無差別な暴力、嘘、致命的な誤算など、を繰り返したのです。

12:36 — 海外での残虐行為に対応して国内での残虐行為も増加しています。軍隊化した警察がほとんどの場合、武器を持たない貧困層の非白人を銃で撃ち倒し、刑務所や拘置所を一杯にしています。アメリカの人口は世界の5%でしかないのに、囚人はなんと世界の囚人人口の25%に達しています。Mass Incarceration, Visualized 参照

13:00 — 多くの都市が廃墟になっています。公共交通システムはめちゃくちゃです。教育システムは急激に衰退し、民営化が進んでいます。麻薬中毒、自殺、大量銃撃、うつ病、病的肥満が、深い絶望に陥っている住民を苦しめています。

13:23 — ドナルド・トランプを当選に導いた深い幻滅と怒りが―企業によるクーデター(民主主義の乗っ取り)と米国民の少なくとも半分を苦しめている貧困への反応ですが―民主主義が機能しているという神話を破壊しました。大統領のツイートとレトリックがヘイト、人種差別、偏見を祝福し、弱者や抵抗力のない人々をなじり、大統領が国連の演説で、他国を大量虐殺で抹殺すると脅しています。

13:56 — 我が国は世界中の笑いものであり嫌われています。未来への悪い予感はディストピア映画ブームに表現され、そのような映画にはアメリカの美徳や例外主義、あるいは人類の進歩という神話はもう見られなくなりました。神秘的なオーラを失ったことは壊滅的です。イラクやアフガニスタンで見たように、帝国を管理させることのできる従順な代理人を見つけるのが難しくなるのです。

14:31 — 帝国が放つ全能のイメージは、腐った構造のもろさを隠します。帝国の維持費が本国の能力を超えるような帝国の拡張は、システムを脆弱にします。財政危機のときには特にそうです。帝国の管理に煩わされない国は、自国の繁栄と基本的な安全保障のために資源をもっと費やすことができます。帝国にはそのような選択肢はありません。税収が減少すれば、帝国は分裂し崩壊します。主権国家の内部ではほぼ有機的に出現する資金源が帝国にはないので、帝国は絶え間なく略奪と収益を漁ることで有名です。大西洋の奴隷貿易、ベルギーのコンゴにおけるゴムに対する強欲、英国のインドにおける麻薬ビジネス、第三帝国によるヨーロッパのレイプ、ソ連による東欧の搾取などがその例です。McCoyによると、「力の生態系は非常にデリケートなので、物事が本当にうまくいかなくなると、帝国はとんでもない速度で崩壊するのが常です。ポルトガルはたった1年で、ソ連は2年、フランスは8年、オットマンは11年、大英帝国は17年で崩壊しました。アメリカは、イラクを侵略した2003年から数えて、たった27年で崩壊してもおかしくありません。」 [出典: The Decline and Fall of the American Empire: Four Scenarios for the End of the American Century by 2025, Dec. 6, 2017].

16:05 – ドルが世界の基軸通貨でなくなると、米国債の価値が大幅に下落するので、アメリカは下落した国債を売ることによって膨大な赤字を埋めることができなくなります。輸入品のコストが大幅に上昇します。失業が爆発します。McCoyが「どうでもいい問題」と呼ぶ問題をめぐる内戦が、危険な超国家主義を煽り、それがアメリカ型ファシズムに変化する可能性があります。

16:37 — 世界を席巻しているニヒリズムと怒りは、ゆがんだイデオロギーや中世的宗教的信仰から生まれたものではありません。これらの破壊的勢力のルーツは、現代化と消費者社会による社会的、宗教的伝統の破壊にあります。米国による政権転覆の悲惨な試みは、しばしばクーデターや戦争を通して、あるいは、少数の腐敗したグローバル大富豪に富を集中するだけの、ユートピア思想でしかない新自由主義イデオロギーを通して行われてきました。怒りは信用を無くしたエリートに向けられています。過去百年間にわたって行われた壮大な地球規模のソーシャル・エンジニアリングによって、Pankaj Mishraが「Age of Anger」に書いたように、何億人もの人々を説得して、何千年も続いてきた過去の世界を放棄し、時には軽蔑するよう仕向けました。そして、世俗的で、啓蒙され、文化的で、勇敢な現代人を作るというギャンブルをさせました。一握りのグローバル・エリートを除いて、それは見事に失敗しました。

17:59 – Frantz Fanonが「 The Wretched of the Earth(地球の汚物)」と呼んだ人々は、一貫性のあるイデオロギーも文化も剥ぎ取られ、過去から切り離されてしまいました。彼らは貧困に押しつぶされ、疎外され、希望を失い、恐怖におびえ、なにも感じることができなくなっています。大衆文化が彼らに提供するのは、けばけばしいもの、暴力、卑猥、ばかげたものです。彼らは、自分たちをさげすむ専門家集団が作る世界を破壊しようとする原始的な怒りに駆られて、現代化の力に立ち向かっているのです。 

