2024/10/10

臨床心理学者の姪がトランプ大統領をディする暴露本を出す

この考察を書いて投稿したのは、2020年の7月だった。それから4年が経った。今回の大統領選挙に関して日本から聞こえてくる声には、今は亡き安倍首相がトランプと上手くやっていたから、今度もトランプは日本に良くしてくれるに違いないと期待しているような声もある。とんでもない誤解である。安倍首相は、トランプのような人間をどう扱ったらいいかを知っていただけであろう。トランプとゴルフをした後のインタビューに答えて、トランプがゴルフのスコアを誤魔化してまで勝とうとしたと、呆れた様子だったのが印象的だった。

日本人が日本でどう騒ごうが何を言おうが、アメリカの大統領選挙には影響はないが、ドナルド・トランプという人間がソシオパス=反社会的性格異常という非常に危険な、一国の舵取りを預けるには、あまりにも危険な人間であることを指摘しているのが、彼の姪であったり、彼の本を書くために長時間いっしょに過ごしたゴーストライターであったりするのは見過ごせないことであり、日本の方々にもぜひ知っていただきたいことである。

ジョン・ボルトンのトランプ大統領暴露本に続いて、トランプ大統領の姪がトランプ家の暴露本を書いた。

ワシントンポスト紙のブック・レビュー、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred.より

Too Much - Never Enough:How my family created the world's most dangerous man(Mary L. Trump Ph.D. 著、いくらあっても足りない: 我が一族はどうやって世界一危険な男を作ったか)は、身内のみが知るトランプ大統領の言動と脱税のからくりを、20年前に遺産相続で騙された姪の視点と臨床心理学者の視点から書いた本である。7月14日の出版に先立って報道陣に配布され、その本をRachel Maddowが真っ先に読破して解説した。大統領の弟が裁判所に本の出版停止を訴えているが、この期に及んでたいして意味がない。出版停止の理由は、遺産相続の時に同意した守秘義務に違反するからだそうだが、嘘で塗り固めた遺産相続の同意書になど効力はないというのがメアリーの主張だ。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より

メアリー・トランプはトランプ大統領の兄の娘である。下の写真はトランプ大統領の兄弟姉妹(3男2女)で、中央に立っているのが長男でMaryの父親フレッド2世(メアリーが16歳の時に死去)である。

Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より

メアリーがこの本を書いた動機は、本の副題「How my family created the world's most dangerous man (我が一族はどのように世界一危険な男を作ったか)が示唆しているが、下の一節は、メアリーがニューヨークタイムズの記者に協力する決意を固めたときの心の動きを説明している。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
メアリーは足の骨を骨折して家で1か月療養する羽目になったとき、叔父のTwitterやニュースでの報道を四六時中見るともなく見ていたから、叔父の巻き起こす問題をリアルタイムで追っていた。その問題行動の数々をメアリーは「規範をズタズタに切り刻み、同盟国を危険に晒し、弱者を踏みつける」行動と特徴付けている。しかも、彼女にとって驚きだったのはそのことではなく、叔父に協力してそのような行動を可能にする人間の数がどんどん増えていることだったと書いている。
Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
さらに、「私の叔父の政策のせいで、民主主義が崩壊し、人々の人生が破壊されるのを見ながら、スーザン・クレイグ(NYTの記者)の手紙を考え続けた。彼女の名刺を探し出して電話した。」と続く。

 トランプ大統領の人格の歪みについては、巷であれこれ取沙汰されているし、大統領らしからぬ数々の言動からうかがい知ることができるから、ナルシシストで、サイコパスで、嘘をつくことを何とも思わず、嘘をつくのが娯楽の一つと聞いても、姪の臨床心理学者の目から見てもそうなんだ、で終わるが、ニューヨーク・タイムズ紙がトランプの脱税のからくりをスクープできたのは、メアリーが祖父の遺産の相続についてドナルド・トランプと裁判で争った時の資料を提供したからだというのは、この本で初めて明かされたことである。しかも、メアリーはそれらの資料が示す遺産の本当の価値をニューヨーク・タイムズが分析するまで知らなかったというのである(その時雇った弁護士が無能だった?)。

Rachel Maddow Show Jul 7, 2020より
もう一つ、身内で臨床心理学者だから書くことができた情報として注目されているのは、ドナルド・トランプと父親との関係である。

MSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)より

「フレッド(父親)がドナルドを破壊した。ドナルドが人間的感情の全領域を経験し発達させる能力を阻害し、世界観を歪め、その中で生きる能力を損なわせた。」つまり、ドナルド・トランプは父親によるEmotional Abuse(情緒的虐待)の犠牲者なのだ。ビジネスで成功するには「Killer」にならなければならないという父親が行ったスパルタ教育のトラウマから逃れるために、長男のフレッド2世はアル中になり、2男のドナルドは道化を演じ、無慈悲で攻撃的、威圧的な支配者として君臨した父親の言動を内面化して父親に認められようとした。しかし、トランプ大統領の傍若無人で攻撃的な外面のすぐ下には、今でも父親を恐れる幼い少年がいるという人もいる。

ワシントンポスト紙のブック・レビューでは、The real villain of Mary Trump’s family tell-all isn’t Donald. It’s Fred. (メアリー・トランプの暴露本では本当の悪者はドナルドではなく、フレッドだ)というタイトルで、父親フレッドが諸悪の根源と読めることが指摘されている。

トランプの本、The Art of The Deal のゴーストライターだったトニー・シュワルツ(Tony Schwartz)も、メアリー・トランプの本がトランプの性格の歪みとその原因を分析している点に注目している人の一人だ。The Art of The Dealを書くためにトランプと何百時間も一緒の時間を過ごしたから、トランプを間近で観察し、様々な角度から分析する機会のあった人間の一人だ。トランプを一躍有名人にしたこの本を書いたことを彼は後悔しているという(Wikipediaを参照)。トランプの次の本、The Art of The Comebackのゴーストライターも頼まれたが、断ったということだ。

メアリー・トランプの本を読むと、その仕事がメアリーに回ってきたことがわかる。もっとも、メアリーはトランプのいい加減な態度にあきれてゴーストライターの仕事は止めてしまった。

トニー・シュワルツは、2016年にトランプが共和党の大統領候補に指名される直前に出版されたThe New Yorker の“Donald Trump’s Ghostwriter Tells All” (ドナルド・トランプのゴーストライターがすべてを暴露)のためのインタビューに応じている。さらに、2020年の5月にThe Psychopath in Chiefを書いて、トランプがアメリカにとって、さらには世界にとって、どんなに危険な人間かを訴えている。

トニー・シュワルツによると、サイコパスの性格を特徴付ける20の項目のうち、16項目がドナルド・トランプに当てはまる。つまり、トランプ大統領は究極のサイコパスであり、それから予測できるトランプ大統領の行動原理は民主主義社会の大統領の役割とは相いれないものであることは日増しに明らかになってきているという。
How do we deal with a person whose core impulse in every part of his life is to deny, deceive, deflect, disparage, and double-down every time he is challenged? And what precisely is the danger such a person poses if he also happens to be the leader of the free world, during a crisis in which thousands of people are dying every day, with no letup in sight?(人生のあらゆる場面における中核的行動原理が否定、欺瞞、虚勢、はぐらかし、おとしめ、挑戦されても絶対自分の落ち度を認めない、そういう人間をどう扱ったらいいのか。そして、毎日何千人もの人が死ぬ危機にあって収束が見えない中、そのような人間が自由主義世界のリーダーである場合、どんな危険をもたらすのか。) 
The first answer is that we must understand exactly who we’re dealing with, and we have not, because what motivates Trump’s behavior is so far from our own inner experience that it leaves us feeling forever flummoxed.(第一の答えは、どんな人間を相手にしているのかを正確に理解すること。まだできていませんが。なぜなら、トランプの行動の動機は我々の内面的な経験とはあまりにもかけ離れているので永遠に理解に苦しむことになるからです。)

The trait that most distinguishes psychopaths is the utter absence of conscience — the capacity to lie, cheat, steal, and inflict pain to achieve their ends without a scintilla of guilt or shame, as Trump so demonstrably does.(サイコパスの最も際立った特徴は良心の完全な欠落です。目的を達成するためには、罪も恥も一切感じることなく、嘘をつき、だまし、盗み、人を苦しめることができる能力です。トランプの言動はそのいい例です。)
ホストのAri Melber(左)とTony Schwartz (右)

上記のような警鐘を鳴らしてきたシュワルツ氏にとって、メアリー・トランプの明かした「父親による情緒的虐待と母親によるネグレクト」は、ドナルド・トランプという危険人物のなぞ解きに大きく貢献する情報だったようだ。同氏はMSNBCのThe Beat with Ari Melber(7月8日)という番組でのインタビューで、Adverse Childhood Experiences (ACE) Study(子供の時の有害な体験についての研究)に触れ、アメリカでは多くの人がトラウマとなるような、そのたぐいの有害な体験をしていること、そのような人は少数の例外ではなく主流と言えるほどであること、アメリカ社会の悲劇は人格形成に影響するこのような重要な要因から人々が目を背けていることであると指摘している。つまり、多くの人がトランプ大統領と同じようなトラウマとなる過去を抱えていて、それが、同じような問題行動のもとになっているというのである。

考えてみれば、アメリカの傍若無人な、武力にものを言わせた世界の支配は、人格形成に影響するようなトラウマを多くの国民が抱えていて、それが国の政治スタイルまで左右していると考えるとよりよく理解できるのかもしれない。アメリカといういじめっ子にさんざんいじめられてきた日本は、このような論点も理解しておいた方がいいのかもしれない。




2021/02/02

日本人に見えていないアメリカ民主主義の危機



1月6日にアメリカのワシントンD.C.で起きた連邦議事堂の襲撃、大統領選でトランプが負けたことを認めたくない白人至上主義者たちによる選挙結果の否定とトランプ/共和党による専制政治の確立を目指した暴動に対する様々なコメントの中から、最も共感できるものを2つ取り上げてみたい。いずれも、Democracy Now というアメリカのニュースメディアに登場したコメンテータのコメントである。

一つは調査ジャーナリスト Allan Nairn (アラン・ナーン)の“Americans Are Now Getting a Mild Taste of Their Own Medicine” of Disrupting Democracy Elsewhere (アメリカ人はこれまで他国の民主主義をさんざん妨害してきたが、今度は、マイルドだったとはいえ、自分たちがそれを味わうことになった)


概要欄から引用すると


調査ジャーナリスト、アラン・ナーンはトランプ大統領が次に打つかもしれない手について考察し、あのような反乱は「我々の国民性を示すものではない」と次期大統領のジョー・バイデンらが抗議しているが、アメリカには他国の民主主義プロセスを妨害してきた長い歴史があると言う。「アメリカ国民をひどく揺さぶったこの事件、この連邦議事堂に対する攻撃は、中南米、アジア、アフリカ、および中東で、他国の民主主義運動や選挙で選ばれた政府に対してアメリカの工作活動が行ってきたことに比べれば取るに足らないことである」というのがナーンの指摘である。

Investigative journalist Allan Nairn looks at what steps Trump may take next, and says despite protestations from President-elect Joe Biden and others that the insurrection was “not who we are,” the U.S. has a long track record of disrupting democratic processes elsewhere. “What has shaken the U.S. population so badly, this assault on the Capitol yesterday, is really nothing by comparison to what U.S. operations have done in Latin America, in Asia, in Africa, in the Middle East, to other democratic movements and elected governments over the years,” says Nairn.


