2020/11/10

トランプの最後の悪あがき

トランプ大統領は、何を早とちりしてか、まだ誰も大統領選の当確を発表していない時点で、俺は選挙に勝ったのに、その勝利が盗まれようとしている、これ以上、不正な郵便投票を開票させるな、とホワイトハウスの記者会見で言い出した。それをライブで中継していた主要メディアは一斉にその中継をストップした。まったく根拠のないデマであり、大統領の声明としては影響が大きすぎるデマだったからだ。

日本のトランプファンの中に、バイデンが、同じようなことを言った時には、中継を中止しなかった主要メディアは、明らかに、偏向していてトランプの言論の自由を封じている、けしからん。という人がいるのを見て、仰天した。バイデンは「俺は勝つと信じている」的なことを言ったに過ぎないのだ。英語を明らかに理解していない、日本の情弱丸出しの発言だ。こんな調子では、日本が、国際的な土俵で活躍できる日はまだまだ遠い。


トランプ大統領に関する暴露本を出版して一躍有名になった大統領の姪で臨床心理学者メアリー・トランプ は、トランプのその声明をクーデターの試みだと指摘した。さらに、大統領の任期は後70日ほど残っているので、潔く負けを認めることができないトランプ大統領が何をしでかすか心配だという。選挙に負けたとはいえ、トランプの熱心な支持者が減ったわけではないから、トランプのとんでもない呼びかけに応じる人間はたくさんいる。既に、アーカンソー州の小さな町の警察署長が Parler というSNSに「マルキストの民主党員を全員ぶっ殺せ」的なコメントを書いたことが発覚して、辞職させられた( Police Chief Resigns In Arkansas After 'Death To All Marxist Democrats' Messages)。

今、トランプは開票過程が透明ではなかったとか、不正投票があった、開票に不正があったなどと主張して、法廷闘争で郵便投票を無効にする裁判を推し進め、2000年のゴア対ブッシュの時のように、最後に最高裁で自分に有利な判定を引き出そうという戦略を進めているが、今のところ「その証拠は?」と言われても、そういう話を聞いたという程度の証拠しか出せず、すべて、棄却されている。

法廷闘争は、開票前から始まっていて、テキサスでは、期日前投票で、ドライブスルー投票が行われたのは違法だと言って、3つの訴訟を起こしたが、すべて、棄却された。

ワシントンポストの11月9日の記事によると、トランプの負けた6つの州で、それまでにトランプ陣営が法廷に持ち込んだ不正の訴えは、すべて棄却されている。

トランプ大統領は、郵便投票は不正が多い、信用できないと早くから主張してきた。特に、新型コロナの感染を避けるために、特別な理由がなくても不在者投票(郵便投票)ができるようになった途端に、郵便投票は不正が多いと、ことあるたびに主張しだした。証拠を一つも出さずに。しかも、その不正(どんな不正か誰も言わない)を防止するための対策などには全く興味を示さないばかりか、郵便公社の頭をすげ替えて、郵便の配達がスローダウンするような改革(残業の廃止、自動仕分け機の廃棄など)を実行させたのである。つまり、郵便投票によって増える郵便物の処理が滞りなく行われるように改革するのではなく、その反対を行わせたのである。裁判官は、すべての改革を停止し、元に戻すように命令したが、破壊され廃棄処分された自動仕分け装置などはそう簡単に元に戻せるものではない。

自治体によっては、郵便局は頼りにならないからと、選管が街角のあちこちに郵便投票を直接投函できる箱を用意したところもあった。トランプ陣営は、それも無効だと言い張っている。投票日までに届くようにするには、1週間以上前に郵便局に持っていく必要があること、遅くなった場合は、郵便局に持っていかないように、選管事務所に直接持っていくようにと、ニュース番組などで呼びかけられていた。

郵便の遅れを考慮して、消印の日付が投票日あるいはそれ以前のものなら、投票日を過ぎてから届いたものも有効にすると決めた自治体もあった。激戦州のペンシルバニア州もその一つで、後で問題にされる可能性を考慮して、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にして、最後に開票する方法を取った。トランプ陣営は、何を勘違いしたのか、開票が始まってから、裁判所に訴えて、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にするように要求し、裁判所が同意したら、裁判で勝ったと大はしゃぎである。

民主党は、新型コロナを避けるために、混雑する投票所を避けて、郵便投票するように呼びかけていた。一方、トランプ大統領は、投票所で投票するように呼びかけ、さらに、投票所に銃を持って行って、周りを監視するように呼びかけた。そんなことをすれば、他の投票者に対する威嚇行為として逮捕されるにもかかわらずである。そんなトランプの描いていたシナリオは誰にも見え見えだった。開票は、投票所で投票された票から開始される(フロリダのように郵便投票も当日に集計されるようにしていた州もあった)。つまり、開票当日の夜には、トランプ票が多くなる。しかし、いったん郵便投票の開票が始まれば、逆転する。トランプは、その突然の逆転にイチャモンを付けて、どうだ俺が言った通りだろう。この逆転は大規模な不正なしには起きえないと言って、支持者を煽り、裁判に訴える。でも、裁判所では証拠なしに訴えても取り合ってもらえない。