18:35 — この怒りはさまざまの形で表現されています。ヒンズー・ナショナリズム、原始的な権威主義、ジハーディズム、キリスト教右派、無政府的暴力、その他の信念信仰がありますが、様々な形のレジスタンスは世界的な絶望という同じ深い井戸から湧き上がってくるのです。この恨みは、憎悪に満ちたナショナリズム、排外主義、狂信的差別主義、暴力を焚き付け、市民間の対話と感情に毒を盛り、基本的な市民生活の自由を攻撃します

19:14 — しかし、西洋のエリートは、グローバルな無政府化に対する責任を取らないで、自分に都合のいいように、衝突を、進んだ西洋と中世的な野蛮人との間の価値観の違いと定義しています。極端なナショナリスト、宗教的原理主義者、ジハード戦士に、力でしか鎮圧できない混乱した訳のわからない非合理性しか見ません。疎外された人たちは、我々の価値観のせいで私たちを憎んでいるのではなく、私たちの二枚舌のせいで、見境なく彼らの国やコミュニティに振るう大規模な工業力を背景とした暴力と我々の偽善のせいで、私たちを憎んでいるということを、西洋のエリートはいまだに理解できないでいます。

20:02 — すべてを剥奪された人々は、西洋からの真のメッセージ――我々はすべてを所有している。お前たちがそれを我々から取り上げようとしたら殺すぞ――を理解しています。西洋のエリートも攻撃されればされるほど、神話的な過去に、うぬぼれと頑固な無知に、「Make America great again」のような馬鹿げたスローガンで表現される超ナショナリズムの台頭に引きこもります。ムスリム教徒や不法移民労働者の悪魔化も、高まる国家の好戦的態度も、選挙結果を外国の介入のせいにしようとする試みも、不満の根本原因を隠すマスクとして使用されているのです。根本原因は深刻な社会的不平等であり、それは工業先進諸国ではアメリカが最悪なのです。

21:03 – 世界の人口の膨大な部分がグローバリゼーションによって見捨てられ、企業資本主義の時代にゴミ人間として扱われています。彼らの怒りは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、同じような大格差時代に見られた、無政府主義的な虚無的な暴力となって現れます。学校、教会、コンサートの会場、映画館などで立て続けに発生している銃乱射事件は、企業資本主義の設計者や理論家たちが世界中の労働者たちに提供してきた嘘に対する反発なのです。アメリカのそして世界の隅々にまで武器を浸透させた武器業界が煽ってきた嘘によって国内にテロリストが発生し、ボストン・マラソンで、サウスカロライナの教会で、テネシー州の軍事施設で、テキサス州の陸軍基地で、テロリストによる無差別殺人が行われました。

22:08 — グローバリゼーションの提唱者は世界中の労働者を中産階級に引き上げ、民主主義の価値観と科学的な合理主義を植え付けると約束しました。宗教的、民族的な緊張は緩和され根絶される、グローバル市場は平和で豊かな国々のコミュニティを作るという話でした。それには、政府の干渉を排し、進歩と合理性の究極の形態として市場の需要を崇め、その前に跪きさえすればいいという話でした。

22:43 – この馬鹿げたユートピアの名において、新自由主義は、かつてはハゲタカ資本主義の最悪の行き過ぎから市民を守っていた政府による規制や法律をはぎ取り、貿易協定を作って、税金を逃れるためにオフショア口座に会社のお金を移動できるようにし、仕事は、労働者が奴隷制度を再現する条件下で生活する中国や南方の悪徳労働搾取工場に移動できるようにしました。社会福祉制度と公共サービスは削減されたり民営化されたりしました。大衆文化は、学校やメディアも含めて、ますます絶望的になっている大衆を資本主義のグローバル・リアリティ・ショーに参加するように教え込んでいます。

23:33 – しかし、ゲームが八百長だとは誰も教えてくれませんでした。私たちがいつも負けるようになっていたのです。工場は海外に移転されました。例えば、GMは自動車とトラックの製造にメキシコの労働者を時給3ドルで雇います。福利厚生費は付きません。福利厚生費付きの労組賃金をもらっていたアメリカの労働者は捨てられ、賃金が低下していきました。労働者階級は貧困化していったのです。終わりのない戦争はもうかるビジネスです。世界の富はグローバル・オリガークたちに奪われました。

24:19 — 現在ワシントンに居座っているような泥棒政治家たちは国家の富を恥じることなく抜け抜けと奪っています。民主主義の掲げる理想主義は冗談です。私たちは通商とテクノロジーによって、ハンナ・アーレントが負の連帯と呼んだ力によってしか結ばれていません。