暴徒が侵入してきたとき、議会では、トランプ大統領が不正があったと主張している州での選挙結果を承認することに異議を唱える共和党の議員たちに、それぞれの州について2時間ずつ発言の機会を与えて採決するという手続きが進行中であった。上院下院を合わせて、大統領の不正選挙主張に賛同し、選挙結果の承認を妨害する目的で議事堂へ侵入した暴徒を支持する共和党議員は議事堂内の議員の三分の一いたことになる。議事堂専任の警察は暴徒が乱入するかもしれないという懸念があったにも関わらず、十分な警備を用意していなかったばかりか、警察の中には、暴徒と一緒のところを写真に撮っていたものもいたという。議事堂警備のトップは辞任を要求された。2人の警官が自殺している。

近隣のメリーランド州の知事は、議事堂警備に援軍を送るために州兵を集めて、軍のOKが出たらすぐに駆けつけることができるように待機していたが、許可が下りるのに3時間も待たされたと証言している。D.C.所属の州兵チーフの上院での証言では、陸軍から州兵投入の許可が下りるまでに3時間以上かかっただけでなく、前日の1月5日に州兵投入を制限するメモが陸軍から州兵チーフに渡されていたことが明らかになった。つまり、トランプ政権は暴徒を頼りにして、あわよくば、議会の選挙結果承認儀式プロセスを無効にして、トランプ政権を継続しようと具体的な計画を立てていたということだ。

もう一つは、 トランプ政権が暴力に訴えても政権に居座ろうとするだろうことをトランプ政権誕生当時から予測していた歴史学者、ティモシー・スナイダーのコメントである。氏はニューヨークタイムズ紙に書いたAmerican Abyss”: Fascism Historian Tim Snyder on Trump’s Coup Attempt, Impeachment & What’s Next (アメリカの闇の深淵:ファシズム史の歴史学者ティム・シュナイダーがクーデター未遂と弾劾裁判および次は何かについて語す)を元にしたコメントである。




ティム・スナイダーはトランプが大統領に選ばれたと分かった直後に『On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century』(暴政:20世紀からの20の教訓)という本を書いたファシズム、専制政治を研究してきた東欧諸国を専門とする歴史学者である。この本は民主主義の崩壊を予防するための心得リストのようなもので、どういう現象がファシズム化の兆候であるかを警告する本でもある。そのような知見を持つスナイダー先生の目から見ると、トランプはファシストになるには怠惰すぎるが、トランプと共和党にはファシズム願望の兆候があふれている。

上下両院の合同会議の真っ最中に行われた今回の議事堂への乱入と、その意図された目的(副大統領の絞首刑と下院議長の銃殺、選挙結果を無視するために捏造したデマ=選挙には大掛かりな不正があったというデマを既成事実化、選挙結果を無視した大統領の選択)、反乱を扇動した大統領および側近のアジテーション、共和党議員による大統領のデマの支持など、トランプ支持者たちはファシズムを支持し、失敗したとはいえ、議事堂へ乱入して民主的法治システムの破壊の決行にまで突っ走った。つまり、アメリカの国体、平和裏に政権交代を行うために作られた憲法と民主主義による法治の原則を、「不正選挙」というデマを流布して、暴徒を煽ることによって否定しようとしたのである。これをアメリカ建国以来の国体の危機と捉えた人も多かった。それを、ヨーロッパにおける民主主義政権の崩壊の歴史と比較して、早くから警告していたのがスナイダー先生だ。

ビッグ・ライとフェイク・ニュース

米国議事堂での暴動は、過激派を扇動し、民主主義を支える仕組みを弱体化してきたトランプ大統領のこれまでの言動から「まったく完全に予測できること」でした。アメリカ合衆国大統領が暴力を使って権力の座に居座ろうとした、つまり、我が国の憲法に基づくシステムを転覆しようとした結果、アメリカの共和国制度は風前の灯です。

(英語の原文:the riot at the U.S. Capitol was “completely and utterly predictable” given President Trump’s record of stoking extremism and undermining democratic institutions. “The American republic is hanging by a thread because the president of the United States has sought to use violence to stay in power and essentially to overthrow our constitutional system,” )


さらに、

 これは歴史家の伝統的な論点です。あの論説で指摘したことは、ビッグ・ライはその社会に根差していなければならないということについてです。アメリカでは、ビッグ・ライは人種問題に根差すことになります。それには、いくつかの側面があります。(... this is a classic historian’s point. The point I make in the article is about the big lie has to be rooted in a particular society. And in the United States, the big lie is going to be rooted in race. Let’s count the ways.)

一つには、トランプ氏が言っていることは、不正があったということです。選挙に勝ったときにさえ言っていました。「不正」とは黒人に投票権が与えられているという現実です。かれが、ミルウォーキーやアトランタやデトロイトで話すとき、黒人票のことを言っているわけですよね。彼が「俺が勝った」と言うとき、彼は「本当のアメリカ人の票だけを数えれば俺の勝だ。」と言っている。(Number one, what Mr. Trump is saying, when he won the election, is that there was fraud. And by fraud, he means the reality that African Americans are allowed to vote. When he speaks in Milwaukee or Atlanta or Detroit, what he’s saying is Black voters, right? When he’s saying, “I won,” he’s saying, “I won if you only count the votes of the real Americans.”)


2つ目は、クルーズ上院議員が1877年を持ち出したことを考えてください。アメリカを研究している歴史学者ならみんな知っていることです。多くの黒人も知っています。皆んなが知っているというわけではないでしょうが、1877年の妥協(訳者注:大統領選の票数が拮抗して、大統領を下院が決めたときの妥協)は、アメリカ南部でアメリカ版アパルトヘイトの設立が許可された瞬間でした。1877年の妥協が、アメリカの諸州が黒人を投票所から遠ざけ、ジム・クロー状況に追い込むことを可能にしました。それが100年近く続き、未だに尾を引いている。(Number two, think of Senator Cruz and his invocation of 1877. As every historian of the U.S. knows, and as lots of African Americans know, but maybe not everybody knows, the Compromise of 1877 is the very moment when the American South was allowed to build up a basically American apartheid. The Compromise of 1877 is what allowed American states to push African Americans away from the voting booths and into a Jim Crow condition, which was going to last for nearly a century and which we’re still dealing with today.)


3つ目は、議事堂に実際に侵入した人々を見てください。これは十分報道されていないし、叩かれてもいませんが、連中は基本的に白人至上主義者です。白人至上主義者が先頭に立っている、ですね。彼らが先導して、「これは私達の家だ」と主張している。言い替えると、アメリカ政府は、黒人に対して暴力を振るう意思を持つ白人の手中にあるべきだと言っている。(Number three, look at the people who actually invade the Capitol. These are — and this has not been covered enough, this has not been hit hard enough — these people are basically white supremacists. The white supremacists are leading, right? They’re leading the way, and they’re making the argument that “this is our house.” In other words, what we think is that American government should be in the hands of white people who are willing to be violent about Black people.)



共和党の中の最も大きなグループは、私の見方では、策士と呼ぶことのできる人たちです。彼らは、 選挙区の線引き、闇資金、投票者の抑圧(訳者注:黒人の多い地区の投票所を少なくして長い列ができるようにするなど特定グループを狙った投票ハードル)、などを使ってシステムを自分たちに有利になるように操作し、現在アメリカで行われているいわゆる「民主主義」が好ましいと言っている人々です。なぜなら彼らはその操作方法を知っているからです。不幸にして大変制限された民主主義でしかありませんが。(As for the Republican Party, I mean, my way of seeing it, as I lay out in that article, “American Abyss,” is that the largest group of Republicans are people that you could call the gamers, the ones who work the system with the gerrymandering, with the dark money, with the voter suppression, who are in favor of the, quote-unquote, “democracy” that we have in America now, the unfortunately very limited democracy we have, because they know how to work it.)

 それより小さなグループに私が破壊者と呼ぶグループがあります。トランプや、クルーズ、ホーリーといった人たちで、アメリカでは、完全に非民主主義的な方法で、暴徒によって、嘘をついて選挙結果を投げ捨てることによって、権力の座につけることを理解している人たちです。そういうグループがこれからも共和党内に存続します。(Then there’s a smaller faction, which in the article I call the breakers. Those are people like Trump or Cruz or Hawley, who have understood that one could actually come to power in the United States by entirely nondemocratic means, by way of the mob, by way of throwing an election and lying about it. And I think that faction is going to be there.)

さらに小さな第3のグループがあります。高潔な少数派と呼べる人々で、政策については私とは異なる立場にいるかもしれませんが、法の支配を信じる人々、本当のことを言うことを信じる人々、キンジンガーとかチェーニーとかミット・ロムニーとかです。(Then there’s a third, still smaller group, which you could call the honorable few, the people who have positions that I might disagree with, but who believe in the rule of law and who believe in telling the truth — right? — like Kinzinger or like Cheney or like Mitt Romney.)

 これから注目すべきことは、共和党のパワーの中心が破壊者と策士の組み合わせから、策士と高潔な少数派の組み合わせにシフトするかどうかだと考えます。それが可能性の高いことだと考えます。率直に言うと、それは共和党にとって大変いいことです。なぜなら、共和党は何世代にもわたって、特定グループの有権者に対する投票者抑圧(訳者注:黒人の多い地区では投票所の数を少なくして長い列ができるようにする、運転免許証以外のIDを認めないなど、投票に恣意的なハードルを設定)を行ってきた結果、今、袋小路に入ってしまっているからです。行き止まりに到達して、今、起きていることは、正直言って、唯一可能なことです。選挙を政策で勝とうとしないで、システムを操作することによって勝とうとすれば、いずれは、「もうシステムの操作なんかやめて、システムを壊してしまおう。」という人たちが出てきます。それが2021年の1月に起きたのです。そのあとは、カオスと流血の道をさらに進む以外に行くところはありません。私はそう考えるわけです。共和党は私の党ではありませんが、これは、彼らが再編するよい機会だと思います。そういう見方をする人がたくさんいてくれればと思います。(I think the interesting thing to watch for is whether the center of power in the Republican Party now shifts from being the breakers and the gamers together to being the gamers and the honorable few together. I think that’s now likely to happen. And it would be, frankly, a very good thing for the Republican Party, because the Republican Party, by way of generations of voter suppression, has now got itself into a cul-de-sac. It’s got itself into a dead end, where what’s happening now is, honestly, the only thing which can happen. If you don’t try to win campaigns with policy, but you try to win them by gaming the system, eventually there are going to be people who say, “Hey, let’s not game the system anymore. Let’s just break the system.” And that happened in January 2021. And there’s nowhere to go from there except further down into chaos and blood. So, I think — I mean, the Republican Party is not my party, but I think this is an opportunity for them to regroup. And I hope a number of them will see it that way.)

日本の民主主義はどうなるのか

今の日本の民主主義の制度は、戦後アメリカの占領軍がアメリカの憲法と独立宣言をコピペして作った憲法によって制定された議会制民主主義だから、アメリカを手本にして作られたものといっていい。しかし、それ以前に、日本に民主主義的な国家の意思決定の方法が実施されていなかったわけではない。明治維新以来、日本は欧米の諸国家をまねて、議会制民主主義を取り入れていたのは、学校の歴史の教科書にも書かれている。しかし、アメリカ(=連合国)による占領下で行われた議会制民主主義は、形ばかりで、日本政府がアメリカによる傀儡政権であることを隠蔽するための装置でしかなかったことに気が付いている人も相当数いる。短命の総理大臣はアメリカが後ろで糸を引いて、止めさせられたことも、巷でいろいろ取りざたされている。田中角栄は、ロッキード事件にはめられ、汚職判決によって失脚させられ、健康まで失った。

一方、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三など、長期政権を担った総理大臣は、アメリカの要求に屈して、日本に不利な通商協定や安保条約を飲んできたことは見え見えだった。最近は、アメリカばかりか中国にも首根っこを押さえられているのではないかという懸念がささやかれるようになっている。

日本の政治評論家と呼ばれる人々は、日本をどうすればいいのか、という話などしても無駄だと言わんばかりに、アメリカは日本に何を要求してくるか、中国は日本に何を仕掛けてくるかばかりを議論している。

日本では、日本版の民主主義を日本のために機能するようにできるのかが課題であろう。日本でトランプや共和党がどうプロパガンダに利用するために曲解・誤解されているかは、大した問題ではないというのが私の希望的観測である。

2020/11/24

トランプがぐずぐずしている本当の理由

アメリカには、大統領の交代による政府機能の滞りを最小限にする目的で、政権の交代が整然と行われるようにするための引継ぎ方法を定めた“President Transition Act″ という法律がある。それによると、選挙人による大統領の選挙という形式的な最終決定を待たずに、選挙人を選ぶための一般選挙の翌日から、当確の次期大統領・副大統領のチームに引継ぎに必要な場所とサービスを提供することになっている。しかも、当確がハッキリしない場合でも、当確が出るまで引継ぎに必要な施設やサービスの提供が受けられるとある。
What happens if the result of the election is unclear? The law provides that an eligible candidate has the right to the facilities and services provided to eligible candidates until the date on which the Administrator is able to determine the apparent successful candidates for the office of president and vice president. ( Presidential Transition Act Summary より)

上の文で、the Administrator とあるのは、General Services Administration(GSA:米一般調達局と言うらしい) という組織の長(=Administrator)、つまり事務方のことである。

バイデンの当確が発表されたのは11月7日だった。バイデン・チームは直ちに政権交代の作業を始めた。しかし、トランプが敗北を認めないので、トランプに忠実なGSAはバイデンの当確を認めようとしないばかりか、引継ぎの作業に必要な施設もサービスも提供しようとしない。(GSA は当確がはっきりしなくても、その可能性のある候補者に引継ぎに必要な施設とサービスを提供することになっているから、法律に違反している。)バイデンは引継ぎが遅れれば、予防注射のスケジュールが遅れて、コロナで死ぬ人がそれだけ増えるとGSAを非難したが、らちが明かない。しかし、GSAのエミリー・マーフィー女史は、下院の議長がしびれを切らして、明日話をしたいから出頭するように言った途端に気が変わったらしい。11月23日にトランプはGSAにOKを出したとツイートした。当のマーフィー女史は独自の判断だと言っているらしい(まぁ、どうでもいいけど)。

上のツイートによると、トランプはまだ逆転勝利をあきらめていないようだが、法廷での不正の訴えは、すべて棄却され。最後の切り札かと思われた、ベネズエラの故ヒューゴ・チャバス大統領やジョージ・ソロス、CIAなどが絡んだ集計プログラムに仕込んだ不正などという荒唐無稽な陰謀論には法廷に持ち出すことができるような証拠もない。選挙結果の認定をさせない戦略も、再集計で認定を遅らす作戦も、支持者を煽る効果はあっても、大多数のアメリカ人には、いい加減にしてほしいと、いら立ちがつのるだけで逆効果。それでも、トランプが支持者を煽り続ける理由はお金である。

