2020/11/24

トランプがぐずぐずしている本当の理由

アメリカには、大統領の交代による政府機能の滞りを最小限にする目的で、政権の交代が整然と行われるようにするための引継ぎ方法を定めた“President Transition Act″ という法律がある。それによると、選挙人による大統領の選挙という形式的な最終決定を待たずに、選挙人を選ぶための一般選挙の翌日から、当確の次期大統領・副大統領のチームに引継ぎに必要な場所とサービスを提供することになっている。しかも、当確がハッキリしない場合でも、当確が出るまで引継ぎに必要な施設やサービスの提供が受けられるとある。
What happens if the result of the election is unclear? The law provides that an eligible candidate has the right to the facilities and services provided to eligible candidates until the date on which the Administrator is able to determine the apparent successful candidates for the office of president and vice president. ( Presidential Transition Act Summary より)

上の文で、the Administrator とあるのは、General Services Administration(GSA:米一般調達局と言うらしい) という組織の長(=Administrator)、つまり事務方のことである。

バイデンの当確が発表されたのは11月7日だった。バイデン・チームは直ちに政権交代の作業を始めた。しかし、トランプが敗北を認めないので、トランプに忠実なGSAはバイデンの当確を認めようとしないばかりか、引継ぎの作業に必要な施設もサービスも提供しようとしない。(GSA は当確がはっきりしなくても、その可能性のある候補者に引継ぎに必要な施設とサービスを提供することになっているから、法律に違反している。)バイデンは引継ぎが遅れれば、予防注射のスケジュールが遅れて、コロナで死ぬ人がそれだけ増えるとGSAを非難したが、らちが明かない。しかし、GSAのエミリー・マーフィー女史は、下院の議長がしびれを切らして、明日話をしたいから出頭するように言った途端に気が変わったらしい。11月23日にトランプはGSAにOKを出したとツイートした。当のマーフィー女史は独自の判断だと言っているらしい(まぁ、どうでもいいけど)。

上のツイートによると、トランプはまだ逆転勝利をあきらめていないようだが、法廷での不正の訴えは、すべて棄却され。最後の切り札かと思われた、ベネズエラの故ヒューゴ・チャバス大統領やジョージ・ソロス、CIAなどが絡んだ集計プログラムに仕込んだ不正などという荒唐無稽な陰謀論には法廷に持ち出すことができるような証拠もない。選挙結果の認定をさせない戦略も、再集計で認定を遅らす作戦も、支持者を煽る効果はあっても、大多数のアメリカ人には、いい加減にしてほしいと、いら立ちがつのるだけで逆効果。それでも、トランプが支持者を煽り続ける理由はお金である。

The Real Reason Trump Won’t Concede
(トランプが負けを認めない本当の理由)


この動画は、クリントン大統領一期目の労働長官だったロバート・ライヒによるもので、トランプ大統領は意味のない "Official Election Defense Fund"=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものに献金を募ることによって、トランプ支持者たちをペテンにかけようとしているということらしい。以下はここで解説されている内容の抄訳。

トランプは “Official Election Defense Fund”=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものを立ち上げ、自分の支持者たちに献金を頼むのに忙しい。そのお金は、ありもしない不正投票に対する法廷闘争の資金として使われることになっている。

しかし、詳細を読むと話が違う。 

トランプの「公式の選挙法廷闘争基金」に対する献金の60 %は Save America というトランプの新しいリーダーシップ・ポリティカル・アクション・コミティー(PAC)に行く。 これは、選挙の一週間後に設立されたものだ。残りの 40 %は共和党全国委員会(RNC)に行く。だから、$500の献金をした場合、トランプの PAC に $300、RNC に $200入る。選挙法廷闘争基金には一銭も入らない。

献金は法的な上限の一人$5000までをトランプのPACに、$3000までを共和党全国委員会に、残りが法廷闘争基金に回る、つまり献金は$8000を超えなければ、一銭も法廷闘争基金に回らない。明らかに、トランプは過去4年間、米国民の税金で懐を肥やしただけでは足りず、今や、我々の選挙を攻撃し、民主主義を弱体化することによって懐を肥やそうとしている。