24:41 — 自称イスラム過激派による聖戦への現代的な呼びかけほどこのことが当てはまる事象はありません。彼らのほとんどは宗教的トレーニングを受けていません。多くは世俗の犯罪地下組織から出てきた人々です。ジハーディストのリーダー、アブ・ムスタブ・ザカーウィはイラクで虐殺のシェイフというニックネームを付けられていましたが、過激派ジハーディストになる前は売春のポン引き、麻薬密売人、飲んだくれでした。アフガン系アメリカ人オマー・マティーンは、フロリダ州オーランドのナイトクラブで49人虐殺しましたが、そこに頻繁に通って酔っぱらっているところを目撃されていたという話です。アンワー・アル・アウラキーはジハードを説いて回りましたが、最後は米国によって売春宿で暗殺されました。アブ・モハンムド・アル・アダニは殺されたときイスラミック・ステート(ISIS)の最高幹部の一人でしたが、西洋にいるムスリム教徒に、非ムスリム教徒に出会ったら手当たり次第に殺せと呼びかけました。具体的には、石で頭を勝ち割ってもいいし、刃物で切り殺してもいいし、車でひき殺してもいいし、高い所から投げ落としてもいいし、首を絞めても毒殺してもいいと言っていたのです。

25:50 – このような粗野で、あえて言わせてもらえば、深く反イスラム的な感情は、19世紀末のニヒリズムを特徴付けたバクーニンの「行為によるプロパガンダ」とはるかに多くの共通点があります。ビデオやライブストリームやソーシャル・メディアで更新され増幅される、この無政府的暴力は土着の信仰、伝統、儀式が破壊された後に残された空白を埋めるのです。Mishraが指摘したように、これらのジハーディストが示しているのは伝統的なイスラムの死であってその蘇生ではないのです。取り残されたことに対するこの怒り、この恨みがパリやロンドンやニューヨークのテロリスト攻撃の原動力となっているのです。ティモシー・マクベイが1995年にオクラホマシティでアルフレッド・マーラー連邦政府ビルを爆破して19人の子供を含む168人を殺し684人を負傷させた事件の原動力も同じです。マクベイがコロラド州フローレンスで投獄されたとき、隣の部屋にいたのがロムシ・アクムッド・ヨセフ、1993年にワールド・トレード・センターを最初に攻撃したグループの首謀者でした。マクベイが処刑されたあと、ヨセフは「これまでに彼ほど私の性格に似通った性格の人には会ったことがない」とコメントしています。

27:31 – 私たちと私たちの敵を区別するのがどんどん難しくなってきています。新自由主義によって行われた政治、経済、文化の破壊の結果として考えると、トランプは常軌を逸しているとは言えません。トランプの登場は、市場社会と資本民主主義が機能を停止した結果なのです。怒りと疎外感を抱く下層階級は、読み書きに取って代わった電子的幻覚に魅了されています。このようなアメリカ人は、彼らを食い物にする権力構造の伝統的な規則や儀式を軽蔑し、あからさまに無視するトランプのような扇動者にひねくれた、ほとんど悪魔的な喜びを感じるのです 

28:22 – 似たような民衆扇動家、例えばモディのような政治家が、インド、フィリピン、ポーランド、ハンガリー、その他の国々に登場しました。これは、人類の歴史を通して勃興し凋落していった69ほどの帝国の最後の段階でほとんど必ずと言っていいほど見られた特徴です。このような民衆扇動家や神話作りをする人々は、フォックスニューズその他の右翼系メディアで見かけますが、彼らは、真実をゆがめて歴史的、文化的な神話にしてしまいます。ラインホルド・ニーバーは彼らを西洋文明の取り澄ました狂信者(the bland fanatics of Western civilization)と呼びました。彼らは、まったく偶然の産物でしかない我々の文化を人類存在の最終的形態であり、規範であると思っています。無視されている現実は、現代化と植民地化の過程には、大量虐殺と気違い沙汰の大混乱が伴ったということです。資本家や植民地主義者の貪欲には、ミシュラが指摘したように、地理的空間が有限なこと、自然という資源が劣化可能なこと、エコシステムがもろく容易に破壊されることなどの制約要因に対する配慮が含まれたことはありませんでした。この地球規模での拡大と現代化を進めるにあたって、どんな形の無理強いも暴力もオフリミットではありませんでした。

29:53 – テロリストの攻撃、ハイジャックした飛行機を飛ばしてワールドトレードセンターに突っ込むような行動は、我々の道徳的世界の産物に敵対する人々が現代戦争のやり方をよく学んでいることを示しています。劇的な爆発、火の球、死を覚悟して飛び降りる犠牲者、マンハッタンにおける2つの巨大なタワーの崩壊は、まさにハリウッド映画そのものです。大都市のスカイライン上に広がる爆発と死が奇妙で効果的なコミュニケーションの形式であるということを、自爆ハイジャッカーは工業先進国以外のどこから学んだというのでしょうか。彼らは我々が教えた言語をよく習得しました。無辜の民に対する一方的で無差別な暴力の使用が声明を出す一つの方法であることを学んだのです。私たちはベトナム戦争で同様の爆弾メッセージを届けました。