The Real Reason Trump Won’t Concede
(トランプが負けを認めない本当の理由)


この動画は、クリントン大統領一期目の労働長官だったロバート・ライヒによるもので、トランプ大統領は意味のない "Official Election Defense Fund"=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものに献金を募ることによって、トランプ支持者たちをペテンにかけようとしているということらしい。以下はここで解説されている内容の抄訳。

トランプは “Official Election Defense Fund”=「公式の選挙法廷闘争基金」なるものを立ち上げ、自分の支持者たちに献金を頼むのに忙しい。そのお金は、ありもしない不正投票に対する法廷闘争の資金として使われることになっている。

しかし、詳細を読むと話が違う。 

トランプの「公式の選挙法廷闘争基金」に対する献金の60 %は Save America というトランプの新しいリーダーシップ・ポリティカル・アクション・コミティー(PAC)に行く。 これは、選挙の一週間後に設立されたものだ。残りの 40 %は共和党全国委員会(RNC)に行く。だから、$500の献金をした場合、トランプの PAC に $300、RNC に $200入る。選挙法廷闘争基金には一銭も入らない。

献金は法的な上限の一人$5000までをトランプのPACに、$3000までを共和党全国委員会に、残りが法廷闘争基金に回る、つまり献金は$8000を超えなければ、一銭も法廷闘争基金に回らない。明らかに、トランプは過去4年間、米国民の税金で懐を肥やしただけでは足りず、今や、我々の選挙を攻撃し、民主主義を弱体化することによって懐を肥やそうとしている。

彼の支持者たちは、一貫して、いいカモにされている。

PACへの献金を募る理由は、選挙運動委員会への献金とは違い、PACへの献金は、旅費やイベントなどの個人的な経費にも使えるからだという。さらに、PACのお金は、共和党の候補者を支援するためにも使えるから、共和党への影響力も維持できる。そうやって共和党を支持することで、トランプは共和党が権力を維持するためのひねくれた戦略に力を貸す。

深く分断された国は、共和党の大口支持者たちにとって都合がいいのである。彼らは、経済成長の恩恵を独占し、残り90%のアメリカ人はおこぼれを取り合って争う。この構図は、トランプの人種差別と盗まれた選挙という馬鹿げた主張で煽られたトランプ支持者たちのおかげで、トランプがホワイトハウスから去っても続く。

関連動画も参照: Trump's Attempt to Steal the Election Won't Work 【トランプは選挙を盗もうとしても成功しない】 → https://youtu.be/-pnyn_r4KJ4 

2020/11/23

クールエイドを飲んだトランプ支持者たち

「クールエイドを飲む」という米語の慣用句を知っている日本人はあまりいないかもしれないが、ネット検索をすれば、その意味を解説するページがいくつも見つかる。以下はその由来を手短にまとめた文書の一節である。

「drink the Kool-Aid (クールエイドを飲 む)」という慣用句は、「むやみに信じる」とか「無批判に従う」とか「盲信す る」という意味になるらしい。 なぜそんな意味になったかというと、1978年にガイアナでおこった集団自殺に関係がある。人民寺院という宗教団体の信者900名以上がシアン化合物入りの粉末ジュースを飲んで自殺した。教祖が言えば毒入りでも飲むぐらい無批判に従う。 というわけで「クールエイドを飲む」と言えば、「無批判に従う」とか「盲信する」という意味になったらしい。(株式会社大和コンピューターのメルマガより


クールエイドのパッケージ例

トランプの支持者の中には、covit-19(新型コロナ)のパンデミックは民主党の選挙戦略のデマだから選挙が終われば誰も口にしなくなる、風邪と同じで怖くない、いい薬があるからすぐに治る、マスクはするな、避ける必要もない、云々というトランプ大統領の集団免疫作戦、またの名を「無策」を信じて、死ぬ目にあっている人がいるようだ。つまり、彼らはクールエイドを飲んだのだ。

それを象徴するような話が先日ツイッターで拡散され、ニュースにまでなった。サウスダコタの救急看護婦が打ったツイートは、covit-19で死にそうになっていても、その存在を信じないトランプ信者がいるらしいことを示している。

(訳)今夜は病院の夜勤がない。犬と一緒にソファーに座りながら、ここ数日のコロナ患者のことを考えずにはいられない。特に印象に残っているのは、新型コロナのウイルスが本当だということをいまだに信じない連中だ。魔法の薬を求めて叫び、ジョー・バイデンが (訳)アメリカをダメにすると叫ぶ連中だ。しかも、それは呼吸困難で100%に設定したVapothermに繋がれている間も続く。自分が病気なのには別の理由があるに違いないと言い張る。看護婦に罵詈雑言を浴びせて、なんでそんなものをごたごた身に着ける必要があるのか、自分は新型コロナに罹っていないし、そんなもの存在しないし、と詰問してくる。これは本当の話だ。そして

(訳)そのことが頭から離れない。あの人たちは自分がそんな病気に罹るなんてありえないと本当に思っている。そして、人工呼吸器のチューブが挿入されると叫ぶのが止まる。終わりのないホラー映画のようだ。出演者や制作チームのリストも出ない。ただただ始めに戻って同じことをまた繰り返す。

 以下はCNNが行った看護婦ジョディに対するインタビューである。

これが家族と話せる最後のチャンスかもしれないと言って、ビデオ通話を進めても、そんな病気はありえない、嘘だ、と言って怒りと憎悪の固まりになるのだそうだ。

トランプの人気は「パーソナリティのカルト」だという人がいる。トランプ支持者の行動を見ていると、カルトと呼ぶのもあながち間違いではないと思えてくる。トランプ大統領と信者の言動を見ていてクールエイドを思いつく人は少なくない。"Trump Kool aid" で検索すると記事だけでなく画像もたくさんヒットする。中には、Kool aid をもじって Fool aid になっているものもある。

看護婦ジョディ・ドーリングのツイートを受けて、書かれた記事もある。
For Trump cultists, COVID is the new Kool-Aid (トランプの信者にとっては新型コロナが新しいクールエイド)

when people are prepared to die denying reality, they definitely belong to a cult — one that can’t help but call to mind the hundreds who drank the Kool-Aid at Jonestown in 1978, the most astonishing example of mass delusion during my adult life.
(訳)人々が死ぬこともいとわずに現実を否定するとき、彼らは間違いなくカルトに属している。カルトの例としては、1978年、ジョーンズタウンでクールエイドを飲んだ何百人もの人々を、私が大人になってから見た最も驚くべき集団妄想の例を思い出さずにはいられない。



2020/11/10

トランプの最後の悪あがき

トランプ大統領は、何を早とちりしてか、まだ誰も大統領選の当確を発表していない時点で、俺は選挙に勝ったのに、その勝利が盗まれようとしている、これ以上、不正な郵便投票を開票させるな、とホワイトハウスの記者会見で言い出した。それをライブで中継していた主要メディアは一斉にその中継をストップした。まったく根拠のないデマであり、大統領の声明としては影響が大きすぎるデマだったからだ。

日本のトランプファンの中に、バイデンが、同じようなことを言った時には、中継を中止しなかった主要メディアは、明らかに、偏向していてトランプの言論の自由を封じている、けしからん。という人がいるのを見て、仰天した。バイデンは「俺は勝つと信じている」的なことを言ったに過ぎないのだ。英語を明らかに理解していない、日本の情弱丸出しの発言だ。こんな調子では、日本が、国際的な土俵で活躍できる日はまだまだ遠い。


トランプ大統領に関する暴露本を出版して一躍有名になった大統領の姪で臨床心理学者メアリー・トランプ は、トランプのその声明をクーデターの試みだと指摘した。さらに、大統領の任期は後70日ほど残っているので、潔く負けを認めることができないトランプ大統領が何をしでかすか心配だという。選挙に負けたとはいえ、トランプの熱心な支持者が減ったわけではないから、トランプのとんでもない呼びかけに応じる人間はたくさんいる。既に、アーカンソー州の小さな町の警察署長が Parler というSNSに「マルキストの民主党員を全員ぶっ殺せ」的なコメントを書いたことが発覚して、辞職させられた( Police Chief Resigns In Arkansas After 'Death To All Marxist Democrats' Messages)。

今、トランプは開票過程が透明ではなかったとか、不正投票があった、開票に不正があったなどと主張して、法廷闘争で郵便投票を無効にする裁判を推し進め、2000年のゴア対ブッシュの時のように、最後に最高裁で自分に有利な判定を引き出そうという戦略を進めているが、今のところ「その証拠は?」と言われても、そういう話を聞いたという程度の証拠しか出せず、すべて、棄却されている。

法廷闘争は、開票前から始まっていて、テキサスでは、期日前投票で、ドライブスルー投票が行われたのは違法だと言って、3つの訴訟を起こしたが、すべて、棄却された。

ワシントンポストの11月9日の記事によると、トランプの負けた6つの州で、それまでにトランプ陣営が法廷に持ち込んだ不正の訴えは、すべて棄却されている。

トランプ大統領は、郵便投票は不正が多い、信用できないと早くから主張してきた。特に、新型コロナの感染を避けるために、特別な理由がなくても不在者投票(郵便投票)ができるようになった途端に、郵便投票は不正が多いと、ことあるたびに主張しだした。証拠を一つも出さずに。しかも、その不正(どんな不正か誰も言わない)を防止するための対策などには全く興味を示さないばかりか、郵便公社の頭をすげ替えて、郵便の配達がスローダウンするような改革(残業の廃止、自動仕分け機の廃棄など)を実行させたのである。つまり、郵便投票によって増える郵便物の処理が滞りなく行われるように改革するのではなく、その反対を行わせたのである。裁判官は、すべての改革を停止し、元に戻すように命令したが、破壊され廃棄処分された自動仕分け装置などはそう簡単に元に戻せるものではない。

自治体によっては、郵便局は頼りにならないからと、選管が街角のあちこちに郵便投票を直接投函できる箱を用意したところもあった。トランプ陣営は、それも無効だと言い張っている。投票日までに届くようにするには、1週間以上前に郵便局に持っていく必要があること、遅くなった場合は、郵便局に持っていかないように、選管事務所に直接持っていくようにと、ニュース番組などで呼びかけられていた。

郵便の遅れを考慮して、消印の日付が投票日あるいはそれ以前のものなら、投票日を過ぎてから届いたものも有効にすると決めた自治体もあった。激戦州のペンシルバニア州もその一つで、後で問題にされる可能性を考慮して、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にして、最後に開票する方法を取った。トランプ陣営は、何を勘違いしたのか、開票が始まってから、裁判所に訴えて、投票日を過ぎてから届いた郵便投票は別扱にするように要求し、裁判所が同意したら、裁判で勝ったと大はしゃぎである。

民主党は、新型コロナを避けるために、混雑する投票所を避けて、郵便投票するように呼びかけていた。一方、トランプ大統領は、投票所で投票するように呼びかけ、さらに、投票所に銃を持って行って、周りを監視するように呼びかけた。そんなことをすれば、他の投票者に対する威嚇行為として逮捕されるにもかかわらずである。そんなトランプの描いていたシナリオは誰にも見え見えだった。開票は、投票所で投票された票から開始される(フロリダのように郵便投票も当日に集計されるようにしていた州もあった)。つまり、開票当日の夜には、トランプ票が多くなる。しかし、いったん郵便投票の開票が始まれば、逆転する。トランプは、その突然の逆転にイチャモンを付けて、どうだ俺が言った通りだろう。この逆転は大規模な不正なしには起きえないと言って、支持者を煽り、裁判に訴える。でも、裁判所では証拠なしに訴えても取り合ってもらえない。

トランプはイチャモンが一つでも認められれば、それをもとに、あっちの票もこっちの票も無効だと、さらに攻めるつもりだ。

選挙を運営する選管も手順や法的な落ち度がないように準備万端、手ぐすね引いて待っていた。ヒトのやることだから、手違いや操作ミスの一つや二つはあっても不思議はないが、それでは、選挙の結果を無効にするような組織的な不正は立証できない。そんな法廷闘争をやらされている弁護士事務所は、そろそろ、嫌気がさしてきているようだ。11月12日にはトランプの法廷闘争から手を引いてしまった弁護士事務所もある

Will the President’s Lawsuits Overturn the Election?