彼の支持者たちは、一貫して、いいカモにされている。

PACへの献金を募る理由は、選挙運動委員会への献金とは違い、PACへの献金は、旅費やイベントなどの個人的な経費にも使えるからだという。さらに、PACのお金は、共和党の候補者を支援するためにも使えるから、共和党への影響力も維持できる。そうやって共和党を支持することで、トランプは共和党が権力を維持するためのひねくれた戦略に力を貸す。

深く分断された国は、共和党の大口支持者たちにとって都合がいいのである。彼らは、経済成長の恩恵を独占し、残り90%のアメリカ人はおこぼれを取り合って争う。この構図は、トランプの人種差別と盗まれた選挙という馬鹿げた主張で煽られたトランプ支持者たちのおかげで、トランプがホワイトハウスから去っても続く。

関連動画も参照: Trump's Attempt to Steal the Election Won't Work 【トランプは選挙を盗もうとしても成功しない】 → https://youtu.be/-pnyn_r4KJ4 

2020/11/23

クールエイドを飲んだトランプ支持者たち

「クールエイドを飲む」という米語の慣用句を知っている日本人はあまりいないかもしれないが、ネット検索をすれば、その意味を解説するページがいくつも見つかる。以下はその由来を手短にまとめた文書の一節である。

「drink the Kool-Aid (クールエイドを飲 む)」という慣用句は、「むやみに信じる」とか「無批判に従う」とか「盲信す る」という意味になるらしい。 なぜそんな意味になったかというと、1978年にガイアナでおこった集団自殺に関係がある。人民寺院という宗教団体の信者900名以上がシアン化合物入りの粉末ジュースを飲んで自殺した。教祖が言えば毒入りでも飲むぐらい無批判に従う。 というわけで「クールエイドを飲む」と言えば、「無批判に従う」とか「盲信する」という意味になったらしい。(株式会社大和コンピューターのメルマガより


クールエイドのパッケージ例

トランプの支持者の中には、covit-19(新型コロナ)のパンデミックは民主党の選挙戦略のデマだから選挙が終われば誰も口にしなくなる、風邪と同じで怖くない、いい薬があるからすぐに治る、マスクはするな、避ける必要もない、云々というトランプ大統領の集団免疫作戦、またの名を「無策」を信じて、死ぬ目にあっている人がいるようだ。つまり、彼らはクールエイドを飲んだのだ。

それを象徴するような話が先日ツイッターで拡散され、ニュースにまでなった。サウスダコタの救急看護婦が打ったツイートは、covit-19で死にそうになっていても、その存在を信じないトランプ信者がいるらしいことを示している。

(訳)今夜は病院の夜勤がない。犬と一緒にソファーに座りながら、ここ数日のコロナ患者のことを考えずにはいられない。特に印象に残っているのは、新型コロナのウイルスが本当だということをいまだに信じない連中だ。魔法の薬を求めて叫び、ジョー・バイデンが (訳)アメリカをダメにすると叫ぶ連中だ。しかも、それは呼吸困難で100%に設定したVapothermに繋がれている間も続く。自分が病気なのには別の理由があるに違いないと言い張る。看護婦に罵詈雑言を浴びせて、なんでそんなものをごたごた身に着ける必要があるのか、自分は新型コロナに罹っていないし、そんなもの存在しないし、と詰問してくる。これは本当の話だ。そして

(訳)そのことが頭から離れない。あの人たちは自分がそんな病気に罹るなんてありえないと本当に思っている。そして、人工呼吸器のチューブが挿入されると叫ぶのが止まる。終わりのないホラー映画のようだ。出演者や制作チームのリストも出ない。ただただ始めに戻って同じことをまた繰り返す。