トランプはイチャモンが一つでも認められれば、それをもとに、あっちの票もこっちの票も無効だと、さらに攻めるつもりだ。

選挙を運営する選管も手順や法的な落ち度がないように準備万端、手ぐすね引いて待っていた。ヒトのやることだから、手違いや操作ミスの一つや二つはあっても不思議はないが、それでは、選挙の結果を無効にするような組織的な不正は立証できない。そんな法廷闘争をやらされている弁護士事務所は、そろそろ、嫌気がさしてきているようだ。11月12日にはトランプの法廷闘争から手を引いてしまった弁護士事務所もある

Will the President’s Lawsuits Overturn the Election?

大統領の訴訟は選挙を覆すことができるか
法廷に提出された文書や弁論を見れば、トランプ陣営の弁護たちがメリットのある告訴ができると思っていないのは明らか。一般に流布されている不正の内容と、弁護士たちが法廷に持ち込んでいる「不正の摘発」の内容が必ずしも同じでないこと、法廷闘争ができるだけの証拠がないことは、トランプの不正があったという主張がデマであることの証拠であろう。BBCのUS election 2020: Four viral vote claims fact-checked には、巷で糾弾されている不正は、ファクトチェックすれば、単純な作業ミスや勘違いで、大規模、組織的な不正を主張できるようなものではないことが報告されている。

法治国家の一翼を担っている弁護士たちが、独裁者的な人治主義をごり押しして、民主主義の根幹をなす選挙制度を難癖付けて破壊しようとしているトランプの法廷闘争を引き受けること自体に疑念を抱いているとしても不思議はない。しかも、メリットのない訴訟を繰り返せば、弁護士の資格を剥奪されかねない。

ジョージア州の選管は共和党員が運営しているが、党の圧力に負けて、選管独自の監査として、票の読み取り機械を使わずに、すべて手で数えなおすと宣言した。これは、僅差で負けた候補がリクエストできる再集計とは別ものらしい (Trump’s Main Obstacle in Flipping Georgia Vote Is Republican)。しかも、どちらが正確かというと、機械の方だとの認識があるにも関わらずである。

たとえ、ジョージア州でトランプが勝ったとしても、バイデンの勝利をひっくり返すことはできないが、トランプの法廷闘争に勢いが付き、選挙の最終決定を遅らせることができれば、有利になるという算段なのであろう。ジョージア州でのごたごたを長引かせているのは、トランプに注目を集めて置けば、1月5日にジョージア州で行われる2つの上院議席を掛けた決戦投票に有利との判断があるからだともいわれている。

ちなみに、選挙の再集計のルールは州ごとに決められていて、いつだれがどのような条件下で再集計をリクエストできるかに大きな違いがある。結果が僅差になった場合、自動的に再集計を開始する条件を決めている州もあるが、差は、1%、0.5%、0.1%など様々だ。人口の多い州ほど僅差のパーセンテージが小さく設定されている。再集計をリクエストする候補は、その費用を払う必要がある。つまり、お金がないと再集計をリクエストできない。

郵便局員が内部告発を取り下げたこともトランプ陣営の本気度を疑わせる。大掛かりな不正があったという主張は、支持者たちを煽ってトランプに関心を惹きつけ、法廷闘争資金と称して寄付金を募るためのリアリティーショーに過ぎないことを示しているようにしか見えない。




1 件のコメント:

Etsuko Ueda さんのコメント...

新型コロナの蔓延を配慮した投票方法の変更に対してトランプ陣営がことごとく異議を唱えた理由、トランプが3月から4月にかけての一回目のロックダウンの後、ただの風邪だと言って、マスクを拒否し、対策の必要も否定した理由、この2つは黒人の新型コロナによる死亡率が白人の2倍、ラティーノが1.5倍という統計によって繋がっている。つまり、新型コロナの犠牲者が増えればる増えるほど、黒人とラティーノの有権者の数が相対的に減少し、死なないまでも、有権者登録ができる人も投票所に出かけて投票できる有権者の数も減る。彼らは、圧倒的に民主党支持だから、コロナの犠牲者が増えれば増えるほど共和党とトランプが有利になるはずだったのに、不在者投票にしか利用できなかった郵便投票を誰でも利用できるようになって、すっかり当てが外れたトランプ陣営の奸計であった。

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