大統領の訴訟は選挙を覆すことができるか
法廷に提出された文書や弁論を見れば、トランプ陣営の弁護たちがメリットのある告訴ができると思っていないのは明らか。一般に流布されている不正の内容と、弁護士たちが法廷に持ち込んでいる「不正の摘発」の内容が必ずしも同じでないこと、法廷闘争ができるだけの証拠がないことは、トランプの不正があったという主張がデマであることの証拠であろう。BBCのUS election 2020: Four viral vote claims fact-checked には、巷で糾弾されている不正は、ファクトチェックすれば、単純な作業ミスや勘違いで、大規模、組織的な不正を主張できるようなものではないことが報告されている。

法治国家の一翼を担っている弁護士たちが、独裁者的な人治主義をごり押しして、民主主義の根幹をなす選挙制度を難癖付けて破壊しようとしているトランプの法廷闘争を引き受けること自体に疑念を抱いているとしても不思議はない。しかも、メリットのない訴訟を繰り返せば、弁護士の資格を剥奪されかねない。

ジョージア州の選管は共和党員が運営しているが、党の圧力に負けて、選管独自の監査として、票の読み取り機械を使わずに、すべて手で数えなおすと宣言した。これは、僅差で負けた候補がリクエストできる再集計とは別ものらしい (Trump’s Main Obstacle in Flipping Georgia Vote Is Republican)。しかも、どちらが正確かというと、機械の方だとの認識があるにも関わらずである。

たとえ、ジョージア州でトランプが勝ったとしても、バイデンの勝利をひっくり返すことはできないが、トランプの法廷闘争に勢いが付き、選挙の最終決定を遅らせることができれば、有利になるという算段なのであろう。ジョージア州でのごたごたを長引かせているのは、トランプに注目を集めて置けば、1月5日にジョージア州で行われる2つの上院議席を掛けた決戦投票に有利との判断があるからだともいわれている。

ちなみに、選挙の再集計のルールは州ごとに決められていて、いつだれがどのような条件下で再集計をリクエストできるかに大きな違いがある。結果が僅差になった場合、自動的に再集計を開始する条件を決めている州もあるが、差は、1%、0.5%、0.1%など様々だ。人口の多い州ほど僅差のパーセンテージが小さく設定されている。再集計をリクエストする候補は、その費用を払う必要がある。つまり、お金がないと再集計をリクエストできない。

郵便局員が内部告発を取り下げたこともトランプ陣営の本気度を疑わせる。大掛かりな不正があったという主張は、支持者たちを煽ってトランプに関心を惹きつけ、法廷闘争資金と称して寄付金を募るためのリアリティーショーに過ぎないことを示しているようにしか見えない。




2020/07/24

コロナを制圧したニューヨーク州

アメリカ東部のニューヨーク州とその周辺の地域では、パンデミックは4月中旬をピークとして収束し、現在進行中の南部や西部での爆発にも関わらず、収束状態を維持している。これは、ニューヨーク州知事、Andew Cuomo のリーダーシップによるところが大きい。クオモ知事が大統領候補になっていれば、民主党は勝てるのにと、トランプ大統領が言ったとか言わないとか。

クオモ氏が連邦政府の危機管理分野で長年蓄積してきた知恵が生かされていることは、明白で、このタイミングで氏がニューヨーク州知事であったことは、不幸中の幸いであった。それについて、【アメリカの気になる話】コロナを制圧したニューヨーク州をYouTubeにアップロードしたので、詳細は動画でご覧ください。


2020/06/21

トランプの出鼻をくじいた子供たち

トランプ大統領が三か月の自粛の後に選挙に向けた集会を再開する時と場所として、6月19日、オクラホマ州のタルサ市を選んだのは、わざとだったのか、無知・無神経だったからなのかどうかは知らないが、これは黒人の神経を逆なでする選択としては、最高の選択だった。

6月19日は、Juneteenthと言う奴隷解放を祝う記念日である。しかも、それはリンカーン大統領が1863年1月1日に奴隷解放宣言を出してから2年以上経って、ようやくテキサス州を制圧した北軍が1865年6月19日に実施を宣言することができたといういわく付きの記念日なのだ。

しかも、オクラホマ州タルサ市は、1921年に黒人の高級住宅街や学校、教会、病院、商業施設などがあったグリーンウッド地区が、武装した白人暴徒に襲撃・焼き討ちされ、多数の黒人が虐殺され、一万人以上が家を失った場所なのだ(ウィキペディアのタルサ人種虐殺を参照)。

結局トランプは1週間前に、集会を翌日の20日に変更せざるを得なかった。パンデミックの悪化に歯止めがかからないどころか急上昇中のオクラホマ州での3密の集会である、パンデミックの数字が上がっているのは、検査を増やしたせいだと言って、検査を減らすように指示を出したトランプは、もう、パンデミックは終わったと宣言して集会を準備させた。トランプのサポーターはトランプに倣って、マスクもしない。そんな連中が大挙して街に押しかけてきたらたまらないと思う住民の心配をよそに、トランプは19000席のアリーナを埋めて、気炎を上げる皮算用をしていた。

ところが、蓋を開けてみると、下の写真のように2階の座席がほとんど埋まっていない。
https://youtu.be/Gj5T3lAaKTU

その一因を説明しているのがニューヨークタイムズ紙の下記の題の記事である。

TikTok Teens and K-Pop Stans Say They Sank Trump Rally(TikTokのティーンズとKポップのファンが自分たちがトランプの集会を沈めたと主張)
Did a successful prank inflate attendance expectations for President Trump’s rally in Tulsa, Okla.?(タルサ市におけるトランプ大統領の集会で参加者数の予想が実際より膨らむように仕組んだいたずらが成功した?)

何をやったかというと、集会に参加するためのチケット(無料)を予約するようにTikTokというSNSを使って呼びかけた人がいたのだ。もちろんチケットだけ予約して、実際には参加しないところが味噌。それが、瞬く間に70万の「いいね!」と200万回を超える閲覧を達成したのだそうだ。TikTokから他のSNSにもすぐに拡散した。しかも、拡散のメッセージや投稿が発覚しないように、みんなすぐに削除していたのだとか。ちなみに、ティーンズが大多数だったのはTikTokというSNSのユーザーはほとんどが若い人であることと、KポップのBTS(防弾少年団)が拡散に尽力したかららしい。

2020/01/06

グローバル金融との闘い:歴史戦などにかまけている場合ではない

もう歴史戦などにかまけている場合ではない。歴史戦で攻撃されて、日本の保守陣営が反撃に忙殺されている間に、日本はアメリカ/グローバル金融資本に食い物にされ放題だった。幸い、最近このことに注目する人が増えてきたようなのは心強いことだが(例えばオリーブの木の黒川敦彦)、これを日本の政治力に反映させるには、まだ道遠しの感はぬぐえない。そういう筆者も、事の重大性に気が付いたのはごく最近のことだ。

日米貿易、経済交渉ではいつも日本が譲歩させられている。1980年代にはレーガン及びブッシュ共和党政権に花を持たせるために譲歩し、2019年またしも、日本は共和党政権、トランプに花を持たせるために、つまり来年に控えている大統領選挙に有利になるように譲歩したように見える。阿部首相はWinーWinだったと言ったのに対し、トランプ大統領は大勝利だったと言った。トランプ大統領はなんでも自分の勝だと言う人だから額面道りに受け取っていいかどうかは、妥結した交渉内容を見ないとわからないが、ニュースで報道されている大雑把な内容から判断すると、アメリカはTPPでは引き出せなかった譲歩を日本から引き出したようだ。

マイケル・ハドソンによると、アメリカの民主党が日本に対して冷たいのは自民党政府がいつも共和党がよく見えるような妥協をしてきたからだという。民主党の日本に対する態度は冷たいというより、自分を犠牲にする馬鹿さ加減にあきれて馬鹿にされていると言った方がいいのかもしれない。

警告は既にベトナム戦争の最中の1972年に発せられていた。目にした主な情報源は以下に挙げたマイケル・ハドソンとその周辺の人たちによるブログや本である。

自らを略奪するまでに落ちぶれた欧米 (Paul Craig Roberts 著の日本語訳)
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」(マイケル・ハドソン 著の日本語訳)
No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)(マイケル・ハドソン著の日本語訳)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)(マイケル・ハドソン著の日本語訳)
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」(マイケル・ハドソン著の日本語訳)

雅無乱日記」というタイトルでその方面のブログを書いていた人もいるのでそのリンクも下にリストアップしておく。

雅無乱日記」カテゴリの最新記事



2019/11/10

日本の消費税増税はアメリカ=グローバル金融が決める

アメリカが仕掛けた米中貿易戦争の真っただ中、2019年7月1日にアメリカの経済学者、Panos MourdoukoutasがForbes誌にAmerica is trying to turn China into another Japan(アメリカは日本にしたことをチャイナにもしようとしている)という論説を書いている。「チャイナは日本ではない」が結論であるが、アメリカが日本に何をしたのかの説明を読むと、アメリカがんばれ、チャイナをやっつけろなどと無邪気に応援する気にならない。日本は今でもアメリカ=グローバル金融資本にやられっぱなしなのだから。

Mourdoukoutas 先生の話では、それは、Japan as number one とか言われて、日本が高度成長の絶頂にあった1980年代、レーガン政権のときに始まる。
1983年の11月、レーガン政権は日本の資本市場の開放と円の為替レートの引き上げについての話し合いを開始した。その努力は1985年9月のプラザ合意に導かれた。それと並行して、1985年のはじめに、市場志向型分野に影響の大きい交渉が2国間で開かれた。この話し合いは4つの特定分野(エレクトロニクス、医療機器、通信、薬品)の貿易摩擦をカバーした。1年後の1986年に両国はStructural Impediments Initiative (日米構造問題協議)の準備に向けたStructural Economic Dialogue(日米構造経済対話)の設立に合意し、特定製品の貿易問題を定期的に(6か月間)取り上げた。1988年に、米国議会はOmnibus Trade and Competitiveness Act(包括通商競争力法)を採択し、実質的に日米通商をワシントンのコントロール下に置いた。結局、日本はアメリカの要求に屈服する以外に選択肢はなかった。(筆者訳)
1985年9月のプラザ合意では、行き過ぎたドル高を是正するために、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、そして日本の先進5ヶ国が外国為替市場に協調介入することが合意されたが、それがバブルとその崩壊に始まる日本経済の低迷とさらなる対米従属、グローバル金融による浸食を許し、現在に至っている。

日本の消費税が3%から5%に引き上げられたことを受けて、マイケル・ハドソンは1996年に日本はなぜ借金大国になったか(後編)で次のような文章を書いている。
世界通貨制度の中で米国を資金援助するという役割を果たさなければならないがために、日本は消費税を3%から5%へ増税しなければならないのである。。。不動産バブルを引き起こした不動産および金融部門に対する課税を強めなければ、日本の消費税は15%まで引き上げざるを得なくなるであろうと試算されている。
日本の有権者は、大蔵省や与党がなぜ消費税増税を迫っているのか、その理由を理解すべきである。これは極めて重要なことなのだ。日本の歳出を補うために必要な税金を投資家が支払っていないために、消費者が代わって税金を払わなければならないのである。
野田政権が消費税増税(5%から段階的に10%まで上げる)にこだわった理由が、今一つはっきりしない。高齢化で増える福祉の財源として必要だというのが表向きの理由だった。税源は他にもあるのに、なぜ逆累進性の高い、消費税なのか。しかも、野田政権は解散(退陣)の条件として消費税増税にこだわり、自由民主党も消費税増税に賛成した。一つはっきりしているのは、法人税を下げた分を消費税で補う格好になっているということだ。これで得をするのは、企業から配当金を受け取る投資家たちである。しかも、いまや日本企業の株の50%近くを外国投資家、つまりグローバル金融が持っているといわれている。日本の企業を乗っ取って、日本人を搾取しようとしているのはルノーを所有するフランスばかりではないのだ。

1990年のバブル崩壊以後、日本はデフレに苦しんできた。デフレを脱却するには、金融緩和と、財政出動が必要だというのが大方の一致した意見のようだが、なぜか日本は緊縮財政を続け、公定歩合(金利)の引き下げで金融緩和を進める一方で、インフラ投資を縮小するという緊縮財政を続けただけでなく、消費税増税という形の金融引き締めも続けた。ほぼ20年後、2013年にようやくアベノミクスを掲げて第二次安倍内閣が発足し、財政出動と日銀による「異次元」の量的金融緩和が行われ、景気は一気に回復軌道にのったと思いきや、2年目からは財政出動も行われず、デフレ脱却が達成されていないにも関わらず、消費増税の5%から8%への引き上げも決行されて景気の腰が折れたままだ。2019年秋にはデフレが進行する中、さらに10%に引き上げられた。いったい何がこのような日本弱体化計画の一環としか思えない経済政策の背景にあるのか。

緊縮財政(小さな政府)について一つ知られていることは、それが、ワシントン・コンセンサスの一部であり、アメリカ(アメリカの金融界)がIMFと世界銀行を使って援助という名目のもと、開発途上国を食い物にするときに強要してきた政策の一つであるということだ。財政破綻して救済を受ける国に贅沢は許されないというのはいいとして、上下水道も、電気ガス、道路、通信、教育、等々、経済の発展に必要なインフラ投資や社会投資もだめだというのだ。そのような事業は民営化させて、その国の福祉ではなく私的な利益を追求するグローバル投資家の餌食にさせようというのである。もちろん、表向きの理由は、民間の活力を利用するとか、公営より民営の方が効率がいいからとかいうのがよく聞く理由である。誰のために効率がいいのかというと、民間の利益のためというのが行間に隠された理由である。公共事業なら利益や配当をよこせという投資家はお呼びではない。民営になると投資家の取り分だけ余計に料金を支払わされることになるのは小学生でもわかる構造である。それにも関わらず、アメリカのごり押し、あるいはいい加減なプロパガンダを許した世界というのはどうなっているのか、そして、それが批判されるようになって久しいというのに、今でも日本はワシントンコンセンサスの路線に沿った政策を取らされているのはなぜか、それが今早急に解明されなければならない大きな謎であろう。搾取という観点から見ても、黄金の卵を産む鶏を弱体化すれば取れる卵が減るのだから得策ではない。もっとも、略奪による富の蓄積を常套手段としてきた旧植民地宗主国はそのマインドセットから抜け出すことができず、今や宿主を殺してしまう寄生虫に例えられる存在となっていることを忘れてはいけない(Killing the Host - the book | Michael Hudson)