 以下はCNNが行った看護婦ジョディに対するインタビューである。

これが家族と話せる最後のチャンスかもしれないと言って、ビデオ通話を進めても、そんな病気はありえない、嘘だ、と言って怒りと憎悪の固まりになるのだそうだ。

トランプの人気は「パーソナリティのカルト」だという人がいる。トランプ支持者の行動を見ていると、カルトと呼ぶのもあながち間違いではないと思えてくる。トランプ大統領と信者の言動を見ていてクールエイドを思いつく人は少なくない。"Trump Kool aid" で検索すると記事だけでなく画像もたくさんヒットする。中には、Kool aid をもじって Fool aid になっているものもある。

看護婦ジョディ・ドーリングのツイートを受けて、書かれた記事もある。
For Trump cultists, COVID is the new Kool-Aid (トランプの信者にとっては新型コロナが新しいクールエイド)

when people are prepared to die denying reality, they definitely belong to a cult — one that can’t help but call to mind the hundreds who drank the Kool-Aid at Jonestown in 1978, the most astonishing example of mass delusion during my adult life.
(訳)人々が死ぬこともいとわずに現実を否定するとき、彼らは間違いなくカルトに属している。カルトの例としては、1978年、ジョーンズタウンでクールエイドを飲んだ何百人もの人々を、私が大人になってから見た最も驚くべき集団妄想の例を思い出さずにはいられない。



2020/11/10

トランプの最後の悪あがき

トランプ大統領は、何を早とちりしてか、まだ誰も大統領選の当確を発表していない時点で、俺は選挙に勝ったのに、その勝利が盗まれようとしている、これ以上、不正な郵便投票を開票させるな、とホワイトハウスの記者会見で言い出した。それをライブで中継していた主要メディアは一斉にその中継をストップした。まったく根拠のないデマであり、大統領の声明としては影響が大きすぎるデマだったからだ。

日本のトランプファンの中に、バイデンが、同じようなことを言った時には、中継を中止しなかった主要メディアは、明らかに、偏向していてトランプの言論の自由を封じている、けしからん。という人がいるのを見て、仰天した。バイデンは「俺は勝つと信じている」的なことを言ったに過ぎないのだ。英語を明らかに理解していない、日本の情弱丸出しの発言だ。こんな調子では、日本が、国際的な土俵で活躍できる日はまだまだ遠い。


トランプ大統領に関する暴露本を出版して一躍有名になった大統領の姪で臨床心理学者メアリー・トランプ は、トランプのその声明をクーデターの試みだと指摘した。さらに、大統領の任期は後70日ほど残っているので、潔く負けを認めることができないトランプ大統領が何をしでかすか心配だという。選挙に負けたとはいえ、トランプの熱心な支持者が減ったわけではないから、トランプのとんでもない呼びかけに応じる人間はたくさんいる。既に、アーカンソー州の小さな町の警察署長が Parler というSNSに「マルキストの民主党員を全員ぶっ殺せ」的なコメントを書いたことが発覚して、辞職させられた( Police Chief Resigns In Arkansas After 'Death To All Marxist Democrats' Messages)。

今、トランプは開票過程が透明ではなかったとか、不正投票があった、開票に不正があったなどと主張して、法廷闘争で郵便投票を無効にする裁判を推し進め、2000年のゴア対ブッシュの時のように、最後に最高裁で自分に有利な判定を引き出そうという戦略を進めているが、今のところ「その証拠は?」と言われても、そういう話を聞いたという程度の証拠しか出せず、すべて、棄却されている。

法廷闘争は、開票前から始まっていて、テキサスでは、期日前投票で、ドライブスルー投票が行われたのは違法だと言って、3つの訴訟を起こしたが、すべて、棄却された。

ワシントンポストの11月9日の記事によると、トランプの負けた6つの州で、それまでにトランプ陣営が法廷に持ち込んだ不正の訴えは、すべて棄却されている。

トランプ大統領は、郵便投票は不正が多い、信用できないと早くから主張してきた。特に、新型コロナの感染を避けるために、特別な理由がなくても不在者投票(郵便投票)ができるようになった途端に、郵便投票は不正が多いと、ことあるたびに主張しだした。証拠を一つも出さずに。しかも、その不正(どんな不正か誰も言わない)を防止するための対策などには全く興味を示さないばかりか、郵便公社の頭をすげ替えて、郵便の配達がスローダウンするような改革(残業の廃止、自動仕分け機の廃棄など)を実行させたのである。つまり、郵便投票によって増える郵便物の処理が滞りなく行われるように改革するのではなく、その反対を行わせたのである。裁判官は、すべての改革を停止し、元に戻すように命令したが、破壊され廃棄処分された自動仕分け装置などはそう簡単に元に戻せるものではない。