31:04 – 国防長官のロバート・マクナマラは1965年に、北に対する飽和爆撃を、ハノイの共産党政権へのコミュニケーションの手段であると定義しましたが、それによって何十万人もの民間人が殺されました。我々はイラクでもアフガニスタンでも、シリアでも、パキスタンでも、ソマリアでも、そして、イエメンでは代理人のサウジを通してこの言語を話しています。ジハード戦士の最悪の残虐行為でさえ、その元をただせば、我々が世界を植民地化し、征服するために行った軍事行動にたどり着きます

31:45 — ウォーターボーディングという水責めを使ったのはフランスの植民地主義者でしたが、それはナチスから受け継いだ手法でした。私たちは、ソ連同様、心理的拷問を科学にまで高めて、秘密のテロ容疑者収容所や刑務所で使っています。ISISはこれらの暗黒の技のマスターたちを真似て、西洋の人質にガンタナモのオレンジ色の囚人服を着せ、スマートフォンのカメラをオンにしてから犠牲者の頭を切り落としました。十字軍がムスリム処刑に好んで使った方法です。

32:28 – 我々がイラク、アフガニスタン、リビア、シリアで政府権力を破壊して広大な領域を犯罪者集団やにわか作りの武装集団にわたすようなことをしないでおいたら、これらの過激派ジハード戦士が埋めた空白もできなかったでしょう。

32:49 — ジョージ・サンタヤナ(George Santayana)の予見では、アメリカの強迫症的、個人主義的な競争と模倣の文化は、やがて、「押し寄せる溶岩のような破壊力を持つ原始的な盲目と暴力」を扇動します。反省と自覚の能力の欠如は、「自己のカルト」と組み合わさって、集団自殺に導く可能性があります。カール・ショールスキー(Carl Schorske)は、『世紀末ウィーンの政治と文化(Fin-de-Siècle Vienna: Politics and Culture)』の中で、ヨーロッパのファシズムへの転落は、いったん「意識とのつながり」を切った後は避けられないことだったと書きました。いったん自分の邪悪な能力を認めることも理解することもしなくなると、いったん自分がわからなくなると、私たちは怪物になり、他者を飲み込み、最後には自分の身内をも飲み込むようになります

33:57 – 我々は、歴史の糞の山に何億人もの人々を捨ててきた代償を払わされているのです。現実を理解することも対処することもできないで、民主主義と西洋文明の名のもとに次から次へと戦争を起こし、それによって殉教者が増え、粉砕するはずの暴力に火を注いでいます。私たちは、アルバート・カミュが「自家中毒―自分が無能であるという先入観が有害物質として自己の殻の中で分泌される」と呼んだ病気に罹っています。この自家中毒に対処するまでは、怒りと暴力が、国内でも国外でも、拡大し、我々は世界の崩壊に向かってよろめきながら進みます。

34:49 — 人類の命を支えてきた地球という惑星システムの環境を破壊しようとしている現状に向かい合おうとしなければ、崩壊へのスローモーション・マーチは確実です。海と川は毒され魚がいなくなっています。山火事、干ばつ、洪水、大型ハリケーン、台風、津波、それに、上昇し続ける気温と北極南極の氷や氷河の蒸発が地球を荒廃させます。この環境破壊は社会構造の崩壊に拍車をかけ、移動を余儀なくされた難民の大移動を促進し、その結果、政情がますます不安定になります。

35:39 – 何もしなければ、地球の多くの箇所で完全なシステム崩壊が発生します。私たちの時代の最大の死活問題は、今すぐ私たちの前にある悲劇的な現実を受け入れ、抵抗する勇気を持つことを呼びかけています。それは、私たちになじみのある世界が、より厳しく困難になり、人間の苦しみが拡大すること、しかし、反撃すれば、つまり、荒廃を軽減するよう生活や社会を組みなおし、カーボンフットプリントを劇的に縮小すれば、全滅を逃れることができるかもしれないことを認めることです。権力エリートは私たちを救うようなことは何もしません。

36:40 – 「苦境に立たされた時に希望を持つことはただ単にばかげたロマンチックなことではないばかりか、人間の歴史は、残酷の歴史だけでなく、同情、自己犠牲、勇気、親切の歴史でもある。」とハワード・ジンは書いています。この複雑な歴史の中から何を選んで強調するかが私たちの人生を決めます。最悪のものだけを見るていると、私たちの行動する能力が破壊されます。人々が立派に行動した場所と時―たくさんあります―を思い起こせば、行動するエネルギーが出てきます。少なくとも、このコマのように回る世界を別の方向に動かす可能性が出てきます。我々がどんなにわずかでも行動すれば、偉大なユートピアの未来を待つ必要はありません。未来は現在の無限の継続です。我々の周りのすべての悪に抵抗して、我々が考える人類のあるべき生き方で今を生きること自体が素晴らしい勝利なのです。