ウィキペディアを引用すると
ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)とは、国際経済研究所の研究員で国際経済学者のジョン・ウィリアムソンが、1989年に発表した論文の中で定式化した経済用語である[1]
この用語は元来、1980年代を通じて先進諸国の金融機関と国際通貨基金(IMF)、世界銀行(世銀)を動揺させた途上国累積債務問題との取り組みにおいて、ウィリアムソン曰く「最大公約数」とする、以下の10項目の政策を抽出し、列記したものであった。
  1. 財政赤字の是正
  2. 補助金カットなど財政支出の変更
  3. 税制改革
  4. 金利の自由化
  5. 競争力ある為替レート
  6. 貿易の自由化
  7. 直接投資の受け入れ促進
  8. 国営企業民営化
  9. 規制緩和
  10. 所有権法の確立

上記の10項目を見ただけでは、その一国の経済に対する影響をすぐに判断することは難しいかもしれないが、ワシントン・コンセンサスに関する日本大百科全書(ニッポニカ)の解説によると、
その骨格は(1)財政規律の回復と緊縮政策、(2)税制改革と補助金削減、(3)価格・貿易・金利の自由化、(4)規制緩和と民営化の推進など」であり、「ワシントン・コンセンサスは「安定化、民営化、自由化」を三本柱とする新経済自由主義、市場原理主義の政策イデオロギーの象徴として厳しい批判の対象とされるようになった。
とある。つまり、税金を取れるだけ取り、補助金も減らし、消費や生産を縮小した上で、貿易や金融を自由化して規制緩和と民営化でグローバル金融資本が乗り込んで利益をむさぼり搾取しほうだいにするということなのである。

ワシントンコンセンサスは最初はIMFや世界銀行を介してアメリカが低開発国を食い物にするための策略であったが、今では、日本はもとよりアメリカの一般市民に対する政策にも適用されている。

ちなみに、マイケル・ハドソンはアメリカが国際収支の赤字が続いて金の流出が深刻になり、1971年に金本位制を廃止したときに、国際収支の分析に関わっていた経済学者である。その翌年にマイケル・ハドソンが書いた暴露本『超帝国主義国家アメリカの内幕』(30年後に更新された第二版の原文はPDF版をダウンロードできる:Super Imperialism The Economic Strategy of American Empire)は対米従属を憂う日本人なら必読であろう。そして、対米従属を強いられているのは日本だけではないこともはっきりする。

超帝国主義国家アメリカの内幕』は2002年に出版されているが、ハドソン氏は1972年に第一版を出版、30年後の2002年に新しい情報を追加して第二版を書いている。英語版の説明によると、日本語版は英語版より先に出版されたが、第二版での変更を反映している。アマゾンの本の内容の説明には
「日本のバブルとその崩壊も起こるべくして起こった。アメリカの金融帝国主義を知らずに日本経済は理解できない!IMFと世銀を利用して、アメリカはどのように世界経済を操ったのか?アメリカに富を集中させる驚異の経済戦略の全貌がいま明らかに。米国の圧力で翻訳が中断された幻の名著、遂に登場。」
とあり、いわく付きの本である。ちなみに、第一版は世界各国で翻訳本が出版されたが、出版を邪魔されたのは日本語版だけだったようだ。日本人の英語力も随分と見くびられたものである。しかも、アメリカでは政府機関がこの本を大量に購入して、外交官や官僚たちに読ませたということである。日本ではどこかで、例えば大蔵省や日銀で海賊版が出回っていたという話がないとすれば、怠慢というしかない。

インターネットを検索してみたら、マイケル・ハドソンについて言及している人はあまりいないが、ビル・トッテン氏の耕助のブログの次のページにさわりの要約(1996年にハドソン氏と親交があるトッテン氏が日本人読者のために特別に書いてもらった)がある。日本の経済と税制がいかにアメリカの都合でゆがめられてきたか、そして、それが今も進行中であることがわかる。消費税増税がいかに日本経済の回復に悪影響を及ぼすかを議論しても無駄なのだ。すべてが、アメリカの都合で決められてきたことなのだ。そして、日本の政治家も財界もそれに抵抗してきた形跡がない。

No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)
No.74 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(前編)
No.75 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(後編)

他にも何人か書いている人がいる
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」
書評もある(日本語版は歴史的説明の部分をかなり落としているらしい)
歴史を通じて世界経済を考える書

マイケル・ハドソンの最近の発言の日本語訳はトークショーの翻訳という形で出ているものがある。
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2) 
マイケル・ハドソンの背景と観点については次の記事が役に立つ。
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる 


2019/08/01

INSTEX:ドル基軸通貨体制の終わりの始まり

INSTEXの情報を最初に目にしたのは、今筆者がフォローしているマイケル・ハドソンというアメリカの経済学者(国際収支の分析と新自由主義経済学の批判が専門)のブログをスキャンしていたときだった。アメリカの覇権はドルが世界の基軸通貨という地位を維持していることにかなり依存しているという理解に立つと、「オッ!」と思わせる次の題が目に飛び込んできた。

Trump’s Brilliant Strategy To Dismember US Dollar Hegemony – Analysis
By 
(米ドル覇権を解体するトランプの見事な戦略―分析)
以下はハドソン先生が皮肉たっぷりにトランプ政権を「礼賛」している段落である。
No left-wing party, no socialist, anarchist or foreign nationalist leader anywhere in the world could have achieved what he is doing to break up the American Empire. The Deep State is reacting with shock at how this right-wing real estate grifter has been able to drive other countries to defend themselves by dismantling the U.S.-centered world order. (左翼政党も、社会主義者も、アナーキストも、外国の国粋主義リーダーも、世界中のどこを見渡しても、アメリカ帝国の解体に向けてトランプがやっていることを達成できた者はいない。この右翼の不動産屋ペテン師が、他の国々を、アメリカ中心の世界秩序を解体することによって自国を守るように駆り立てることができたことに、ディープ・ステートはショックを受けている。)

現在国際的な銀行間の送金はベルギーに本部のあるSWIFT (Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)を介して行われている。この機構の利用についてはアメリカが絶対的な発言権を持っていて、現在イランに対する経済制裁の一環として、この機構をイランとの貿易に使うことをアメリカは禁止しているが、アメリカのベネズエラに対する介入、ロシアやチャイナに対する締め付け、ドイツがロシアから天然ガスを輸入していることへの非難などを考慮すると、いつだれがアメリカの逆鱗に触れてSWIFTから締め出されるか知れたものではない。

ロシアとチャイナの間では既にSWIFTに替わる、人民元とルーブルを使うシステムが構築されていて、2019年から運用されている。インドと日本の間ではかなり前からSWIFTを介さない円建ての送金システムが運用されている。そして今、欧州でも英、仏、独が主導してINSTEX — Instrument in Support of Trade Exchanges (貿易取引支援機関) という通貨の交換を伴わないシステムを作り、とりあえずはSWIFTを通さずにイランとの貿易ができるようにしてしまった。今は制裁対象外の医薬品や食品などのいわゆる人道物資の貿易にしか使っていないようだが、2019年の1月に設立され、6月には既に稼働していると発表された。もちろんトランプ政権は、けしからん、もともと医薬品や食品などの人道物資の貿易は制裁対象ではないのだから、SWIFTを迂回する必要はないはずだと息巻いているが、今のところINSTEX加盟国に対する制裁は発表していないもよう。

日本でもINSTEXについては報道されているが、それがドル基軸通貨体制への挑戦であるという見方は報道されていない(例:日経の2月1日の記事)が、アメリカでは次のリンク先の記事に見られるようにその懸念があちこちでささやかれている。

Post American Networks (Project Syndicate)
[アメリカ覇権終了後のネットワーク]
JPMorgan Warns Federal Reserve Note Could Lose Status (FXSTREET)
[JPモーガンがドル紙幣の地位が失われると警告]
Russia Urges "Independence" From "Imposed World Order" Of US Financial System (ZeroHedge)
[アメリカ金融システムが「押し付ける世界秩序」からの「独立」をロシアが強く要請]

イランとの貿易戦争だけでなくチャイナとの貿易戦争も次のようにドル基軸通貨の地位を危うくしている
U.S. Decoupling From China Forces Others To Decouple From U.S.
[米国のチャイナからの切り離しは他の国々を米国から離れざるを得なくする]

ちなみに、マイケル・ハドソンはアメリカが国際収支の赤字が続いて金の流出が深刻になり、1971年に金本位制を廃止したときに、国際収支の分析に関わっていた経済学者である。その翌年にマイケル・ハドソンが書いた暴露本『超帝国主義国家アメリカの内幕』(30年後に更新された第二版の原文はPDF版をダウンロードできる:Super Imperialism The Economic Strategy of American Empire)は対米従属を憂う日本人なら必読であろう。そして、対米従属を強いられているのは日本だけではないこともはっきりする。

超帝国主義国家アメリカの内幕』は2002年に出版されているが、ハドソン氏は1972年に第一版を出版、30年後の2002年に新しい情報を追加して第二版を書いている。英語版の説明によると、日本語版は英語版より先に出版されたが、第二版での変更を反映している。アマゾンの本の内容の説明には
「日本のバブルとその崩壊も起こるべくして起こった。アメリカの金融帝国主義を知らずに日本経済は理解できない!IMFと世銀を利用して、アメリカはどのように世界経済を操ったのか?アメリカに富を集中させる驚異の経済戦略の全貌がいま明らかに。米国の圧力で翻訳が中断された幻の名著、遂に登場。」
とあり、いわく付きの本である。ちなみに、第一版は世界中で翻訳本が出版されたが、出版を邪魔されたのは日本語版だけだったようだ。しかも、アメリカでは政府機関がこの本を大量に購入して、外交官や官僚たちに読ませたということである。日本ではどこかで、例えば大蔵省や日銀で海賊版が出回っていたという話がないとすれば、怠慢というしかない。

インターネットを検索してみたら、マイケル・ハドソンについて言及している人はあまりいないが、ビル・トッテン氏の耕助のブログの次のページにさわりの要約(1996年にハドソン氏と親交があるトッテン氏が日本人読者のために特別に書いてもらった)がある。日本の経済と税制がいかにアメリカの都合でゆがめられてきたか、そして、それが今も進行中であることがわかる。消費税増税がいかに日本経済の回復に悪影響を及ぼすかを議論しても無駄なのだ。すべてが、アメリカの都合で決められてきたことなのだ。

No.64 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(前編)
No.65 米国はいかにして日本を滅ぼしたか(後編)
No.74 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(前編)
No.75 日本政府は外貨準備高をいかに浪費したか(後編)

他にも何人か書いている人がいる
M・ハドソン「今日の世界経済を理解するために」
「アメリカはいかにして日本を滅ぽしたか」
書評もある
歴史を通じて世界経済を考える書

マイケル・ハドソンの最近の発言の日本語訳はトークショーの翻訳という形で出ているものがある。
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)
新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2) 
マイケル・ハドソンの背景と観点については次の記事が役に立つ。
欧米は経済的破滅への道を歩んでいる 


2019/07/30

米中覇権争い:アメリカ帝国の衰退とファシズム

中国は向こう10年で(2030年までには)アメリカを追い上げ、アメリカは衰退するというのが「(インタビュー)米国超え、中国の夢 中国国防大学教授・劉明福さん」から読み取れる中国の皮算用である。ただし、この2030年というのは中国の希望的観測に基づく根拠のない夢ではない。あと10ないし20年で中国がアメリカを追い抜くというのはアメリカ国内で発せられる警告でも頻繁に見られる数字である。ただし、アメリカの衰退に限ってみれば、それは既に始まっていると警告している人も少なくない。その代表的言論人がクリス・ヘッジズである。ニューヨーク・タイムズ紙の戦争レポーターとして15年間、中南米、東欧、中近東の戦場で、現地の言語を習得して深く潜入するという取材活動を行ってきたジャーナリストの目は、醜く、むごい、悲惨な現実を正面から見つめる。