自治体によっては、郵便局は頼りにならないからと、選管が街角のあちこちに郵便投票を直接投函できる箱を用意したところもあった。トランプ陣営は、それも無効だと言い張っている。投票日までに届くようにするには、1週間以上前に郵便局に持っていく必要があること、遅くなった場合は、郵便局に持っていかないように、選管事務所に直接持っていくようにと、ニュース番組などで呼びかけられていた。

郵便の遅れを考慮して、消印の日付が投票日あるいはそれ以前のものなら、投票日を過ぎてから届いたものも有効にすると決めた自治体もあった。激戦州のペンシルバニア州もその一つで、後で問題にされる可能性を考慮して、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にして、最後に開票する方法を取った。トランプ陣営は、何を勘違いしたのか、開票が始まってから、裁判所に訴えて、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にするように要求し、裁判所が同意したら、裁判で勝ったと大はしゃぎである。

民主党は、新型コロナを避けるために、混雑する投票所を避けて、郵便投票するように呼びかけていた。一方、トランプ大統領は、投票所で投票するように呼びかけ、さらに、投票所に銃を持って行って、周りを監視するように呼びかけた。そんなことをすれば、他の投票者に対する威嚇行為として逮捕されるにもかかわらずである。そんなトランプの描いていたシナリオは誰にも見え見えだった。開票は、投票所で投票された票から開始される(フロリダのように郵便投票も当日に集計されるようにしていた州もあった)。つまり、開票当日の夜には、トランプ票が多くなる。しかし、いったん郵便投票の開票が始まれば、逆転する。トランプは、その突然の逆転にイチャモンを付けて、どうだ俺が言った通りだろう。この逆転は大規模な不正なしには起きえないと言って、支持者を煽り、裁判に訴える。でも、裁判所では証拠なしに訴えても取り合ってもらえない。

トランプはイチャモンが一つでも認められれば、それをもとに、あっちの票もこっちの票も無効だと、さらに攻めるつもりだ。

選挙を運営する選管も手順や法的な落ち度がないように準備万端、手ぐすね引いて待っていた。ヒトのやることだから、手違いや操作ミスの一つや二つはあっても不思議はないが、それでは、選挙の結果を無効にするような組織的な不正は立証できない。そんな法廷闘争をやらされている弁護士事務所は、そろそろ、嫌気がさしてきているようだ。11月12日にはトランプの法廷闘争から手を引いてしまった弁護士事務所もある

Will the President’s Lawsuits Overturn the Election?

大統領の訴訟は選挙を覆すことができるか
法廷に提出された文書や弁論を見れば、トランプ陣営の弁護たちがメリットのある告訴ができると思っていないのは明らか。一般に流布されている不正の内容と、弁護士たちが法廷に持ち込んでいる「不正の摘発」の内容が必ずしも同じでないこと、法廷闘争ができるだけの証拠がないことは、トランプの不正があったという主張がデマであることの証拠であろう。BBCのUS election 2020: Four viral vote claims fact-checked には、巷で糾弾されている不正は、ファクトチェックすれば、単純な作業ミスや勘違いで、大規模、組織的な不正を主張できるようなものではないことが報告されている。

法治国家の一翼を担っている弁護士たちが、独裁者的な人治主義をごり押しして、民主主義の根幹をなす選挙制度を難癖付けて破壊しようとしているトランプの法廷闘争を引き受けること自体に疑念を抱いているとしても不思議はない。しかも、メリットのない訴訟を繰り返せば、弁護士の資格を剥奪されかねない。