37:59 – そう考えると、抵抗は道徳上、生存上不可避のものになります。抵抗には苦しみが伴います。自己犠牲が要求されます。破壊されることも厭いません。合理的ではありません。幸福の追求とは関係ありません。自由の追求なのです。抵抗するということは、失敗しても、抵抗に伴う内なる自由があることを受け入れることです。そして、これは私たちが知ることのできる唯一の自由と真の幸福かもしれません。悪に抵抗することは人が達成できる最高の業績です。それは、崇高な愛の表現です。それは十字架を背負うことです。そして、神学者、ジェームズ・コーン(James Cone)が指摘したように、背負っているその十字架の上で死ぬということを強く意識することです。抵抗する人々のほとんど– Sitting Bull, Emma Goldman, Malcom X, Martin Luther King –は、少なくとも、権力者の冷徹な計算上は、敗北しました。そして、コーンが指摘したように、抵抗の最後のそして多分最も重要な特性は、それが世界の価値体系を反転するということです。敗北から希望が湧き上がるのです。

39:34 — 抵抗する人々は、その代償に関係なく、はりつけにされた者の側に立ちます。これが彼らの偉大さであり、力なのです。同調することへの魅力ある勧誘―金銭、名声、表彰、気前の良い助成金、大きな出版契約、多額の講演料、重要な学問的あるいは政治的地位、公の発言の場―を抵抗する人々は拒みます。反逆者は成功をエリートと同じようには定義しません。抵抗する人々は、大衆文化や権力エリートの前に膝付きません。彼らは金持ちになろうと思っていません。権力者の内輪のグループに入りたいとも思いません。抑圧された人々の側に立つと、抑圧された人々と同じ扱いを受けるということに甘んじます。


40:33 – 世界の価値体系の反転は自由を可能にします。抵抗する人々が自由なのは、多くのことや高い地位を達成したからではなく、わずかなニーズしか持たないからです。彼らは、人々を拘束しておくために使用される足かせを切断します。これが、エリートが彼らを恐れる理由です。エリートは彼らを物理的に押しつぶすことはできますが、彼らを買うことはできません。権力エリートは抵抗する者の信用を傷つけようとし、収入のために苦しまなければならないように仕向け、社会の周辺に押しやって、公のナラティブから排除します。抵抗する者にはステータス・シンボルを与えず、従順なリベラル・クラスを使って、彼らが無理を言う非現実的な夢想家であるかのように描かせます。

41:30 – 抵抗は根本的に政治的ではありません。文化的なものです。人知を超えたものの中に、人生の矛盾の中に意味と表現を見出すことに関係しています。音楽や詩、演劇、芸術は、圧倒的な力に反逆することの高潔さを表現することによって、抵抗を支えます。圧倒的な力とは、古代ギリシャ人が‘Fortuna’と呼んだ、結局は決して克服できないものです。芸術は有害な悪を許さない人々の自由と尊厳を祝います。勝利の保証はありません。少なくとも、権力者が定義するような勝利は保証されません。しかし、反逆の行為一つ一つにおいて、私たちは自由なのです。

42:20 – ブルース、スピリチュアル、作業歌の生の正直さのおかげで、アフリカ系アメリカ人は耐えることができたのです。権力は毒です。誰が権力を行使するかは問題ではありません。反逆者はこの理由で永遠の異端者です。反逆者はどのようなシステムにも収まりません。反逆者は弱者の側に立ちます。そしていつでも弱者は存在します。不正義はいつでもあります。そして、反逆者はいつもアウトサイダーです。

42:59 – そして、抵抗にはたゆみない警戒が要求されます。権力者は恐れを感じなくなったとたんに、人々の監視の目がそらされた途端に、警戒を緩めた途端に、支配者エリートが彼らの目的を隠すためのプロパガンダや検閲を使えるようになった途端に、抵抗勢力によって勝ち取られたことが巻き返しを食らいます。組織して立ち上がり、資本主義エリートたちに排斥され、悪者にされ、殺された男女がニューディールで勝ち取ったことが一つ一つはぎ取られています

43:36 — アフリカ系アメリカ人の勝利、体を張って血を流すことによって「偉大な社会」を可能にし、合法だった黒人差別を終わらせた勝利も巻き返されています。企業が支配する国家権力は社会的不平等や白人至上主義に対処するふりさえしません。実践されるのは報復の政治のみです。強要、恐怖、暴力、警察テロ、大量投獄が主な社会的コントロールの形態です。私たちの抵抗組織は、さらから作り直さなければなりません。

44:19 — しかし、企業が支配する国家は、問題を抱えています。信用がありません。自由市場、グローバリゼーション、トリクルダウン経済で約束されていたことはすべて、嘘だったこと、貪欲を満足するための空虚なイデオロギーだったことがばれています。そして、エリートたちは、反資本主義、反帝国主義の評論家に対する反論を持ちません。選挙での反体制運動を、とてつもない社会的不平等のせいではなくロシアの介入のせいにしようとするのは悪あがきのごまかしです。    