ヘッジズは、American Fascists: The Christian Right and the War On America (アメリカのファシスト:キリスト教右派がアメリカに挑む戦い)という本を2007年に出して、衰退し混迷するアメリカの中で政治的影響力を拡大しているファシスト勢力について警告している。キリスト教右派とは福音派キリスト教(evangelical christian)のことであるが、長老派(Presbyterian)の牧師の家で育ち、ハーバード大学の神学部で修士号を取ったヘッジズから見れば、それは拝金主義にキリスト教の衣を着せて、不運に打ちひしがれた人々を狙ってカルト的洗脳を行う似非キリスト教でしかない。その本質は、むき出しのナショナリズムと開かれた社会に対するヘイトを煽る危険な大衆運動であり、ファシズムの温床となっていると言う。


法治という観念を無視して暴言暴挙を連発するトランプ大統領の出現は、民主主義と自由、平等、人権の理想を建国の理念に歌うアメリカで、その対極にあるように見えるファシズムが「開花」する下地が整いつつあることを示唆すると感じている人も少なくない。さらに、アメリカ人の25%を占めるともいわれる白人福音派キリスト教徒がトランプ/共和党の最大の支持層なのだ。


ここで紹介するのは、数あるヘッジズのYouTube講演ビデオの中から、アメリカの衰退状況を俯瞰し、今何ができるかを模索する50分余りの講演と、その文字起こしを翻訳したものである。ヘッジズの話は時に宗教的なレトリックに傾くので正直かなり翻訳しにくかった。ぎこちない文章になっているところも少なからずあるのであらかじめご了承を。(後尾のQ&Aの翻訳は省略した。文字起こしのテキストはCitizen Action Monitorに掲載されていたものを参考にさせていただいた。)


ChrisHedges "Fascism in the Age of Trump"(トランプ時代のファシズム)
2017年11月 The Sanctuary for Independent Mediaにて

こういうコミュニティが本当にあるんですね。これから私たちが直面する時代を考えると、私たちを支えてくれるのはこういうコミュニティです。情勢が悪化すると、エリートたちは、私たち一般人には入手できない快適な設備やサービス、警備が整ったゲート付きコミュニティに引きこもり、私たちは取り残されるでしょう。もうそうなっていますが。。。私の話しは、耐えている仲間のためであり、消費者文化の価値観を完全にひっくり返すことについてです。Martin Buber が理解していたように、私たちの公明正大さを保つ能力も、私たちの耐える能力も、私たちが隣人を支えていく能力として理解されるようになるでしょう。それが「サンクチュアリ」(聖域)の本当の意味ですよね。今日は、このような素晴らしい場所を提供していただき本当にありがとうございます。

01:17 — アメリカ帝国は終わろうとしています。アメリカの経済は疲弊しています。中東での戦争と世界中に軍を限りなく拡張した結果です。アメリカの経済は、財政赤字の増加とともに産業の空洞化とグローバルな貿易協定の壊滅的な影響が重荷になっています。我が国の民主主義は、企業に乗っ取られ、破壊されてしまいました。企業は次々と減税と規制緩和の拡大を要求し、大規模な金融詐欺の見逃しさえ要求し、同時に、救済措置という形で国庫から何兆ドルも略奪してきました。アメリカはヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの同盟国に協力させるだけの力も尊敬も失ってしまっています。それに、気候の変化による破壊の増大を加えると、ディストピア出現の処方箋を手にすることになります。

連邦政府と州政府のトップにあってこの衰退を統括している人々は、低能者、詐欺師、盗人、日和見主義者、戦争を煽る軍人などの雑多なうさんくさい人々の集まりです。そうです、これは民主党についてもいえることです。アメリカ帝国は、ドルが世界の基軸通貨の地位を失うまでは、着実に影響力を失いながらもなんとか体裁を保つでしょう。ドルが基軸通貨でなくなると、米国は壊滅的な不況になり、軍は一気に縮小せざるをえなくなります。広範な大衆の反乱が突発するようには見えませんが。死のスパイラルは止めることができそうにもありません。10年、長くても20年以内に我々が知っているようなアメリカ合衆国は存在しなくなります。

03:34 – そのあとに残るグローバルな真空はチャイナが埋めます。チャイナは既に経済的にも軍事的にも巨人となりつつあります。あるいは、多極世界になり、ロシア、チャイナ、インド、ブラジル、トルコ、南アフリカ、その他の数か国によって分割されるかもしれません。あるいは、歴史家アルフレッド・マッコイ(Alfred McCoy)が指摘したように、多国籍企業とNATOのような多国籍軍と、ダボス(Davos )やビルダバーグ(Bilderberg )で国際金融のリーダーを自称する人たちが超国家連合を築いて、国家や帝国に取って代わるようになるかもしれません。 [McCoy の: How America Will Collapse By 2025, を carolynbaker.net, April 17, 2013 で参照]

財政成長やインフラ投資から、スーパーコンピューター、宇宙兵器、サイバー戦などの技術的進歩に至るまで、あらゆる指標において、我が国は急速にチャイナに追い抜かれようとしています。2015年4月に、米国農務省は、アメリカの経済は向こう15年で50%成長するが、チャイナの経済は3倍になり、2030年にはアメリカをほとんど追い抜くと予測しています。チャイナは2010年に世界第2の経済大国になりました。同じ年に、百年間世界の工業生産を牛耳ってきたアメリカ合衆国を押しのけて、チャイナは世界一の工業生産国になりました。


05:19 — 国防総省は厳しいレポートを出しました。「At Our Own Peril: DoD Risk Assessment in a Post-Primacy World (自滅への警告:国防総省によるリスク評価、優位性を失った後の世界でのリスク)」によると、米軍は「もはや、敵対する諸国に対して確固とした地位を維持できない。距離を保ちながら局所的な軍事的優位性を自動的に一貫して持続的に作り出せない。」

マッコイは崩壊は2030年までに来ると予想しています。

05:55 — 衰退過程にある帝国は、ほとんど強引といっていい自殺に走ります。傲慢で、力を失いつつあるという現実に直面できないため、幻想の世界に逃避するのです。そこには、厳しい不快な現実はもう侵入しません。彼らは、外交、多角的な多国間外交や政治を、一方的で大げさな威嚇や戦争という鈍器で置き換えます。

06:27 — この集団妄想によって米国は史上最大の戦略的過ちを犯しました。それは帝国の死を告げる過ちとなりました。アフガニスタンとイラクの侵略がそれです。ジョージWブッシュ政権内であの戦争を画策した連中もメディアや学界で列をなして旗振り役を買って出た「役に立つ愚か者たち」も、侵略する国々について何も知らず、工業化された戦争の影響について驚くほどナイーブで、凶暴な反撃に不意を突かれたのです。

07:09 — 彼らは、サダムフセインが大量破壊兵器を持っていたと言い、たぶん信じてもいたでしょう。妥当な証拠がなかったにも関わらずです。彼らはバグダッドに民主主義が移植され中東に広がると主張しました。彼らは、米軍がイラクとアフガニスタンの国民によって解放軍として歓迎され、感謝されると一般大衆に請け合いました。彼らは、石油の売り上げが復興のコストをカバーすると約束しました。彼らは、大胆な電光石火の軍事攻撃(コード名=shock and awe:ショック・アンド・オー)が中東でのアメリカの覇権と世界支配を回復すると主張しました。しかし、結果はその逆でした。ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski)の意見では、イラクに対するこの一方的な、しなくてもよかった戦争はアメリカの対外政策が広く不当とみなされる原因となりました。

08:10 — 帝国を研究する歴史家たちは、このような軍事的失態(帝国末期に共通してみられる特徴ですが)を「ミクロ軍国主義」の例と呼んでいます。古代アテネはペロポネソス戦争(431-404 B.C.)の時にシシリアを侵略し、200隻の船と何千人もの兵士を失った上に、帝国中で反乱を引き起こしました。英国は1956年にエジプトによるスエズ運河の国有化に反対してエジプトを攻撃しましたが、早々と撤退するという屈辱を味わいました。その結果、エジプトのガマル・アブデル・ナッサーのようなアラブ諸国のリーダーたちを元気づけ、残り少ない植民地に対する支配も失うことになりました。どちらの帝国も再興しませんでした。新興帝国は、海外の領地を侵略し支配するとき、武力の使用に関して賢明な、理性的とさえ言える配慮を示すが、衰退途上の帝国は、なんとなく失った威信と力を回復してくれそうな、大胆で巧妙な軍事行動を夢見、配慮に欠けた力の誇示に走りがちだと、マッコイは書いています。

09:30 — 帝国の観点からさえも往々にしてばかげているこれらのミクロ軍国主義作戦は、出費がかさんだり、屈辱的な敗北で終わったりして、既に進んでいる衰退を加速します。帝国は武力だけでは他の国々を屈服させることはできません。神秘なオーラが必要です。この神秘なオーラは、帝国による略奪、抑圧、搾取を覆う仮面となって、現地のエリートを魅了し、進んで帝国に協力するエリートの獲得に、少なくとも、彼らをおとなしくさせておくのに役立ちます。それは文明的なマナー、さらには高貴さの光沢さえ与え、帝国の維持に必要な費用、血とお金を自国民に対して正当化するのに役に立ちます。

10:20 – 植民地で英国が見かけだけ再現した議会制政府のシステム、ポロ、クリケット、競馬などの英国スポーツ、さらに、凝った制服をまとった総督や王侯貴族の壮麗な式典の紹介は、植民地主義者が無敵と豪語した海軍と陸軍に支えられていました。英国は1815年から1914年まで帝国の統一を維持できましたが、以後は後退の一途をたどらざるを得ませんでした。

10:55 — 第二次大戦後の世界は、バスケットボールや野球、ハリウッド、アメリカ人自身の軍の神格化とともに、アメリカの民主主義、自由、平等についての勿体ぶった文言に魅了され、屈服しました。もちろん、裏ではCIAが汚い手口でクーデターを画策し、選挙をごまかし、暗殺、ブラック・プロパガンダ・キャンペーン、贈収賄、恐喝、脅迫、拷問を実行していました。

11:32 – しかし、どれももう役に立たなくなりました。アブグレーブのアラブ囚人に対する身体的虐待と性的屈辱の写真が、イスラム世界を激昂させ、アルカイダと後のISISによる新しいメンバーの募集を容易にしました。オサマ・ビン・ラディンをはじめとするジハード戦士のリーダーたちの暗殺(武装していなかったので暗殺と呼ばれた)は、アメリカの市民権を持つアンワー・アル・アワーキーの暗殺も含めて、法治という概念を公然と嘲りました。中東での何十万人もの死者と我が国の大失敗から逃れていった何百万人もの難民、軍用ドローンからのほとんど恒常的な脅威は、我が国がテロ国家であることを暴露しました。中東で我が国は、ベトナムで我が国を敗北に導いた米軍好みのいつものやり方、広範囲の残虐行為、無差別な暴力、嘘、致命的な誤算など、を繰り返したのです。

12:36 — 海外での残虐行為に対応して国内での残虐行為も増加しています。軍隊化した警察がほとんどの場合、武器を持たない貧困層の非白人を銃で撃ち倒し、刑務所や拘置所を一杯にしています。アメリカの人口は世界の5%でしかないのに、囚人はなんと世界の囚人人口の25%に達しています。Mass Incarceration, Visualized 参照

13:00 — 多くの都市が廃墟になっています。公共交通システムはめちゃくちゃです。教育システムは急激に衰退し、民営化が進んでいます。麻薬中毒、自殺、大量銃撃、うつ病、病的肥満が、深い絶望に陥っている住民を苦しめています。

13:23 — ドナルド・トランプを当選に導いた深い幻滅と怒りが―企業によるクーデター(民主主義の乗っ取り)と米国民の少なくとも半分を苦しめている貧困への反応ですが―民主主義が機能しているという神話を破壊しました。大統領のツイートとレトリックがヘイト、人種差別、偏見を祝福し、弱者や抵抗力のない人々をなじり、大統領が国連の演説で、他国を大量虐殺で抹殺すると脅しています。

13:56 — 我が国は世界中の笑いものであり嫌われています。未来への悪い予感はディストピア映画ブームに表現され、そのような映画にはアメリカの美徳や例外主義、あるいは人類の進歩という神話はもう見られなくなりました。神秘的なオーラを失ったことは壊滅的です。イラクやアフガニスタンで見たように、帝国を管理させることのできる従順な代理人を見つけるのが難しくなるのです。

14:31 — 帝国が放つ全能のイメージは、腐った構造のもろさを隠します。帝国の維持費が本国の能力を超えるような帝国の拡張は、システムを脆弱にします。財政危機のときには特にそうです。帝国の管理に煩わされない国は、自国の繁栄と基本的な安全保障のために資源をもっと費やすことができます。帝国にはそのような選択肢はありません。税収が減少すれば、帝国は分裂し崩壊します。主権国家の内部ではほぼ有機的に出現する資金源が帝国にはないので、帝国は絶え間なく略奪と収益を漁ることで有名です。大西洋の奴隷貿易、ベルギーのコンゴにおけるゴムに対する強欲、英国のインドにおける麻薬ビジネス、第三帝国によるヨーロッパのレイプ、ソ連による東欧の搾取などがその例です。McCoyによると、「力の生態系は非常にデリケートなので、物事が本当にうまくいかなくなると、帝国はとんでもない速度で崩壊するのが常です。ポルトガルはたった1年で、ソ連は2年、フランスは8年、オットマンは11年、大英帝国は17年で崩壊しました。アメリカは、イラクを侵略した2003年から数えて、たった27年で崩壊してもおかしくありません。」 [出典: The Decline and Fall of the American Empire: Four Scenarios for the End of the American Century by 2025, Dec. 6, 2017].