ジョージア州の選管は共和党員が運営しているが、党の圧力に負けて、選管独自の監査として、票の読み取り機械を使わずに、すべて手で数えなおすと宣言した。これは、僅差で負けた候補がリクエストできる再集計とは別ものらしい (Trump’s Main Obstacle in Flipping Georgia Vote Is Republican)。しかも、どちらが正確かというと、機械の方だとの認識があるにも関わらずである。

たとえ、ジョージア州でトランプが勝ったとしても、バイデンの勝利をひっくり返すことはできないが、トランプの法廷闘争に勢いが付き、選挙の最終決定を遅らせることができれば、有利になるという算段なのであろう。ジョージア州でのごたごたを長引かせているのは、トランプに注目を集めて置けば、1月5日にジョージア州で行われる2つの上院議席を掛けた決戦投票に有利との判断があるからだともいわれている。

ちなみに、選挙の再集計のルールは州ごとに決められていて、いつだれがどのような条件下で再集計をリクエストできるかに大きな違いがある。結果が僅差になった場合、自動的に再集計を開始する条件を決めている州もあるが、差は、1%、0.5%、0.1%など様々だ。人口の多い州ほど僅差のパーセンテージが小さく設定されている。再集計をリクエストする候補は、その費用を払う必要がある。つまり、お金がないと再集計をリクエストできない。

郵便局員が内部告発を取り下げたこともトランプ陣営の本気度を疑わせる。大掛かりな不正があったという主張は、支持者たちを煽ってトランプに関心を惹きつけ、法廷闘争資金と称して寄付金を募るためのリアリティーショーに過ぎないことを示しているようにしか見えない。




2020/07/24

コロナを制圧したニューヨーク州

アメリカ東部のニューヨーク州とその周辺の地域では、パンデミックは4月中旬をピークとして収束し、現在進行中の南部や西部での爆発にも関わらず、収束状態を維持している。これは、ニューヨーク州知事、Andew Cuomo のリーダーシップによるところが大きい。クオモ知事が大統領候補になっていれば、民主党は勝てるのにと、トランプ大統領が言ったとか言わないとか。

クオモ氏が連邦政府の危機管理分野で長年蓄積してきた知恵が生かされていることは、明白で、このタイミングで氏がニューヨーク州知事であったことは、不幸中の幸いであった。それについて、【アメリカの気になる話】コロナを制圧したニューヨーク州をYouTubeにアップロードしたので、詳細は動画でご覧ください。


2020/07/12

臨床心理学者の姪がトランプ大統領をディする暴露本を出す

ジョン・ボルトンのトランプ大統領暴露本に続いて、トランプ大統領の姪がトランプ家の暴露本を書いた。

ワシントンポスト紙のブック・レビュー、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred.より

Too Much - Never Enough:How my family created the world's most dangerous man(Mary L. Trump Ph.D. 著)は、身内のみが知るトランプ大統領の言動と脱税のからくりを、20年前に遺産相続で騙された姪の視点と臨床心理学者の視点から書いた本である。7月14日の出版に先立って報道陣に配布され、その本をRachel Maddowが真っ先に読破して解説した。大統領の弟が裁判所に本の出版停止を訴えているが、この期に及んでたいして意味がない。出版停止の理由は、遺産相続の時に同意した守秘義務に違反するからだそうだが、嘘で塗り固めた遺産相続の同意書になど効力はないというのがメアリーの主張だ。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より

メアリー・トランプはトランプ大統領の兄の娘である。下の写真はトランプ大統領の兄弟姉妹(3男2女)で、中央に立っているのが長男でMaryの父親フレッド2世(メアリーが16歳の時に死去)である。

Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より

メアリーがこの本を書いた動機は、本の副題「How my family created the world's most dangerous man (我が一族がどのように世界一危険な男を作ったか)が示唆しているが、下の一節は、メアリーがニューヨークタイムズの記者に協力する決意を固めたときの心の動きを説明している。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
メアリーは足の骨を骨折して家で1か月療養する羽目になったとき、叔父のTwitterやニュースでの報道を四六時中見るともなく見ていたから、叔父の巻き起こす問題をリアルタイムで追っていた。その問題行動の数々をメアリーは「規範をズタズタに切り刻み、同盟国を危険に晒し、弱者を踏みつける」行動と特徴付けている。しかも、彼女にとって驚きだったのはそのことではなく、叔父に協力してそのような行動を可能にする人間の数がどんどん増えていることだったと書いている。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
さらに、「私の叔父の政策のせいで、民主主義が崩壊し、人々の人生が破壊されるのを見ながら、スーザン・クレイグ(NYTの記者)の手紙を考え続けた。彼女の名刺を探し出して電話した。」と続く。

 トランプ大統領の人格の歪みについては、巷であれこれ取沙汰されているし、大統領らしからぬ数々の言動からうかがい知ることができるから、ナルシシストで、サイコパスで、嘘をつくことを何とも思わず、嘘をつくのが娯楽の一つと聞いても、姪の臨床心理学者の目から見てもそうなんだ、で終わるが、ニューヨーク・タイムズ紙がトランプの脱税のからくりをスクープできたのは、メアリーが祖父の遺産の相続についてドナルド・トランプと裁判で争った時の資料を提供したからだというのは、この本で初めて明かされたことである。しかも、メアリーはそれらの資料が示す遺産の本当の価値をニューヨーク・タイムズが分析するまで知らなかったというのである(その時雇った弁護士が無能だった?)。

Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
もう一つ、身内で臨床心理学者だから書くことができた情報とし注目されているのは、ドナルド・トランプと父親との関係である。

MSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)より

「フレッド(父親)がドナルドを破壊した。ドナルドが人間的感情の全領域を経験し発達させる能力を阻害し、世界観を歪め、その中で生きる能力を損なわせた。」つまり、ドナルド・トランプは父親によるEmotional Abuse(情緒的虐待)の犠牲者なのだ。ビジネスで成功するには「Killer」にならなければならないという父親が行ったスパルタ教育のトラウマから逃れるために、長男のフレッド2世はアル中になり、2男のドナルドは道化を演じ、無慈悲で攻撃的、威圧的な支配者として君臨した父親の言動を内面化して父親に認められようとした。しかし、トランプ大統領の傍若無人で攻撃的な外面のすぐ下には、今でも父親を恐れる幼い少年がいるという人もいる。

ワシントンポスト紙のブック・レビューでは、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred. (メアリー・トランプの暴露本では本当の悪者はドナルドではなく、フレッドだ)というタイトルで、父親フレッドが諸悪の根源と読めることが指摘されている。

トランプの本、The Art of The Deal のゴーストライターだったトニー・シュワルツ(Tony Schwartz)も、メアリー・トランプの本がトランプの性格の歪みとその原因を分析している点に注目している人の一人だ。The Art of The Dealを書くためにトランプと何百時間も一緒の時間を過ごしたから、トランプを間近で観察し、様々な角度から分析する機会のあった人間の一人だ。トランプを一躍有名人にしたこの本を書いたことを彼は後悔しているという(Wikipediaを参照)。トランプの次の本、The Art of The Comebackのゴーストライターも頼まれたが、断ったということだ。

メアリー・トランプの本を読むと、その仕事がメアリーに回ってきたことがわかる。もっとも、メアリーはトランプのいい加減な態度にあきれてゴーストライターの仕事は止めてしまった。

トニー・シュワルツは、2016年にトランプが共和党の大統領候補に指名される直前に出版されたThe New Yorker の“Donald Trump’s Ghostwriter Tells All” (ドナルド・トランプのゴーストライターがすべてを暴露)のためのインタビューに応じている。さらに、2020年の5月にThe Psychopath in Chiefを書いて、トランプがアメリカにとって、さらには世界にとって、どんなに危険な人間かを訴えている。

