2020/11/24

トランプがぐずぐずしている本当の理由

アメリカには、大統領の交代による政府機能の滞りを最小限にする目的で、政権の交代が整然と行われるようにするための引継ぎ方法を定めた“President Transition Act″ という法律がある。それによると、選挙人による大統領の選挙という形式的な最終決定を待たずに、選挙人を選ぶための一般選挙の翌日から、当確の次期大統領・副大統領のチームに引継ぎに必要な場所とサービスを提供することになっている。しかも、当確がハッキリしない場合でも、当確が出るまで引継ぎに必要な施設やサービスの提供が受けられるとある。
What happens if the result of the election is unclear? The law provides that an eligible candidate has the right to the facilities and services provided to eligible candidates until the date on which the Administrator is able to determine the apparent successful candidates for the office of president and vice president. ( Presidential Transition Act Summary より)

上の文で、the Administrator とあるのは、General Services Administration(GSA:米一般調達局と言うらしい) という組織の長(=Administrator)、つまり事務方のことである。

バイデンの当確が発表されたのは11月7日だった。バイデン・チームは直ちに政権交代の作業を始めた。しかし、トランプが敗北を認めないので、トランプに忠実なGSAはバイデンの当確を認めようとしないばかりか、引継ぎの作業に必要な施設もサービスも提供しようとしない。(GSA は当確がはっきりしなくても、その可能性のある候補者に引継ぎに必要な施設とサービスを提供することになっているから、法律に違反している。)バイデンは引継ぎが遅れれば、予防注射のスケジュールが遅れて、コロナで死ぬ人がそれだけ増えるとGSAを非難したが、らちが明かない。しかし、GSAのエミリー・マーフィー女史は、下院の議長がしびれを切らして、明日話をしたいから出頭するように言った途端に気が変わったらしい。11月23日にトランプはGSAにOKを出したとツイートした。当のマーフィー女史は独自の判断だと言っているらしい(まぁ、どうでもいいけど)。

上のツイートによると、トランプはまだ逆転勝利をあきらめていないようだが、法廷での不正の訴えは、すべて棄却され。最後の切り札かと思われた、ベネズエラの故ヒューゴ・チャバス大統領やジョージ・ソロス、CIAなどが絡んだ集計プログラムに仕込んだ不正などという荒唐無稽な陰謀論には法廷に持ち出すことができるような証拠もない。選挙結果の認定をさせない戦略も、再集計で認定を遅らす作戦も、支持者を煽る効果はあっても、大多数のアメリカ人には、いい加減にしてほしいと、いら立ちがつのるだけで逆効果。それでも、トランプが支持者を煽り続ける理由はお金である。

The Real Reason Trump Won’t Concede
(トランプが負けを認めない本当の理由)


この動画は、クリントン大統領一期目の労働長官だったロバート・ライヒによるもので、トランプ大統領は意味のない "Official Election Defense Fund"=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものに献金を募ることによって、トランプ支持者たちをペテンにかけようとしているということらしい。以下はここで解説されている内容の抄訳。

トランプは “Official Election Defense Fund”=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものを立ち上げ、自分の支持者たちに献金を頼むのに忙しい。そのお金は、ありもしない不正投票に対する法廷闘争の資金として使われることになっている。

しかし、詳細を読むと話が違う。 

トランプの「公式の選挙法廷闘争基金」に対する献金の60 %は Save America というトランプの新しいリーダーシップ・ポリティカル・アクション・コミティー(PAC)に行く。 これは、選挙の一週間後に設立されたものだ。残りの 40 %は共和党全国委員会(RNC)に行く。だから、$500の献金をした場合、トランプの PAC に $300、RNC に $200入る。選挙法廷闘争基金には一銭も入らない。

献金は法的な上限の一人$5000までをトランプのPACに、$3000までを共和党全国委員会に、残りが法廷闘争基金に回る、つまり献金は$8000を超えなければ、一銭も法廷闘争基金に回らない。明らかに、トランプは過去4年間、米国民の税金で懐を肥やしただけでは足りず、今や、我々の選挙を攻撃し、民主主義を弱体化することによって懐を肥やそうとしている。

彼の支持者たちは、一貫して、いいカモにされている。

PACへの献金を募る理由は、選挙運動委員会への献金とは違い、PACへの献金は、旅費やイベントなどの個人的な経費にも使えるからだという。さらに、PACのお金は、共和党の候補者を支援するためにも使えるから、共和党への影響力も維持できる。そうやって共和党を支持することで、トランプは共和党が権力を維持するためのひねくれた戦略に力を貸す。