16:05 – ドルが世界の基軸通貨でなくなると、米国債の価値が大幅に下落するので、アメリカは下落した国債を売ることによって膨大な赤字を埋めることができなくなります。輸入品のコストが大幅に上昇します。失業が爆発します。McCoyが「どうでもいい問題」と呼ぶ問題をめぐる内戦が、危険な超国家主義を煽り、それがアメリカ型ファシズムに変化する可能性があります。

16:37 — 世界を席巻しているニヒリズムと怒りは、ゆがんだイデオロギーや中世的宗教的信仰から生まれたものではありません。これらの破壊的勢力のルーツは、現代化と消費者社会による社会的、宗教的伝統の破壊にあります。米国による政権転覆の悲惨な試みは、しばしばクーデターや戦争を通して、あるいは、少数の腐敗したグローバル大富豪に富を集中するだけの、ユートピア思想でしかない新自由主義イデオロギーを通して行われてきました。怒りは信用を無くしたエリートに向けられています。過去百年間にわたって行われた壮大な地球規模のソーシャル・エンジニアリングによって、Pankaj Mishraが「Age of Anger」に書いたように、何億人もの人々を説得して、何千年も続いてきた過去の世界を放棄し、時には軽蔑するよう仕向けました。そして、世俗的で、啓蒙され、文化的で、勇敢な現代人を作るというギャンブルをさせました。一握りのグローバル・エリートを除いて、それは見事に失敗しました。

17:59 – Frantz Fanonが「 The Wretched of the Earth(地球の汚物)」と呼んだ人々は、一貫性のあるイデオロギーも文化も剥ぎ取られ、過去から切り離されてしまいました。彼らは貧困に押しつぶされ、疎外され、希望を失い、恐怖におびえ、なにも感じることができなくなっています。大衆文化が彼らに提供するのは、けばけばしいもの、暴力、卑猥、ばかげたものです。彼らは、自分たちをさげすむ専門家集団が作る世界を破壊しようとする原始的な怒りに駆られて、現代化の力に立ち向かっているのです。 

18:35 — この怒りはさまざまの形で表現されています。ヒンズー・ナショナリズム、原始的な権威主義、ジハーディズム、キリスト教右派、無政府的暴力、その他の信念信仰がありますが、様々な形のレジスタンスは世界的な絶望という同じ深い井戸から湧き上がってくるのです。この恨みは、憎悪に満ちたナショナリズム、排外主義、狂信的差別主義、暴力を焚き付け、市民間の対話と感情に毒を盛り、基本的な市民生活の自由を攻撃します

19:14 — しかし、西洋のエリートは、グローバルな無政府化に対する責任を取らないで、自分に都合のいいように、衝突を、進んだ西洋と中世的な野蛮人との間の価値観の違いと定義しています。極端なナショナリスト、宗教的原理主義者、ジハード戦士に、力でしか鎮圧できない混乱した訳のわからない非合理性しか見ません。疎外された人たちは、我々の価値観のせいで私たちを憎んでいるのではなく、私たちの二枚舌のせいで、見境なく彼らの国やコミュニティに振るう大規模な工業力を背景とした暴力と我々の偽善のせいで、私たちを憎んでいるということを、西洋のエリートはいまだに理解できないでいます。

20:02 — すべてを剥奪された人々は、西洋からの真のメッセージ――我々はすべてを所有している。お前たちがそれを我々から取り上げようとしたら殺すぞ――を理解しています。西洋のエリートも攻撃されればされるほど、神話的な過去に、うぬぼれと頑固な無知に、「Make America great again」のような馬鹿げたスローガンで表現される超ナショナリズムの台頭に引きこもります。ムスリム教徒や不法移民労働者の悪魔化も、高まる国家の好戦的態度も、選挙結果を外国の介入のせいにしようとする試みも、不満の根本原因を隠すマスクとして使用されているのです。根本原因は深刻な社会的不平等であり、それは工業先進諸国ではアメリカが最悪なのです。

21:03 – 世界の人口の膨大な部分がグローバリゼーションによって見捨てられ、企業資本主義の時代にゴミ人間として扱われています。彼らの怒りは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、同じような大格差時代に見られた、無政府主義的な虚無的な暴力となって現れます。学校、教会、コンサートの会場、映画館などで立て続けに発生している銃乱射事件は、企業資本主義の設計者や理論家たちが世界中の労働者たちに提供してきた嘘に対する反発なのです。アメリカのそして世界の隅々にまで武器を浸透させた武器業界が煽ってきた嘘によって国内にテロリストが発生し、ボストン・マラソンで、サウスカロライナの教会で、テネシー州の軍事施設で、テキサス州の陸軍基地で、テロリストによる無差別殺人が行われました。

22:08 — グローバリゼーションの提唱者は世界中の労働者を中産階級に引き上げ、民主主義の価値観と科学的な合理主義を植え付けると約束しました。宗教的、民族的な緊張は緩和され根絶される、グローバル市場は平和で豊かな国々のコミュニティを作るという話でした。それには、政府の干渉を排し、進歩と合理性の究極の形態として市場の需要を崇め、その前に跪きさえすればいいという話でした。

22:43 – この馬鹿げたユートピアの名において、新自由主義は、かつてはハゲタカ資本主義の最悪の行き過ぎから市民を守っていた政府による規制や法律をはぎ取り、貿易協定を作って、税金を逃れるためにオフショア口座に会社のお金を移動できるようにし、仕事は、労働者が奴隷制度を再現する条件下で生活する中国や南方の悪徳労働搾取工場に移動できるようにしました。社会福祉制度と公共サービスは削減されたり民営化されたりしました。大衆文化は、学校やメディアも含めて、ますます絶望的になっている大衆を資本主義のグローバル・リアリティ・ショーに参加するように教え込んでいます。

23:33 – しかし、ゲームが八百長だとは誰も教えてくれませんでした。私たちがいつも負けるようになっていたのです。工場は海外に移転されました。例えば、GMは自動車とトラックの製造にメキシコの労働者を時給3ドルで雇います。福利厚生費は付きません。福利厚生費付きの労組賃金をもらっていたアメリカの労働者は捨てられ、賃金が低下していきました。労働者階級は貧困化していったのです。終わりのない戦争はもうかるビジネスです。世界の富はグローバル・オリガークたちに奪われました。

24:19 — 現在ワシントンに居座っているような泥棒政治家たちは国家の富を恥じることなく抜け抜けと奪っています。民主主義の掲げる理想主義は冗談です。私たちは通商とテクノロジーによって、ハンナ・アーレントが負の連帯と呼んだ力によってしか結ばれていません。

24:41 — 自称イスラム過激派による聖戦への現代的な呼びかけほどこのことが当てはまる事象はありません。彼らのほとんどは宗教的トレーニングを受けていません。多くは世俗の犯罪地下組織から出てきた人々です。ジハーディストのリーダー、アブ・ムスタブ・ザカーウィはイラクで虐殺のシェイフというニックネームを付けられていましたが、過激派ジハーディストになる前は売春のポン引き、麻薬密売人、飲んだくれでした。アフガン系アメリカ人オマー・マティーンは、フロリダ州オーランドのナイトクラブで49人虐殺しましたが、そこに頻繁に通って酔っぱらっているところを目撃されていたという話です。アンワー・アル・アウラキーはジハードを説いて回りましたが、最後は米国によって売春宿で暗殺されました。アブ・モハンムド・アル・アダニは殺されたときイスラミック・ステート(ISIS)の最高幹部の一人でしたが、西洋にいるムスリム教徒に、非ムスリム教徒に出会ったら手当たり次第に殺せと呼びかけました。具体的には、石で頭を勝ち割ってもいいし、刃物で切り殺してもいいし、車でひき殺してもいいし、高い所から投げ落としてもいいし、首を絞めても毒殺してもいいと言っていたのです。

25:50 – このような粗野で、あえて言わせてもらえば、深く反イスラム的な感情は、19世紀末のニヒリズムを特徴付けたバクーニンの「行為によるプロパガンダ」とはるかに多くの共通点があります。ビデオやライブストリームやソーシャル・メディアで更新され増幅される、この無政府的暴力は土着の信仰、伝統、儀式が破壊された後に残された空白を埋めるのです。Mishraが指摘したように、これらのジハーディストが示しているのは伝統的なイスラムの死であってその蘇生ではないのです。取り残されたことに対するこの怒り、この恨みがパリやロンドンやニューヨークのテロリスト攻撃の原動力となっているのです。ティモシー・マクベイが1995年にオクラホマシティでアルフレッド・マーラー連邦政府ビルを爆破して19人の子供を含む168人を殺し684人を負傷させた事件の原動力も同じです。マクベイがコロラド州フローレンスで投獄されたとき、隣の部屋にいたのがロムシ・アクムッド・ヨセフ、1993年にワールド・トレード・センターを最初に攻撃したグループの首謀者でした。マクベイが処刑されたあと、ヨセフは「これまでに彼ほど私の性格に似通った性格の人には会ったことがない」とコメントしています。

27:31 – 私たちと私たちの敵を区別するのがどんどん難しくなってきています。新自由主義によって行われた政治、経済、文化の破壊の結果として考えると、トランプは常軌を逸しているとは言えません。トランプの登場は、市場社会と資本民主主義が機能を停止した結果なのです。怒りと疎外感を抱く下層階級は、読み書きに取って代わった電子的幻覚に魅了されています。このようなアメリカ人は、彼らを食い物にする権力構造の伝統的な規則や儀式を軽蔑し、あからさまに無視するトランプのような扇動者にひねくれた、ほとんど悪魔的な喜びを感じるのです 

28:22 – 似たような民衆扇動家、例えばモディのような政治家が、インド、フィリピン、ポーランド、ハンガリー、その他の国々に登場しました。これは、人類の歴史を通して勃興し凋落していった69ほどの帝国の最後の段階でほとんど必ずと言っていいほど見られた特徴です。このような民衆扇動家や神話作りをする人々は、フォックスニューズその他の右翼系メディアで見かけますが、彼らは、真実をゆがめて歴史的、文化的な神話にしてしまいます。ラインホルド・ニーバーは彼らを西洋文明の取り澄ました狂信者(the bland fanatics of Western civilization)と呼びました。彼らは、まったく偶然の産物でしかない我々の文化を人類存在の最終的形態であり、規範であると思っています。無視されている現実は、現代化と植民地化の過程には、大量虐殺と気違い沙汰の大混乱が伴ったということです。資本家や植民地主義者の貪欲には、ミシュラが指摘したように、地理的空間が有限なこと、自然という資源が劣化可能なこと、エコシステムがもろく容易に破壊されることなどの制約要因に対する配慮が含まれたことはありませんでした。この地球規模での拡大と現代化を進めるにあたって、どんな形の無理強いも暴力もオフリミットではありませんでした。

29:53 – テロリストの攻撃、ハイジャックした飛行機を飛ばしてワールドトレードセンターに突っ込むような行動は、我々の道徳的世界の産物に敵対する人々が現代戦争のやり方をよく学んでいることを示しています。劇的な爆発、火の球、死を覚悟して飛び降りる犠牲者、マンハッタンにおける2つの巨大なタワーの崩壊は、まさにハリウッド映画そのものです。大都市のスカイライン上に広がる爆発と死が奇妙で効果的なコミュニケーションの形式であるということを、自爆ハイジャッカーは工業先進国以外のどこから学んだというのでしょうか。彼らは我々が教えた言語をよく習得しました。無辜の民に対する一方的で無差別な暴力の使用が声明を出す一つの方法であることを学んだのです。私たちはベトナム戦争で同様の爆弾メッセージを届けました。

31:04 – 国防長官のロバート・マクナマラは1965年に、北に対する飽和爆撃を、ハノイの共産党政権へのコミュニケーションの手段であると定義しましたが、それによって何十万人もの民間人が殺されました。我々はイラクでもアフガニスタンでも、シリアでも、パキスタンでも、ソマリアでも、そして、イエメンでは代理人のサウジを通してこの言語を話しています。ジハード戦士の最悪の残虐行為でさえ、その元をただせば、我々が世界を植民地化し、征服するために行った軍事行動にたどり着きます

31:45 — ウォーターボーディングという水責めを使ったのはフランスの植民地主義者でしたが、それはナチスから受け継いだ手法でした。私たちは、ソ連同様、心理的拷問を科学にまで高めて、秘密のテロ容疑者収容所や刑務所で使っています。ISISはこれらの暗黒の技のマスターたちを真似て、西洋の人質にガンタナモのオレンジ色の囚人服を着せ、スマートフォンのカメラをオンにしてから犠牲者の頭を切り落としました。十字軍がムスリム処刑に好んで使った方法です。

32:28 – 我々がイラク、アフガニスタン、リビア、シリアで政府権力を破壊して広大な領域を犯罪者集団やにわか作りの武装集団にわたすようなことをしないでおいたら、これらの過激派ジハード戦士が埋めた空白もできなかったでしょう。