トニー・シュワルツによると、サイコパスの性格を特徴付ける20の項目のうち、16項目がドナルド・トランプに当てはまる。つまり、トランプ大統領は究極のサイコパスであり、それから予測できるトランプ大統領の行動原理は民主主義社会の大統領の役割とは相いれないものであることは日増しに明らかになってきているという。
How do we deal with a person whose core impulse in every part of his life is to deny, deceive, deflect, disparage, and double-down every time he is challenged? And what precisely is the danger such a person poses if he also happens to be the leader of the free world, during a crisis in which thousands of people are dying every day, with no letup in sight?(人生のあらゆる場面における中核的行動原理が否定、欺瞞、虚勢、はぐらかし、おとしめ、挑戦されても絶対自分の落ち度を認めない、そういう人間をどう扱ったらいいのか。そして、毎日何千人もの人が死ぬ危機にあって収束が見えない中、そのような人間が自由主義世界のリーダーである場合、どんな危険をもたらすのか。) 
The first answer is that we must understand exactly who we’re dealing with, and we have not, because what motivates Trump’s behavior is so far from our own inner experience that it leaves us feeling forever flummoxed.(第一の答えは、どんな人間を相手にしているのかを正確に理解すること。まだできていませんが。なぜなら、トランプの行動の動機は我々の内面的な経験とはあまりにもかけ離れているので永遠に理解に苦しむことになるからです。)

The trait that most distinguishes psychopaths is the utter absence of conscience — the capacity to lie, cheat, steal, and inflict pain to achieve their ends without a scintilla of guilt or shame, as Trump so demonstrably does.(サイコパスの最も際立った特徴は良心の完全な欠落です。目的を達成するためには、罪も恥も一切感じることなく、嘘をつき、だまし、盗み、人を苦しめることができる能力です。トランプの言動はそのいい例です。)
ホストのAri Melber(左)とTony Schwartz (右)

上記のような警鐘を鳴らしてきたシュワルツ氏にとって、メアリー・トランプの明かした「父親による情緒的虐待と母親によるネグレクト」は、ドナルド・トランプという危険人物のなぞ解きに大きく貢献する情報だったようだ。同氏はMSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)という番組でのインタビューで、Adverse Childhood Experiences (ACE) Study(子供の時の有害な体験についての研究)に触れ、アメリカでは多くの人がトラウマとなるような、そのたぐいの有害な体験をしていること、そのような人は少数の例外ではなく主流と言えるほどであること、アメリカ社会の悲劇は人格形成に影響するこのような重要な要因から人々が目を背けていることであると指摘している。つまり、多くの人がトランプ大統領と同じようなトラウマとなる過去を抱えていて、それが、同じような問題行動のもとになっているというのである。

考えてみれば、アメリカの傍若無人な、武力にものを言わせた世界の支配は、人格形成に影響するようなトラウマを多くの国民が抱えていて、それが国の政治スタイルまで左右していると考えるとよりよく理解できるのかもしれない。アメリカといういじめっ子にさんざんいじめられてきた日本は、このような論点も理解しておいた方がいいのかもしれない。


2020/06/21

トランプの出鼻をくじいた子供たち

トランプ大統領が三か月の自粛の後に選挙に向けた集会を再開する時と場所として、6月19日、オクラホマ州のタルサ市を選んだのは、わざとだったのか、無知・無神経だったからなのかどうかは知らないが、これは黒人の神経を逆なでする選択としては、最高の選択だった。

6月19日は、Juneteenthと言う奴隷解放を祝う記念日である。しかも、それはリンカーン大統領が1863年1月1日に奴隷解放宣言を出してから2年以上経って、ようやくテキサス州を制圧した北軍が1865年6月19日に実施を宣言することができたといういわく付きの記念日なのだ。

しかも、オクラホマ州タルサ市は、1921年に黒人の高級住宅街や学校、教会、病院、商業施設などがあったグリーンウッド地区が、武装した白人暴徒に襲撃・焼き討ちされ、多数の黒人が虐殺され、一万人以上が家を失った場所なのだ(ウィキペディアのタルサ人種虐殺を参照)。