深く分断された国は、共和党の大口支持者たちにとって都合がいいのである。彼らは、経済成長の恩恵を独占し、残り90%のアメリカ人はおこぼれを取り合って争う。この構図は、トランプの人種差別と盗まれた選挙という馬鹿げた主張で煽られたトランプ支持者たちのおかげで、トランプがホワイトハウスから去っても続く。

関連動画も参照: Trump's Attempt to Steal the Election Won't Work 【トランプは選挙を盗もうとしても成功しない】 → https://youtu.be/-pnyn_r4KJ4 

2020/11/23

クールエイドを飲んだトランプ支持者たち

「クールエイドを飲む」という米語の慣用句を知っている日本人はあまりいないかもしれないが、ネット検索をすれば、その意味を解説するページがいくつも見つかる。以下はその由来を手短にまとめた文書の一節である。

「drink the Kool-Aid (クールエイドを飲 む)」という慣用句は、「むやみに信じる」とか「無批判に従う」とか「盲信す る」という意味になるらしい。 なぜそんな意味になったかというと、1978年にガイアナでおこった集団自殺に関係がある。人民寺院という宗教団体の信者900名以上がシアン化合物入りの粉末ジュースを飲んで自殺した。教祖が言えば毒入りでも飲むぐらい無批判に従う。 というわけで「クールエイドを飲む」と言えば、「無批判に従う」とか「盲信する」という意味になったらしい。(株式会社大和コンピューターのメルマガより


クールエイドのパッケージ例

トランプの支持者の中には、covit-19(新型コロナ)のパンデミックは民主党の選挙戦略のデマだから選挙が終われば誰も口にしなくなる、風邪と同じで怖くない、いい薬があるからすぐに治る、マスクはするな、避ける必要もない、云々というトランプ大統領の集団免疫作戦、またの名を「無策」を信じて、死ぬ目にあっている人がいるようだ。つまり、彼らはクールエイドを飲んだのだ。

それを象徴するような話が先日ツイッターで拡散され、ニュースにまでなった。サウスダコタの救急看護婦が打ったツイートは、covit-19で死にそうになっていても、その存在を信じないトランプ信者がいるらしいことを示している。

(訳)今夜は病院の夜勤がない。犬と一緒にソファーに座りながら、ここ数日のコロナ患者のことを考えずにはいられない。特に印象に残っているのは、新型コロナのウイルスが本当だということをいまだに信じない連中だ。魔法の薬を求めて叫び、ジョー・バイデンが (訳)アメリカをダメにすると叫ぶ連中だ。しかも、それは呼吸困難で100%に設定したVapothermに繋がれている間も続く。自分が病気なのには別の理由があるに違いないと言い張る。看護婦に罵詈雑言を浴びせて、なんでそんなものをごたごた身に着ける必要があるのか、自分は新型コロナに罹っていないし、そんなもの存在しないし、と詰問してくる。これは本当の話だ。そして

(訳)そのことが頭から離れない。あの人たちは自分がそんな病気に罹るなんてありえないと本当に思っている。そして、人工呼吸器のチューブが挿入されると叫ぶのが止まる。終わりのないホラー映画のようだ。出演者や制作チームのリストも出ない。ただただ始めに戻って同じことをまた繰り返す。

 以下はCNNが行った看護婦ジョディに対するインタビューである。

これが家族と話せる最後のチャンスかもしれないと言って、ビデオ通話を進めても、そんな病気はありえない、嘘だ、と言って怒りと憎悪の固まりになるのだそうだ。

トランプの人気は「パーソナリティのカルト」だという人がいる。トランプ支持者の行動を見ていると、カルトと呼ぶのもあながち間違いではないと思えてくる。トランプ大統領と信者の言動を見ていてクールエイドを思いつく人は少なくない。"Trump Kool aid" で検索すると記事だけでなく画像もたくさんヒットする。中には、Kool aid をもじって Fool aid になっているものもある。

看護婦ジョディ・ドーリングのツイートを受けて、書かれた記事もある。
For Trump cultists, COVID is the new Kool-Aid (トランプの信者にとっては新型コロナが新しいクールエイド)

when people are prepared to die denying reality, they definitely belong to a cult — one that can’t help but call to mind the hundreds who drank the Kool-Aid at Jonestown in 1978, the most astonishing example of mass delusion during my adult life.
(訳)人々が死ぬこともいとわずに現実を否定するとき、彼らは間違いなくカルトに属している。カルトの例としては、1978年、ジョーンズタウンでクールエイドを飲んだ何百人もの人々を、私が大人になってから見た最も驚くべき集団妄想の例を思い出さずにはいられない。