32:49 — ジョージ・サンタヤナ(George Santayana)の予見では、アメリカの強迫症的、個人主義的な競争と模倣の文化は、やがて、「押し寄せる溶岩のような破壊力を持つ原始的な盲目と暴力」を扇動します。反省と自覚の能力の欠如は、「自己のカルト」と組み合わさって、集団自殺に導く可能性があります。カール・ショールスキー(Carl Schorske)は、『世紀末ウィーンの政治と文化(Fin-de-Siècle Vienna: Politics and Culture)』の中で、ヨーロッパのファシズムへの転落は、いったん「意識とのつながり」を切った後は避けられないことだったと書きました。いったん自分の邪悪な能力を認めることも理解することもしなくなると、いったん自分がわからなくなると、私たちは怪物になり、他者を飲み込み、最後には自分の身内をも飲み込むようになります

33:57 – 我々は、歴史の糞の山に何億人もの人々を捨ててきた代償を払わされているのです。現実を理解することも対処することもできないで、民主主義と西洋文明の名のもとに次から次へと戦争を起こし、それによって殉教者が増え、粉砕するはずの暴力に火を注いでいます。私たちは、アルバート・カミュが「自家中毒―自分が無能であるという先入観が有害物質として自己の殻の中で分泌される」と呼んだ病気に罹っています。この自家中毒に対処するまでは、怒りと暴力が、国内でも国外でも、拡大し、我々は世界の崩壊に向かってよろめきながら進みます。

34:49 — 人類の命を支えてきた地球という惑星システムの環境を破壊しようとしている現状に向かい合おうとしなければ、崩壊へのスローモーション・マーチは確実です。海と川は毒され魚がいなくなっています。山火事、干ばつ、洪水、大型ハリケーン、台風、津波、それに、上昇し続ける気温と北極南極の氷や氷河の蒸発が地球を荒廃させます。この環境破壊は社会構造の崩壊に拍車をかけ、移動を余儀なくされた難民の大移動を促進し、その結果、政情がますます不安定になります。

35:39 – 何もしなければ、地球の多くの箇所で完全なシステム崩壊が発生します。私たちの時代の最大の死活問題は、今すぐ私たちの前にある悲劇的な現実を受け入れ、抵抗する勇気を持つことを呼びかけています。それは、私たちになじみのある世界が、より厳しく困難になり、人間の苦しみが拡大すること、しかし、反撃すれば、つまり、荒廃を軽減するよう生活や社会を組みなおし、カーボンフットプリントを劇的に縮小すれば、全滅を逃れることができるかもしれないことを認めることです。権力エリートは私たちを救うようなことは何もしません。

36:40 – 「苦境に立たされた時に希望を持つことはただ単にばかげたロマンチックなことではないばかりか、人間の歴史は、残酷の歴史だけでなく、同情、自己犠牲、勇気、親切の歴史でもある。」とハワード・ジンは書いています。この複雑な歴史の中から何を選んで強調するかが私たちの人生を決めます。最悪のものだけを見るていると、私たちの行動する能力が破壊されます。人々が立派に行動した場所と時―たくさんあります―を思い起こせば、行動するエネルギーが出てきます。少なくとも、このコマのように回る世界を別の方向に動かす可能性が出てきます。我々がどんなにわずかでも行動すれば、偉大なユートピアの未来を待つ必要はありません。未来は現在の無限の継続です。我々の周りのすべての悪に抵抗して、我々が考える人類のあるべき生き方で今を生きること自体が素晴らしい勝利なのです。

37:59 – そう考えると、抵抗は道徳上、生存上不可避のものになります。抵抗には苦しみが伴います。自己犠牲が要求されます。破壊されることも厭いません。合理的ではありません。幸福の追求とは関係ありません。自由の追求なのです。抵抗するということは、失敗しても、抵抗に伴う内なる自由があることを受け入れることです。そして、これは私たちが知ることのできる唯一の自由と真の幸福かもしれません。悪に抵抗することは人が達成できる最高の業績です。それは、崇高な愛の表現です。それは十字架を背負うことです。そして、神学者、ジェームズ・コーン(James Cone)が指摘したように、背負っているその十字架の上で死ぬということを強く意識することです。抵抗する人々のほとんど– Sitting Bull, Emma Goldman, Malcom X, Martin Luther King –は、少なくとも、権力者の冷徹な計算上は、敗北しました。そして、コーンが指摘したように、抵抗の最後のそして多分最も重要な特性は、それが世界の価値体系を反転するということです。敗北から希望が湧き上がるのです。

39:34 — 抵抗する人々は、その代償に関係なく、はりつけにされた者の側に立ちます。これが彼らの偉大さであり、力なのです。同調することへの魅力ある勧誘―金銭、名声、表彰、気前の良い助成金、大きな出版契約、多額の講演料、重要な学問的あるいは政治的地位、公の発言の場―を抵抗する人々は拒みます。反逆者は成功をエリートと同じようには定義しません。抵抗する人々は、大衆文化や権力エリートの前に膝付きません。彼らは金持ちになろうと思っていません。権力者の内輪のグループに入りたいとも思いません。抑圧された人々の側に立つと、抑圧された人々と同じ扱いを受けるということに甘んじます。


40:33 – 世界の価値体系の反転は自由を可能にします。抵抗する人々が自由なのは、多くのことや高い地位を達成したからではなく、わずかなニーズしか持たないからです。彼らは、人々を拘束しておくために使用される足かせを切断します。これが、エリートが彼らを恐れる理由です。エリートは彼らを物理的に押しつぶすことはできますが、彼らを買うことはできません。権力エリートは抵抗する者の信用を傷つけようとし、収入のために苦しまなければならないように仕向け、社会の周辺に押しやって、公のナラティブから排除します。抵抗する者にはステータス・シンボルを与えず、従順なリベラル・クラスを使って、彼らが無理を言う非現実的な夢想家であるかのように描かせます。

41:30 – 抵抗は根本的に政治的ではありません。文化的なものです。人知を超えたものの中に、人生の矛盾の中に意味と表現を見出すことに関係しています。音楽や詩、演劇、芸術は、圧倒的な力に反逆することの高潔さを表現することによって、抵抗を支えます。圧倒的な力とは、古代ギリシャ人が‘Fortuna’と呼んだ、結局は決して克服できないものです。芸術は有害な悪を許さない人々の自由と尊厳を祝います。勝利の保証はありません。少なくとも、権力者が定義するような勝利は保証されません。しかし、反逆の行為一つ一つにおいて、私たちは自由なのです。

42:20 – ブルース、スピリチュアル、作業歌の生の正直さのおかげで、アフリカ系アメリカ人は耐えることができたのです。権力は毒です。誰が権力を行使するかは問題ではありません。反逆者はこの理由で永遠の異端者です。反逆者はどのようなシステムにも収まりません。反逆者は弱者の側に立ちます。そしていつでも弱者は存在します。不正義はいつでもあります。そして、反逆者はいつもアウトサイダーです。

42:59 – そして、抵抗にはたゆみない警戒が要求されます。権力者は恐れを感じなくなったとたんに、人々の監視の目がそらされた途端に、警戒を緩めた途端に、支配者エリートが彼らの目的を隠すためのプロパガンダや検閲を使えるようになった途端に、抵抗勢力によって勝ち取られたことが巻き返しを食らいます。組織して立ち上がり、資本主義エリートたちに排斥され、悪者にされ、殺された男女がニューディールで勝ち取ったことが一つ一つはぎ取られています

43:36 — アフリカ系アメリカ人の勝利、体を張って血を流すことによって「偉大な社会」を可能にし、合法だった黒人差別を終わらせた勝利も巻き返されています。企業が支配する国家権力は社会的不平等や白人至上主義に対処するふりさえしません。実践されるのは報復の政治のみです。強要、恐怖、暴力、警察テロ、大量投獄が主な社会的コントロールの形態です。私たちの抵抗組織は、さらから作り直さなければなりません。

44:19 — しかし、企業が支配する国家は、問題を抱えています。信用がありません。自由市場、グローバリゼーション、トリクルダウン経済で約束されていたことはすべて、嘘だったこと、貪欲を満足するための空虚なイデオロギーだったことがばれています。そして、エリートたちは、反資本主義、反帝国主義の評論家に対する反論を持ちません。選挙での反体制運動を、とてつもない社会的不平等のせいではなくロシアの介入のせいにしようとするのは悪あがきのごまかしです。    

44:59 — 権力に仕える人々も企業に仕えるメディアも日夜我々の目をそらすために躍起になっています。社会的不平等が不満の根源であることをエリートが認めざるを得なくなったとき、彼らがこの不平等を実現するために果たした役割を認めざるを得なくなります。アメリカ政府は、企業権力に従属するものとして、茶番劇を演じるようになったのです。法の支配の最後の痕跡が消えようとしています。国の富を食い物にする政治家たちが、野蛮人の大群のように略奪し、強奪しています。公益を保護するために設立されたプログラム―公教育、福祉、環境保護規制―は解体途上にあります。ブクブクに膨らんだ軍は、国家の骨の髄までしゃぶって難攻不落です。非白人の貧乏人が通りで射殺されても誰も罪に問われません。我が国の刑務所は貧困者で一杯です。そして、このカオスと機能不全を統括しているのは、P.T. バーナム(サーカス王)が政治家になったような大統領で、私たちがだまし取られて巻き上げられている間に、バーナムのフィージーの人魚のような奇怪な目くらましを次から次へと出してくるのです。

46:15 – このディストピア時代がもうすぐやってくると警告した芸術家、知識人、物書きたちは、Martin BuberやGeorge OrwellからJames Baldwinに至るまで、大勢いました。しかし、私たちのデズニー化された世界、うっとりさせる無限の画像、自己のカルト、故意の文盲の中で、私たちはその警告に耳を傾けませんでした。セーレン・キルケゴールは、西洋文明が破滅の道をたどるよう運命付けられたのは、情緒や感情移入から知性を分離したからであり、専門家集団が管理する社会では、魂や精神の出る幕がないからであると言いました。共同社会は粉砕され、公益という概念は跡形もなく消し去られました。貪欲が祝福され、個人が神であり、映画が現実で、物質的体験を超えるものや共同社会を可能にする芸術的、知的な勢力は見くびられるか無視されます。低俗な欲望が自己識別と自己表現の形式として祝福されます。進歩は技術的、物質的な進歩のみで定義されます。そして、これが集団的な絶望と不安を作り出し、消費者文化のアイドルのきらびやかさ、騒がしさ、偽りの約束と共鳴しあいます。絶望は深まるばかりですが、私たちは自分の実存的恐怖を決して認めません。キルケゴールが理解したように、絶望の特性はまさにこれ、絶望していることに気が付かないことです。

48:13 – 抵抗する人々は容赦なく自己批判します。彼らは厳しい問いかけをします。大衆文化が約束する、達成できない永遠の若さ、名声、金銭的成功がはぐらかす次のような質問です。生まれることの意味、生きることの意味、死ぬことの意味、意味のある人生を生きるには、正義とは、真実とは、美とは、過去が現在について語ることは、過激な悪を拒むには?


49:08 – 私たちは、キルケゴールが「死に至る病」と呼んだ、絶望による魂の麻痺状態に陥っていて、その先には道徳的および身体的な劣化が待ち受けています。「合理的な抽象的思考とよそよそしい冷淡な知性偏重主義に支配されている人々は、快楽主義に負けた人、むやみに権力や暴力、搾取的性関係を欲しがる人と同じだけ非道徳的である。」とキルケゴールは言いました。

49:35 — 救済は、身体と魂の限界、人間であることの限界を受け入れ、これらの限界にも関わらず、善を行うことを探求するとき達成されます。この正直さは、常に絶望の淵に存在することを意味しますが、キルケゴールの言葉では「恐怖におののく状態」に置かれることを意味します。私たちは決して天使になることはできないことを認める一方で、残虐なけだものにならないようにあがきます。私たちは行動しなければなりません。そして、そのあとで許しを請わなければなりません。私たちは、自分の顔の中に迫害者の顔を見ることができなければなりません。Paul Tillichは「罪」という言葉を不道徳な行為という意味で使いませんでした。彼は、キルケゴールのように、罪を離反と定義しました。Tillichにとって、それは最も深い実存的ジレンマでした。罪は人生に意味と目的を与える力からの離反でした。この離反は、大衆文化に食い物にされている疎外感、不安、意味のなさ、絶望感を助長します。私たちが内側に閉じこもり、利己主義と自己陶酔症で定義される倒錯した超個人主義を抱きしめる限り、私たちはこの離反を克服することはできません。私たちは、自分自身からも、他者からも、聖なるものからも分離されたままです。


51:14 — 抵抗は暗黒の力との闘いだけに関係するものではありません。それは、完全な人間になることです。離反を克服することでもあります。それは愛する能力、聖なるものに敬意を表すること、尊厳、献身・自己犠牲、勇気、自由にも関係します。過激な悪に対する抵抗は人間の在り方の最高峰です。
ご清聴ありがとうございました。