44:59 — 権力に仕える人々も企業に仕えるメディアも日夜我々の目をそらすために躍起になっています。社会的不平等が不満の根源であることをエリートが認めざるを得なくなったとき、彼らがこの不平等を実現するために果たした役割を認めざるを得なくなります。アメリカ政府は、企業権力に従属するものとして、茶番劇を演じるようになったのです。法の支配の最後の痕跡が消えようとしています。国の富を食い物にする政治家たちが、野蛮人の大群のように略奪し、強奪しています。公益を保護するために設立されたプログラム―公教育、福祉、環境保護規制―は解体途上にあります。ブクブクに膨らんだ軍は、国家の骨の髄までしゃぶって難攻不落です。非白人の貧乏人が通りで射殺されても誰も罪に問われません。我が国の刑務所は貧困者で一杯です。そして、このカオスと機能不全を統括しているのは、P.T. バーナム(サーカス王)が政治家になったような大統領で、私たちがだまし取られて巻き上げられている間に、バーナムのフィージーの人魚のような奇怪な目くらましを次から次へと出してくるのです。

46:15 – このディストピア時代がもうすぐやってくると警告した芸術家、知識人、物書きたちは、Martin BuberやGeorge OrwellからJames Baldwinに至るまで、大勢いました。しかし、私たちのデズニー化された世界、うっとりさせる無限の画像、自己のカルト、故意の文盲の中で、私たちはその警告に耳を傾けませんでした。セーレン・キルケゴールは、西洋文明が破滅の道をたどるよう運命付けられたのは、情緒や感情移入から知性を分離したからであり、専門家集団が管理する社会では、魂や精神の出る幕がないからであると言いました。共同社会は粉砕され、公益という概念は跡形もなく消し去られました。貪欲が祝福され、個人が神であり、映画が現実で、物質的体験を超えるものや共同社会を可能にする芸術的、知的な勢力は見くびられるか無視されます。低俗な欲望が自己識別と自己表現の形式として祝福されます。進歩は技術的、物質的な進歩のみで定義されます。そして、これが集団的な絶望と不安を作り出し、消費者文化のアイドルのきらびやかさ、騒がしさ、偽りの約束と共鳴しあいます。絶望は深まるばかりですが、私たちは自分の実存的恐怖を決して認めません。キルケゴールが理解したように、絶望の特性はまさにこれ、絶望していることに気が付かないことです。

48:13 – 抵抗する人々は容赦なく自己批判します。彼らは厳しい問いかけをします。大衆文化が約束する、達成できない永遠の若さ、名声、金銭的成功がはぐらかす次のような質問です。生まれることの意味、生きることの意味、死ぬことの意味、意味のある人生を生きるには、正義とは、真実とは、美とは、過去が現在について語ることは、過激な悪を拒むには?


49:08 – 私たちは、キルケゴールが「死に至る病」と呼んだ、絶望による魂の麻痺状態に陥っていて、その先には道徳的および身体的な劣化が待ち受けています。「合理的な抽象的思考とよそよそしい冷淡な知性偏重主義に支配されている人々は、快楽主義に負けた人、むやみに権力や暴力、搾取的性関係を欲しがる人と同じだけ非道徳的である。」とキルケゴールは言いました。

49:35 — 救済は、身体と魂の限界、人間であることの限界を受け入れ、これらの限界にも関わらず、善を行うことを探求するとき達成されます。この正直さは、常に絶望の淵に存在することを意味しますが、キルケゴールの言葉では「恐怖におののく状態」に置かれることを意味します。私たちは決して天使になることはできないことを認める一方で、残虐なけだものにならないようにあがきます。私たちは行動しなければなりません。そして、そのあとで許しを請わなければなりません。私たちは、自分の顔の中に迫害者の顔を見ることができなければなりません。Paul Tillichは「罪」という言葉を不道徳な行為という意味で使いませんでした。彼は、キルケゴールのように、罪を離反と定義しました。Tillichにとって、それは最も深い実存的ジレンマでした。罪は人生に意味と目的を与える力からの離反でした。この離反は、大衆文化に食い物にされている疎外感、不安、意味のなさ、絶望感を助長します。私たちが内側に閉じこもり、利己主義と自己陶酔症で定義される倒錯した超個人主義を抱きしめる限り、私たちはこの離反を克服することはできません。私たちは、自分自身からも、他者からも、聖なるものからも分離されたままです。


51:14 — 抵抗は暗黒の力との闘いだけに関係するものではありません。それは、完全な人間になることです。離反を克服することでもあります。それは愛する能力、聖なるものに敬意を表すること、尊厳、献身・自己犠牲、勇気、自由にも関係します。過激な悪に対する抵抗は人間の在り方の最高峰です。
ご清聴ありがとうございました。


2019/07/29

日本は弱腰外交を改めれば出生率が上がる

この因果関係は、「風が吹けば桶屋がもうかる」という因果関係より強いのではないかと思われる。その根拠は、男性ホルモンの変動要因にある。単純化して言うと、男性ホルモンは勝ち組になると高くなり、負け組になると低くなるという調査結果があるからである。そして、性交の回数も精子の数も、男性ホルモンのレベルに依存する。つまり、日本政府が、日本の実力通りに、日本は勝てるんだ、やましいことは何もないのだ、ということが国民に分かるようにふるまえば、日本男児の男性ホルモンレベルが高くなり、精子の数が増え、妊娠率が上昇する(日本男児の精子の数は他の国の男性に比べて著しく低いという報告をどこかで見た覚えがある)。