2020/11/10

トランプの最後の悪あがき

トランプ大統領は、何を早とちりしてか、まだ誰も大統領選の当確を発表していない時点で、俺は選挙に勝ったのに、その勝利が盗まれようとしている、これ以上、不正な郵便投票を開票させるな、とホワイトハウスの記者会見で言い出した。それをライブで中継していた主要メディアは一斉にその中継をストップした。まったく根拠のないデマであり、大統領の声明としては影響が大きすぎるデマだったからだ。

日本のトランプファンの中に、バイデンが、同じようなことを言った時には、中継を中止しなかった主要メディアは、明らかに、偏向していてトランプの言論の自由を封じている、けしからん。という人がいるのを見て、仰天した。バイデンは「俺は勝つと信じている」的なことを言ったに過ぎないのだ。英語を明らかに理解していない、日本の情弱丸出しの発言だ。こんな調子では、日本が、国際的な土俵で活躍できる日はまだまだ遠い。


トランプ大統領に関する暴露本を出版して一躍有名になった大統領の姪で臨床心理学者メアリー・トランプ は、トランプのその声明をクーデターの試みだと指摘した。さらに、大統領の任期は後70日ほど残っているので、潔く負けを認めることができないトランプ大統領が何をしでかすか心配だという。選挙に負けたとはいえ、トランプの熱心な支持者が減ったわけではないから、トランプのとんでもない呼びかけに応じる人間はたくさんいる。既に、アーカンソー州の小さな町の警察署長が Parler というSNSに「マルキストの民主党員を全員ぶっ殺せ」的なコメントを書いたことが発覚して、辞職させられた( Police Chief Resigns In Arkansas After 'Death To All Marxist Democrats' Messages)。

今、トランプは開票過程が透明ではなかったとか、不正投票があった、開票に不正があったなどと主張して、法廷闘争で郵便投票を無効にする裁判を推し進め、2000年のゴア対ブッシュの時のように、最後に最高裁で自分に有利な判定を引き出そうという戦略を進めているが、今のところ「その証拠は?」と言われても、そういう話を聞いたという程度の証拠しか出せず、すべて、棄却されている。

法廷闘争は、開票前から始まっていて、テキサスでは、期日前投票で、ドライブスルー投票が行われたのは違法だと言って、3つの訴訟を起こしたが、すべて、棄却された。

ワシントンポストの11月9日の記事によると、トランプの負けた6つの州で、それまでにトランプ陣営が法廷に持ち込んだ不正の訴えは、すべて棄却されている。

トランプ大統領は、郵便投票は不正が多い、信用できないと早くから主張してきた。特に、新型コロナの感染を避けるために、特別な理由がなくても不在者投票(郵便投票)ができるようになった途端に、郵便投票は不正が多いと、ことあるたびに主張しだした。証拠を一つも出さずに。しかも、その不正(どんな不正か誰も言わない)を防止するための対策などには全く興味を示さないばかりか、郵便公社の頭をすげ替えて、郵便の配達がスローダウンするような改革(残業の廃止、自動仕分け機の廃棄など)を実行させたのである。つまり、郵便投票によって増える郵便物の処理が滞りなく行われるように改革するのではなく、その反対を行わせたのである。裁判官は、すべての改革を停止し、元に戻すように命令したが、破壊され廃棄処分された自動仕分け装置などはそう簡単に元に戻せるものではない。

自治体によっては、郵便局は頼りにならないからと、選管が街角のあちこちに郵便投票を直接投函できる箱を用意したところもあった。トランプ陣営は、それも無効だと言い張っている。投票日までに届くようにするには、1週間以上前に郵便局に持っていく必要があること、遅くなった場合は、郵便局に持っていかないように、選管事務所に直接持っていくようにと、ニュース番組などで呼びかけられていた。

郵便の遅れを考慮して、消印の日付が投票日あるいはそれ以前のものなら、投票日を過ぎてから届いたものも有効にすると決めた自治体もあった。激戦州のペンシルバニア州もその一つで、後で問題にされる可能性を考慮して、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にして、最後に開票する方法を取った。トランプ陣営は、何を勘違いしたのか、開票が始まってから、裁判所に訴えて、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にするように要求し、裁判所が同意したら、裁判で勝ったと大はしゃぎである。