結局トランプは1週間前に、集会を翌日の20日に変更せざるを得なかった。パンデミックの悪化に歯止めがかからないどころか急上昇中のオクラホマ州での3密の集会である、パンデミックの数字が上がっているのは、検査を増やしたせいだと言って、検査を減らすように指示を出したトランプは、もう、パンデミックは終わったと宣言して集会を準備させた。トランプのサポーターはトランプに倣って、マスクもしない。そんな連中が大挙して街に押しかけてきたらたまらないと思う住民の心配をよそに、トランプは19000席のアリーナを埋めて、気炎を上げる皮算用をしていた。

ところが、蓋を開けてみると、下の写真のように2階の座席がほとんど埋まっていない。
https://youtu.be/Gj5T3lAaKTU

その一因を説明しているのがニューヨークタイムズ紙の下記の題の記事である。

TikTok Teens and K-Pop Stans Say They Sank Trump Rally(TikTokのティーンズとKポップのファンが自分たちがトランプの集会を沈めたと主張)
Did a successful prank inflate attendance expectations for President Trump’s rally in Tulsa, Okla.?(タルサ市におけるトランプ大統領の集会で参加者数の予想が実際より膨らむように仕組んだいたずらが成功した?)

何をやったかというと、集会に参加するためのチケット(無料)を予約するようにTikTokというSNSを使って呼びかけた人がいたのだ。もちろんチケットだけ予約して、実際には参加しないところが味噌。それが、瞬く間に70万の「いいね!」と200万回を超える閲覧を達成したのだそうだ。TikTokから他のSNSにもすぐに拡散した。しかも、拡散のメッセージや投稿が発覚しないように、みんなすぐに削除していたのだとか。ちなみに、ティーンズが大多数だったのはTikTokというSNSのユーザーはほとんどが若い人であることと、KポップのBTS(防弾少年団)が拡散に尽力したかららしい。

2020/01/06

グローバル金融との闘い:歴史戦などにかまけている場合ではない

もう歴史戦などにかまけている場合ではない。歴史戦で攻撃されて、日本の保守陣営が反撃に忙殺されている間に、日本はアメリカ/グローバル金融資本に食い物にされ放題だった。幸い、最近このことに注目する人が増えてきたようなのは心強いことだが(例えばオリーブの木の黒川敦彦)、これを日本の政治力に反映させるには、まだ道遠しの感はぬぐえない。そういう筆者も、事の重大性に気が付いたのはごく最近のことだ。

日米貿易、経済交渉ではいつも日本が譲歩させられている。1980年代にはレーガン及びブッシュ共和党政権に花を持たせるために譲歩し、2019年またしも、日本は共和党政権、トランプに花を持たせるために、つまり来年に控えている大統領選挙に有利になるように譲歩したように見える。阿部首相はWinーWinだったと言ったのに対し、トランプ大統領は大勝利だったと言った。トランプ大統領はなんでも自分の勝だと言う人だから額面道りに受け取っていいかどうかは、妥結した交渉内容を見ないとわからないが、ニュースで報道されている大雑把な内容から判断すると、アメリカはTPPでは引き出せなかった譲歩を日本から引き出したようだ。

マイケル・ハドソンによると、アメリカの民主党が日本に対して冷たいのは自民党政府がいつも共和党がよく見えるような妥協をしてきたからだという。民主党の日本に対する態度は冷たいというより、自分を犠牲にする馬鹿さ加減にあきれて馬鹿にされていると言った方がいいのかもしれない。

警告は既にベトナム戦争の最中の1972年に発せられていた。目にした主な情報源は以下に挙げたマイケル・ハドソンとその周辺の人たちによるブログや本である。

自らを略奪するまでに落ちぶれた欧米 (Paul Craig Roberts 著の日本語訳)
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」(マイケル・ハドソン 著の日本語訳)
No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)(マイケル・ハドソン著の日本語訳)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)(マイケル・ハドソン著の日本語訳)
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」(マイケル・ハドソン著の日本語訳)

雅無乱日記」というタイトルでその方面のブログを書いていた人もいるのでそのリンクも下にリストアップしておく。

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