最近、日本政府が韓国に対して取っている毅然とした態度は、日本国民が歯がゆい思いをしながら長年、首を長くして待ち望んできたことである。日本の会社が所有しているタンカーがイラン近海で攻撃されたときに、イランの仕業だと断定したアメリカに対して、証拠を見せろといった日本政府の毅然とした態度も国民は見逃していない(これはトランプ政権が素人の寄せ集めであることを安倍政権が十分承知している証拠だと思いたい)。

日本の出生率のためにも、日本政府は今後とも毅然とした態度で外交に臨んでほしいものである。さらに、日本政府の毅然とした態度は日本人を元気にして、70万人ともいわれる引きこもり問題の解決にもつながるかもしれない。

2019/04/02

Adam Schiff の歴史に残るスピーチ:You might think it's OK that...




下院インテリジェンス委員会の議長、アダム・シフはチーム・トランプの不可解な言動を問題行動として取り上げてきた。そのことを根に持って、退任を迫る共和党議員に対して反論したのが下のビデオだ。それは、既に知られているチーム・トランプの不可解な問題行動のすべてを羅列したものだった。

下のビデオはRep. Schiff: You Might Say That's All OK. But I Don't Think It's OK.(あなた方は問題ないと言うかもしれないが、私はそうは思わない)という題でYouTubeで公開されているもの