民主党は、新型コロナを避けるために、混雑する投票所を避けて、郵便投票するように呼びかけていた。一方、トランプ大統領は、投票所で投票するように呼びかけ、さらに、投票所に銃を持って行って、周りを監視するように呼びかけた。そんなことをすれば、他の投票者に対する威嚇行為として逮捕されるにもかかわらずである。そんなトランプの描いていたシナリオは誰にも見え見えだった。開票は、投票所で投票された票から開始される(フロリダのように郵便投票も当日に集計されるようにしていた州もあった)。つまり、開票当日の夜には、トランプ票が多くなる。しかし、いったん郵便投票の開票が始まれば、逆転する。トランプは、その突然の逆転にイチャモンを付けて、どうだ俺が言った通りだろう。この逆転は大規模な不正なしには起きえないと言って、支持者を煽り、裁判に訴える。でも、裁判所では証拠なしに訴えても取り合ってもらえない。

トランプはイチャモンが一つでも認められれば、それをもとに、あっちの票もこっちの票も無効だと、さらに攻めるつもりだ。

選挙を運営する選管も手順や法的な落ち度がないように準備万端、手ぐすね引いて待っていた。ヒトのやることだから、手違いや操作ミスの一つや二つはあっても不思議はないが、それでは、選挙の結果を無効にするような組織的な不正は立証できない。そんな法廷闘争をやらされている弁護士事務所は、そろそろ、嫌気がさしてきているようだ。11月12日にはトランプの法廷闘争から手を引いてしまった弁護士事務所もある

Will the President’s Lawsuits Overturn the Election?

大統領の訴訟は選挙を覆すことができるか
法廷に提出された文書や弁論を見れば、トランプ陣営の弁護たちがメリットのある告訴ができると思っていないのは明らか。一般に流布されている不正の内容と、弁護士たちが法廷に持ち込んでいる「不正の摘発」の内容が必ずしも同じでないこと、法廷闘争ができるだけの証拠がないことは、トランプの不正があったという主張がデマであることの証拠であろう。BBCのUS election 2020: Four viral vote claims fact-checked には、巷で糾弾されている不正は、ファクトチェックすれば、単純な作業ミスや勘違いで、大規模、組織的な不正を主張できるようなものではないことが報告されている。

法治国家の一翼を担っている弁護士たちが、独裁者的な人治主義をごり押しして、民主主義の根幹をなす選挙制度を難癖付けて破壊しようとしているトランプの法廷闘争を引き受けること自体に疑念を抱いているとしても不思議はない。しかも、メリットのない訴訟を繰り返せば、弁護士の資格を剥奪されかねない。

ジョージア州の選管は共和党員が運営しているが、党の圧力に負けて、選管独自の監査として、票の読み取り機械を使わずに、すべて手で数えなおすと宣言した。これは、僅差で負けた候補がリクエストできる再集計とは別ものらしい (Trump’s Main Obstacle in Flipping Georgia Vote Is Republican)。しかも、どちらが正確かというと、機械の方だとの認識があるにも関わらずである。

たとえ、ジョージア州でトランプが勝ったとしても、バイデンの勝利をひっくり返すことはできないが、トランプの法廷闘争に勢いが付き、選挙の最終決定を遅らせることができれば、有利になるという算段なのであろう。ジョージア州でのごたごたを長引かせているのは、トランプに注目を集めて置けば、1月5日にジョージア州で行われる2つの上院議席を掛けた決戦投票に有利との判断があるからだともいわれている。

ちなみに、選挙の再集計のルールは州ごとに決められていて、いつだれがどのような条件下で再集計をリクエストできるかに大きな違いがある。結果が僅差になった場合、自動的に再集計を開始する条件を決めている州もあるが、差は、1%、0.5%、0.1%など様々だ。人口の多い州ほど僅差のパーセンテージが小さく設定されている。再集計をリクエストする候補は、その費用を払う必要がある。つまり、お金がないと再集計をリクエストできない。

郵便局員が内部告発を取り下げたこともトランプ陣営の本気度を疑わせる。大掛かりな不正があったという主張は、支持者たちを煽ってトランプに関心を惹きつけ、法廷闘争資金と称して寄付金を募るためのリアリティーショーに過ぎないことを示しているようにしか見えない。