2013/12/30

これじゃ情報戦に勝てない

安部首相が靖国神社へ参拝に行ったと聞いて、やれやれと思ったのもつかの間、アメリカが「失望した」と入れなくてもいい茶々を入れたというので、原文のトーンを調べてみようとアメリカ大使館のウェブサイトへ行ってプレスリリースの原文を読んでみた。その最後のほうに「We take note of the Prime Minister’s expression of remorse for the past」とあって「expression of remorse」という表現に引っかかった。なにせ、「remorse」と言う表現は犯罪者がこれを示したかどうか、それが情状酌量に値するかといった文脈で聞くことが多いので、首相の声明の中でそのようにとられる表現があったとすれば、どのようなものだったのか気になったので、そちらも調べてみた。

なんと、「expression of remorse」から想像していた間接的な表現ではなく、そのものずばり、しかもご丁寧に最高級の形容詞である「severe」が付いて「Japan must never wage a war again.  This is my conviction based on the severe remorse for the past.」 とある。これでは、アメリカ側が誤解もしくは曲解したと言うわけにいかない。でも村山談話を否定する安部首相が、あの悪名高い東京裁判で有罪を宣告された人々さえ認めていない犯罪を認めるようなこと言うのかなと、今度は日本語の声明文を調べてみた。

対応する日本語の文は「日本は、二度と戦争を起こしてはならない。私は、過去への痛切な反省の上に立って、そう考えています。」つまり「痛切な反省」を「severe remorse」と訳したわけだ。日本人が英語を使って生活するようになってすぐに突き当たる問題のひとつに「反省」をどう英語で表現するかという問題がある。反省会とか自己反省とか日常的に頻繁に使用されるこの日本語に相当する英語がないのである。だから、それぞれの文脈に即して適切な表現を選択しなくてはならない。反省会=Review meeting、 自己反省=self‐reflection など、過去の過ちから学ぶという意味が主体で、remorseが強調する自分の犯した罪に対する「自責の念」や「良心の呵責」は文脈によってはあるかも知れない程度のものである。つまりこの文脈で「痛切な反省」を「severe remorse」と訳すのは国益を害するとんでもない誤訳または曲解である。

「Japan must never wage a war again. Being evermore mindful of the painful lessons of the past, that is my conviction.」 ぐらいが穏当なところではないかと思う。

総理の声明を誰が英訳しているのかは知らないが、このような英訳を出しているようでは、初めから情報戦に負けている。