下のテキストは、次の題のブログに乗っていた文字起こしテキストからのもの。日本語訳は筆者。

Under partisan fire, Adam Schiff presents his case without apology


“My colleagues might think it’s OK that the Russians offered dirt on the Democratic candidate for president as part of what’s described as the Russian government’s effort to help the Trump campaign. You might think that’s OK.
(共和党)議員の皆さんは、民主党の大統領候補に対してロシアが攻撃材料を提供したこと、それがロシア政府のトランプ選挙支援の一部として行われたことに、問題はないとお考えかもしれない。
“My colleagues might think it’s OK that when that was offered to the son of the president, who had a pivotal role in the campaign, that the president’s son did not call the FBI; he did not adamantly refuse that foreign help – no, instead that son said that he would ‘love’ the help with the Russians.
(共和党)議員の皆さんは、それが選挙運動で重要な役割を担っていた大統領の息子に提示されたこと、その息子はそれをFBIに通告せず、そのような外国からの援助を断固拒否しなかったばかりか、ロシアの援助を「大歓迎する」と言ったことに、問題はないとお考えかもしれない。
“You might think it’s OK that he took that meeting. You might think it’s OK that Paul Manafort, the campaign chair, someone with great experience running campaigns, also took that meeting. You might think it’s OK that the president’s son-in-law also took that meeting. You might think it’s OK that they concealed it from the public. You might think it’s OK that their only disappointment after that meeting was that the dirt they received on Hillary Clinton wasn’t better. You might think that’s OK.
あなた方は、彼がロシア人と会ってその話をしたことに問題はないとお考えかもしれない。選挙対策議長のポール・マナフォートは選挙運動で多くの経験を積んできた人ですが、彼も一緒にその話し合いに参加したことに問題はないとお考えかもしれない。彼らがそのことを隠ぺいしていたことに問題はないとお考えかもしれない。大統領の娘婿もその話し合いに参加していたことに問題はないとお考えかもしれない。その話し合いの後、彼らが唯一失望したことはヒラリー・クリントンに対する攻撃材料が期待したほどのものではなかったということに問題はないとお考えかもしれない。あなた方は、それに問題はないとお考えかもしれない。
“You might think it’s OK that when it was discovered, a year later, that they then lied about that meeting and said that it was about adoptions. You might think that it’s OK that it was reported that the president helped dictate that lie. You might think that’s OK. I don’t.
それが一年後に発覚した時、彼らがその話し合いについて嘘をつき、養子縁組についての話し合いだったと言ったことに問題はないとお考えかもしれない。あなた方は、大統領がその嘘を手伝ったと報告されていることに問題はないとお考えかもしれない。私はそうは思いません。
“You might think it’s OK that the campaign chairman of a presidential campaign would offer information about that campaign to a Russian oligarch in exchange for money or debt forgiveness. You might think that’s OK, I don’t.
大統領選挙の選対議長が、金銭または借金帳消しと引き換えに、ロシアの新興財閥の一人に選挙戦の情報を提供したことに問題はないとお考えかもしれない。私はそうは思いません。
“You might think it’s OK that that campaign chairman offered polling data to someone linked to Russian intelligence. I don’t think that’s OK.
その選対議長が選挙戦の調査データをロシアのインテリジェンスに繋がっている人に提供したことに問題はないとお考えかもしれない。私はそうは思いません。
“You might think it’s OK that the president himself called on Russia to hack his opponent’s emails, if they were listening. You might think it’s OK that later that day, in fact, the Russians attempted to hack a server affiliated with that campaign. I don’t think that’s OK.
大統領自身が演説の中で、対戦相手のメールをハッキングするようにロシアに呼びかけたことに問題はないとお考えかもしれない。その日のうちに、実際にロシアが対戦相手のサーバーをハッキングしようとしたことに問題はないとお考えかもしれない。私はそうは思いません。
“You might think it’s OK that the president’s son-in-law sought to establish a secret back channel of communication with the Russians through a Russian diplomatic facility. I don’t think that’s OK.
あなた方は、大統領の娘婿がロシアとのコミュニケーションのためにロシア大使館の施設を通して秘密の裏チャンネルを確立しようとしたことに問題はないとお考えかもしれない。私はそうは思いません。
“You might think it’s OK that an associate of the president made direct contact with the GRU through Guccifer 2.0 and WikiLeaks, that is considered a hostile intelligence agency. You might think it’s OK that a senior campaign official was instructed to reach that associate and find out what that hostile intelligence agency had to say in terms of dirt on his opponent.
あなた方は、大統領と親しい人物(訳者注:ロジャー・ストーンのこと)が、Guccifer 2.0 とWikiLeaksを通して、敵対的な情報機関と考えられているGRU(ロシア国防参謀本部情報総局)と直接コンタクトしていたことに問題はないとお考えかもしれない。あなた方は、対戦相手に対する攻撃材料についてその敵対的情報機関が持っている情報を聞き出すために、その人物に連絡するようにと選対事務所の上級関係者に指示が出されていたことに問題はないとお考えかもしれない。
“You might think it’s OK that the national security adviser designate secretly conferred with the Russian ambassador about undermining U.S. sanctions, and you might think it’s OK that he lied about it to the FBI.
あなた方は、国家安全保障顧問に予定されていた人物(訳者注:マイケル・フリン)が、ロシアに対するアメリカの制裁を緩めることについてロシア大使と秘密裏に話し合っていたことに問題はないとお考えかもしれない。そして、彼がそのことについてFBIに嘘をついていたことに問題はないとお考えかもしれない。
“You might say that’s all OK, that’s just what you need to do to win. But I don’t think it’s OK. I don’t think it’s OK. I think it’s immoral, I think it’s unethical, I think it’s unpatriotic and, yes, I think it’s corrupt – and evidence of collusion.”
あなた方は、それはすべて問題ない、勝つためにはしなければならないことだと言うかもしれない。私は、それは不道徳で、倫理に反し、非愛国的だと思います。そうです、それは腐敗であり共謀の証拠だと考えます。
“Now I have always said that the question of whether this amounts to proof of conspiracy was another matter. Whether the special counsel could prove beyond a reasonable doubt the proof of that crime would be up to the special counsel, and I would accept his decision, and I do. He’s a good and honorable man, and he is a good prosecutor.
さて、これが陰謀罪の証明として十分かどうかは別問題だというのが私の言ってきたことです。特別検察官がその犯罪の証拠を疑いの余地なく証明できたかどうかは特別検察官の決めることです。私は彼の判断を受け入れます。彼は立派な人です。そして立派な検察官です。
“But I do not think that conduct, criminal or not, is OK. And the day we do think that’s OK is the day we will look back and say that is the day that America lost its way.”
しかし、私は彼らのやったことは、犯罪かどうかに関わらず、問題ないとは考えません。我々がそれを問題ないと考えるようになった日はアメリカが道を見失った日としてふり返られることになるでしょう。
“And I will tell you one more thing that is apropos of the hearing today: I don’t think it’s OK that during a presidential campaign Mr. Trump sought the Kremlin’s help to consummate a real estate deal in Moscow that would make him a fortune – according to the special counsel, hundreds of millions of dollars. I don’t think it’s OK to conceal it from the public. I don’t think it’s OK that he advocated a new and more favorable policy towards the Russians even as he was seeking the Russians’ help, the Kremlin’s help to make money. I don’t think it’s OK that his attorney lied to our committee. There is a different word for that than collusion, and it’s called ‘compromise.’
もう一つ、今日の公聴会に関連することを言っておきます。大統領選の期間中に、トランプ氏がモスクワにおける不動産取引を成就するためにクレムリンの助けを求めたことに問題がないとは考えません。特別検察官によりますと、それはトランプ氏が何億ドルも儲けることができる取引でした。私は、それを公にしないで隠していたことに問題がないとは考えません。ロシアに対して好意的な新しい政策を提唱する一方で、儲けるためにロシアの助け、クレムリンの助けを求めていたことに問題がないとは考えません。彼の弁護士がこの委員会で嘘をついたことに問題がないとは考えません。それには共謀とは別の言葉があります。それは、compromise (訳者注:スパイ工作では弱みを握る/握られること、危うい状態にする/されること)と呼ばれます。
“And that is the subject of our hearing today.”
そして、それが今日の公聴会のテーマです。

この公聴会のフル・ビデオもある。